お父様の無茶振り
お久しぶりです!今日から第二章突入ですー!
遂に一人目の攻略対象が登場人物!マリアはフラグを折ることはできるのか?
「マリア、今日のお菓子も美味しいよ。これはなに?」
「チーズスフレよ。気に入ってくれた?」
「うん、ふわふわした食感が好きだな」
「よかったぁ。初めて作ったから不安だったんだ」
「姉上、この紅茶は?」
「リンがお友達からもらったの。前にこっちで育てたハーブあげたから、そのお返しだって」
「とてもいい香りです……どこの畑でしょうか」
「うーん……あとで聞いてみましょうか」
穏やかな昼下がり。六歳になったマリアは婚約者であるルーク、弟のユリウスと共に庭でお茶会を開いていた。そこに、パタパタと慌ただしい足音が近づいてくる。
「お嬢様、ユリウス様、ルーク様! 旦那様がお呼びです!」
「え、僕も?」
「はいっ! 全員、すぐ執務室に来るように、と……」
「わかったわ、行きましょう。ララちゃん、片付けお願い」
「かしこまりました」
後片付けをララちゃんに託し、私達はお父様の執務室へと向かった。
「お父様、お呼びですか?」
「あぁ、入ってくれるかい?」
「失礼します」
ルークが紳士にも扉を開けてくれる。中に入るとお父様の傍らに美少年が立っていた。
パンプキンオレンジの髪にエメラルドの瞳をした少年は、マリアたちより少し背が高い。しかしその顔は青白く、スラリと伸びた手足は細かった。
「彼はニコラス。今日から君たちの兄になる」
「はっ!?」
呆然とするマリアの代わりにユリウスが素っ頓狂な声を上げる。ルークもぱちくりとその目を瞬かせていた。
「ニコラス、ちょっと隣室にいてくれるかい?」
お父様の声掛けに、ニコラスは軽くお辞儀をして部屋を出ていった。それを笑顔で見送ったお父様が、扉が閉じた瞬間真顔になってマリアたちに向き直った。
「彼の旧姓はニコラス=レグリオン。かの剣豪、ルーカス=レグリオンの血族だよ。」
ルーカス=レグリオンは物語にもなるような大剣豪である。その剣技は神をも魅了し海を割ったという伝説の人だ。レグリオン家は彼の子孫であり、代々剣の達人を排出する名家である。名のある剣豪のほとんどはレグリオンの血が入っていると言われている。
神妙な表情で、お父様がぽつぽつと語った。
「二年前……彼が五歳の時、彼の一家は毒殺された。長年仕えていたコックが、大金で雇われて混入したそうだ。その依頼主はわからない、使われた毒さえ不明だ」
お父様はテーブルの上にあったお菓子と湯気のたっていない紅茶を指さした。
湯気は立っていないのに少しも減っていないのだ。少しは口にするのが貴族の礼儀だというのに、名家の息子がそれをしないということは、そういう事なのだろう。
「家族を目の前で失って以降、彼は人が調理したものが食べられなくなってしまった。彼の体を見ただろう?やせ細って、今にも倒れそうだ。ここ二年、親戚を転々としてきたそうなんだが、そのすべてのところで毒殺未遂事件が起きていてね……結局、この国じゃうちが一番安全かと思って引き取ったんだ」
うちはダンが全ての調理を引き受ける。給金は十分だし、福利厚生も万全。しかも屋敷のほぼ全員がお父様やお母様、先代に恩がある人達だ。金に目が眩んで毒の混入をするようなのはいないだろう。王城を除けば一番安全かもしれない。
紅茶をひとくち飲んだお父様がまっすぐにマリアたちの目を見つめる。予想通りの内容である。
「そこでね」
マリアにはもう、次の言葉がわかっていた。
「君たちが作って、彼に食事をさせなさい」
満面の笑みを浮かべて、お父様が言い切った。
*****
「…………何作ろう」
パタンと閉じた扉の前で、マリアたちは頭を抱えた。
「拒食症の人に最初からガッツリ食べさせていいのかな? え、お粥とかにした方がいい?」
「待って今調べるから」
「僕はまだ兄ができるという事実を受け止めきれてません」
ぐるぐると前世のレシピをスキルで表示し出すマリアに、比較的冷静に賢者の書を召喚するルーク、そして突然のことに戸惑うユリウス。三者三様に取り乱しながら、隣室にいるニコラスの元へと歩を進めていった。
「し、失礼します」
扉をノックし、そっと開ける。中にはぼぅっと宙を見つめるニコラスが椅子に一人で座っていた。中に用意された紅茶にはやはり飲まれた形跡がない。
「初めまして、ニコラス様……いえ、お義兄様! 私の名前はマリア。今日からお義兄様の妹になります!」
「初めましてニコラス様。僕はルーク=アラベスタです。マリアの婚約者なので、ニコラス様の義弟になります。よろしくお願いしますね」
「は、初めましてっ! ユリウスと申します!! 兄上と呼んでも!?」
ユリウスのテンパリ方がすごい。まぁそれはいいとしてニコラスはこちらを見て固まってしまった。それから何か言おうと口を動かすが、言葉は聞こえない。
「お義兄様、もしかして声が出ないんですか?」
ためらいがちに聞いたマリアに、ニコラスがこくりと頷く。マリアは少し逡巡したのち、椅子に座るニコラスの腕を掴んで立ち上がらせた。
「ちょっとついてきてください!」
「あっ、マリア!」
突然の行動に驚いたルークとユリウスが慌てて歩き出したマリアの背を追いかける。ニコラスが微かに抵抗を見せるが、弱った子供の力なんぞ怪力スキルの前では勝負にならない。体に負担がかからない程度に厨房までニコラスを引きずっていった。
「私たち、お義兄様の事情を聞きました」
厨房にいたジャッジたちを追い出して、マリアがニコラスに告げる。ただでさえ青いその顔からさっと血の気が引いた。安心させるように微笑んで続ける。
「なので、お義兄様がこの家のシェフを信頼出来るまで私たちがお義兄様の食事を作ります」
「……??」
「お義兄様はそこで見ていてくださいね! ユリウス!」
「はいっ?」
「マリア特製フルーツジュースを作ります!」
「わ、わかりましたっ」
ポカンとするニコラスを無視し、ユリウスに指示を飛ばす。ぴゃっと肩を揺らしたユリウスが慌てて家庭菜園中の庭へと走っていった。
「ルーク」
「ん、準備は出来てるよ」
「さすがね!」
〈ケース〉から母にもらったフリルエプロンを取り出して、装着する。
「それじゃ、楽しいクッキングを始めましょうか」
評価が1000ポイントを超え、ブクマが400を超えました!皆さん本当にありがとうございます!これからもマリアやルークたちの物語を見守ってくださると嬉しいです!
書き溜めできていないので更新がまったりになりますが、ぜひお付き合いください((*_ _)




