悪役令嬢、にじり寄る
第1章はこれでおしまいです〜
「わああ……っ」
渡されたワンピースにマリアは目を輝かせた。
くすんだ水色のゆったりとしたワンピースに、クリーム色のフリフリエプロンドレスが重ねられた一着。
後ろで結ばったワンピと同色のリボンと、四角いフリル襟がアクセントだ。
「素敵……!」
「私が作ったのですけど、マリアちゃんが貰ってくれますか?」
「えっ!? お義母様が作られたんですか!?」
「ええ、デザインもしましたわ。最初はルークに着させようと思って作ったんですけれど」
「母上!」
「えっ、見たかった」
「マリアまで!」
変な事言わないで! と抗議するルークに、お義母様が困り果てたように頬に手を当てた。
「この子ったら、魔法使ってまで嫌がるから……」
「当然でしょう! 僕は男です!」
「と、拒絶されたので思う存分、フリルを盛り直しましたの! もし良ければ着て見せてくださいな」
「着ます! ぜひ着させてください!」
ドストライクのワンピースに興奮し、お義母様のメイドさんにされるがまま着替えを終える。ワンピースだけかと思っていたら、同色のつけ襟にチョーカーにヘッドドレス、靴下やエナメルの靴まで用意されていた。いつのまにか髪もツインテールに括られ、顔の横でふわふわと揺れている。
「やっぱり似合いますわっ! とっても可愛らしいです!」
促され、その場でくるりと回ると、レースのついた裾がふんわりと持ち上がる。
なんとも言えないその可愛さに、マリアは興奮冷めやらぬまま義母の手を握りしめた。
「お義母様!! すごいです! 縫い目が細かい! 手縫いなのに型崩れしない! 着やすくて動きやすい! 素晴らしいですっ!!」
「わかってくださいますか!? ただの趣味だと言われますが、これでも真剣にやってるんですの! 型紙を描いて布を裁断して……楽しいのに、貴族の皆様に服を作る方はいなくて! マリアちゃんは裁縫の嗜みが!?」
「むしろ本職というかなんというか……! とにかく、このデザイン……! この色彩……っ!! お義母様は天才です! 私と一緒にブランドを立ち上げませんか!? いえ、立ち上げましょう!! もちろん、私もデザインいたします! むしろ案が有り余っております! もっと楽に縫える機械も開発しましょう!!」
「まああ! なんて素敵なお誘いなんでしょう! 喜んでお受けしますわ! 実は学生時代に学んだ経営学を持て余してたのです! こんなところで発揮できるなんて嬉しいですわ!」
この世界に転生し、初めてデザイナーとしての情熱が燃え上がる。これ以上ないハイテンションで畳みかければ同じテンションでお義母様が反応を返してきた。
前世の私はお金もなかったし、自分のブランドなんて立ちあげるのは夢のまた夢だったけど、今ならお金も時間もあるのだ。やる以外の選択肢などない。
「安定して布や糸を入手するルートと販売先を確保しないといけませんね。デザインや制作はそのあとですわ。店を出すなら店舗の場所も考えないと……その前にブランド名かしら?」
「出来ればあまり有名ではない商会がいいですね。情報の横流しでもされたらたまりませんから。販売先はお母様のコネを頼ってみます。仲のいいご婦人にかけあって試作品を流し、反応を見ましょう」
「もし懇意にしていただけるようならご友人にも紹介していただき、口コミで顧客を確保していくのがいいですわね。あぁ最初は子供服がいいでしょうか?布が少なくすぐ成長する子供のためなら新しいものも買ってくださるかもしれません。モデルはマリアちゃんとルークにしましょう」
「わかりました。それではお父様!」
「へっ!?」
流れるような会話に圧倒されていたお父様が、ぐりんと首を向けたマリアを見て一歩後ろへ下がる。その横にいたお義父様も、マリアとお義母様のただならぬ空気に顔を引き攣らせていた。
「今の話を聞いていただけたらおわかりですね? 私達はファッションブランドを立ち上げます! そのための布と糸の流通ルートをください!!」
「ダン様! ついにわたくしの趣味が報われる時が来ましたわ! いい商会を教えてくださいませ!」
キラキラした瞳で詰め寄ると、お父様がばっとお義父様の後ろに隠れる。
もうそんなに親しくなったのですね……娘は嬉しいですお父様。
後ずさる二人ににっこり( 後にルークはニンマリだったと語る )笑顔でじりじりと近づいていく。ちなみにお義母様も一緒ににじり寄っている。
「お、落ち着いてマリア!」
「サーラ、冷静になれ! 突然のことすぎて何がなんだかわからん」
絞り出された父たちの回答に、二人できょとんと顔を見合わせる。そして爽やかな令嬢スマイルを、怯えるお父様たちに向けた。
「わかりましたわ。なら、やることを紙に書きますから手配してくださいませ」
「ねっ、お父様?」
「ひぇ……っ」
「わ、わかった……わかったから」
そんな四人の様子を、隅っこでドン引きながら見ている人がひとり。
「……女性って、強い……」
父親とはいえ、国のトップを笑顔一つでビビらせ頷かせた自分の婚約者に、一種の恐怖を感じたルークであった。
*****
「それではお義母様、失礼いたします」
「ええ、また会いましょう。それまでに経営プランを立てておきます」
「今度は私の家に遊びに来てくださいね」
「楽しみにしてますわ」
ぱっと開かれた腕の中に飛び込み、抱擁を交わす。隣で疲れた顔をしたお父様たちが握手を交わしているが、はて、何か激しい運動でもしたのだろうか。
「またね、マリア。また遊びに行くね」
「あっ、待ってルーク! 指輪貸して」
「ん?」
私は差し出されたルークの手を取って、その指輪に自分の魔力を流し込んだ。
赤い宝石がキラキラと輝き、しばらくして光が収まる。成功したような気して、私は満足げに頷いた。
「何したの?」
「〈テレポート〉をかけた。これでいつでも私のとこに来れるよ」
「えっ」
ルーク以外の全員が固まった。もうマリアの規格外に慣れきったルークは突飛な言葉に動じることなく悪戯っ子のように微笑む。
「じゃあ僕も〈テレパシー〉をかけるよ。どうやればいいの?」
「指輪に魔力を流し込むの。それで〈テレパシー〉って唱えてみて」
「わかった」
マリアの手を取ったルークは先ほどマリアがしたように魔力を込め、呟く。
「……〈テレパシー〉」
マリアの指輪が光る。その輝きがだんだん小さく
なっていくころ、大人たちの意識が戻った。
「ちょ、ちょちょ何やってるんだい!?」
「お、おいルーク……冗談だろう?」
「やって見せますか? じゃあルーク、ちょっと離れて〜」
「はいはい」
「〈テレポート〉って唱えて〜」
「〈テレポート〉!」
瞬間、ルークがマリアの目の前に現れる。成功したことに安堵して、ふたりで笑い合った。
「次は〈テレパシー〉だね」
「少し離れてっと……どう?」
「うん、そのくらいで平気だよ。唱えてみて」
「〈テレパシー〉……聞こえる? ルーク」
「聞こえるよ。こっちも大丈夫そうだ」
マリアはテレポートでルークのもとまで転移して、ハイタッチをする。
「……うん、もう、わかった……」
「……くれぐれも、人前では使うなよ……」
大人たちが深いため息を吐いた。お義母様だけはにこにこと笑っているが、お父様とお義父様は濁った目で遠くを見ている。
そんな一幕を終えて、私とお父様は馬車に揺られながら自宅へと向かった。
次からは第二章になります!
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