悪役令嬢、義母と対面する
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ルークに手を引かれるまま、屋敷の中を歩いていく。美しい絵画が廊下に並び、センスのいい花が生けられた花瓶があちらこちらに置いてある。アンティークな柱の装飾もマリアの好みで、この屋敷をデザインした人とは趣味が合いそうだった。
「ねぇルーク、どこ行くの?」
行き先も告げず歩くルークに問いかける。
「母上のところ」
「…………はいっ?」
「母上が会いたいって言ってたから。いつかは会わせようと思ってけど、今日タイミングが合ったから……嫌?」
「嫌じゃないよ! 私としてもちゃんと挨拶したかったから」
「よかった。この部屋だよ」
ルークが足を止めたのは繊細な細工が施された白い扉の前だった。金のドアノブを捻り、ゆっくりと扉が開く。
椅子に座って刺繍をしていたのは、線が細く儚い雰囲気の美女だった。サラサラな茶色の髪は真っ直ぐ腰まで伸び、深い緑色の瞳はこちらを見て目を見開いている。
「母上、僕の婚約者をお連れしました」
ルークが私の手を握ったまま、美女の元へと歩いていく。つられるように歩を進め、義母となる女性の前で深くお辞儀をした。
「初めまして、マリア=セイントベールと申します。この度はご子息との婚約をさせていただきました。貴女様の許可を頂かなかったこと、お詫びいたします」
静かな空気にマリアの声が響いた。
ふと目の前の女性が立ち上がる気配がして、トンと肩に優しく手が置かれた。
顔を上げると、女性がにっこりと柔らかく微笑んだ。慈愛に満ちた瞳を見つめ返していると、その口がはく、と動く。女性は喉を抑えてもう一度、申し訳なさそうに微笑んだ。
「……? 声が……」
「そうなんだ。なぜか少し前から声が出なくなって……医者に見せてもわからないって」
「うーん……〈賢者の目〉で見てみたら?」
「見えるかな……」
ルークが〈賢者の目〉を発動させると、瞳にキラキラと光が混じっていく。もう詠唱なしでできるようになったらしい。
「魔力凝りみたいなのは、ないかな……」
「じゃあ別の原因? こういう時って何をしたら……」
言うと、胸元のブローチが煌めいた。直後、脳内に情報が流れ込んでくる。
「……聖魔法?」
「あっ、マリアの職業に聖職者あったよね? レベルもMAXだったはず……」
「でも私、呪文なんて知らないよ?」
「それはこれで調べるよ」
ルークが本を開くような動作をすると、ふわりと本が形作られる。勢いよくパラパラと捲られたページがぴたりと止まった。
「これ、読んでくれる?」
「えぇっと……『悪しき心を持つものよ、この声に応え、我が手の元に』」
伸ばした手のひらに魔法円が描かれる。
くるくると回るそれに吸引されるように、部屋の隅から黒い物体が飛んできた。
「わ、わわっ!? ……オ、オルゴール?」
「母上、これをどこで?」
「…………」
お義母様は部屋にあった紙を手に取って、さらさらとペンを走らせる
『誰からか送られてきたのです。聴いてみたらとても綺麗な音色でしたから……そういえば、声が出なくなったのはそれが届いた翌日ですわ』
「絶対これだわ」
「うん、これだ」
なんか禍々しいオーラも感じるし、これ絶対呪いの類だ。聖職者持っててよかった〜。
「取り敢えず壊せばいい?」
「うん。聖属性の魔力を流し込めば壊れると思う」
「了解」
オルゴールを握りこんで、手のひらに白っぽい魔力を集める。聖魔法の色は白だと思う、なんとなく。イメージが大事ってばっちゃが言ってた。
オルゴールの中に流し込み続けると、プチン、プチンと何かが切れる音がした。ついでパンッという大きな音が鳴り、慌てて手を開くとオルゴールが粉々に砕けていた。
「まあっ」
驚いたような声が聞こえ咄嗟に前を向くと、お義母様が口を押さえて目を丸くしていた。
「母上……声が」
「声が……声が出ますわ! 本当に治してしまうなんて……! ルーク、あなた素晴らしい婚約者を連れてきましたわね」
「は、母上、揺さぶらないでください」
「あ、あのー……」
「あぁ、申し訳ございません。声を治してくれてありがとうございます、マリア様」
「そんな、様だなんて呼ばないでください! マリアで結構ですから!」
「あら本当? ありがとう、マリアちゃん。わたくしのことはお義母様と呼んでくださいね」
「いいんですか!? もちろんですお義母様っ!」
「あらルーク、まだいたのですか? 早くダン様を呼んできてくださいな」
「……マリア、僕は行くけど、母上は変わってるから何かされそうになったら全力で逃げてね」
「うん? わかったー」
ものすごく心配そうな目を向けるルークにマリアは首をかしげながらもその言葉に頷く。
ルークが部屋を出ていくと、ガッと肩を掴まれた。
「お、お義母様……?」
「ああ、もう、なんて可愛いんですの! わたくし、ずっと女の子が欲しかったのです! 白金色のふわふわした髪! ルビーのような赤い瞳! 在りし日のオーウェン様とフィーリア様にそっくりですわね!」
むぎゅううう!! と抱きしめられて、ほっぺをスリスリされる。可愛い可愛いと撫でくりまわされながらも、マリアは義母へと質問を投げかけた。
「母と父をご存知なんですか?」
「ええ、同級生ですもの! 学生の時から大変仲がよろしくて……同年代の令嬢たちからは尊敬と羨望の目で見られていたんですのよ!」
「そうなんですか。両親はあまり自分たちの昔のことを話さないので……家ではイチャイチャしてますけど」
「あら、学生の時もそうでしたわ。周りの生徒が赤面してしまうほどでしたの」
娘の私でも恥ずかしくなるほどのラブラブっぷりだ。思春期の少年少女たちが見たら目も当てられないほどだっただろう。
「授業とかはどうでしたか?」
「お二人とも、とても優秀でした。オーウェン様は剣技に長け、武闘大会では常にトップスリーに入るほどの腕前でしたし、フィーリア様は魔法大会で優勝されるほど精密な魔力コントロールと膨大な魔力量をお持ちで、宮廷魔導師団にスカウトされた歴史最上の天才魔導師と称されてましたの」
予想以上だった。そりゃあ生まれた子供がチート能力持ってても「さすが私たちの娘!」で済むわ。むしろすっごい納得。
「あの……つかぬ事をお聞きしますが、両親は冒険者、だったり?」
「さぁ……わたくしは勉強しか取り柄のない普通の生徒でしたし、アクティブなことは詳しくわからないんですの。ああ、でも、ダン様なら詳しいかもしれないですわ。彼はフィーリア様と凌ぎを削ってましたもの」
「いつも決勝戦で負けていたがな……」
声が聞こえた方を振り向くと、安心したように苦笑したお義父様と笑顔でひらひらと手を振るお父様が立っていた。
「声、戻ったんだな」
「ええ、マリアちゃんが治してくださいました」
「仲良くなれたようでよかったよ。ところでサーラ殿? 随分、僕達のことを褒めてくださったようで」
「いえいえ、すべて事実ですもの」
「だが、ひとつ忘れていないかい?」
「はい?」
こてんと笑顔のまま首を傾げるお義母様に、お義父様が微妙な顔で呆れたように言った。
「何が『普通の生徒』だ。入学してから一度も学年一位を譲らず、卒業まで他の追随を許さなかった才女はどこの誰だ?」
「え」
「そんな昔のこと忘れてしまいました」
ほほほ、とお淑やかに笑うお義母様。なんということでしょう……ルークもさす息( さすが私たちの息子! )でした。チートにも程があるぜ。
というかなんでそんな最強夫婦なのに、ゲームじゃ計画に気づかなかったんだろうか。
昔話に花を咲かせ始めたお父様達の間をすり抜け、ルークの元へと歩いていく。
「変なことされなかった?」
「まさか。お母様とお父様の話を聞かせてもらったよ。お義母様とても優しい方ね。笑い方がルークにそっくり」
「……僕、あんな顔して笑ってる?」
「結構頻繁に」
「えぇー……」
ルークが渋い顔をしてお義母様の方を見る。つられてマリアも視線を向ければキラキラした目でこちらを見つめるお義母様と目が合った。
「そうでした、マリアちゃんにプレゼントがあるんです」
「プレゼント……ですか?」
「ちょ、母上……っ!」
「これなのですけど」
お義母様が棚の中から一着のワンピースを取り出した。
あと1話で第1章はおしまいです!
2章ではついに攻略対象が登場します。まだまだ続くマリアたちの物語を「もっと読みたい!」「頑張れ!」って言っていただける方は評価、ブクマをお願い致します! さびねこฅ^•ω•^ฅ




