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悪役令嬢は死にたくない。〜目指せ、完全無欠のハッピーエンド〜  作者: さびねこ。
第一章 悪役令嬢マリア(5)
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侯爵子息、果物をむく

婚約者VS.実弟

永遠に熱い戦いですよね

「あねうえ、これよんでくださいっ!」


「あねうえ、これどうぞっ。おいしいですよ」


「あねうえ! いっしょにおひるねしてくれますか?」


 朝から止まないあねうえコールに、ルークは今日何度目のため息を吐いただろうか。


 昨日マリアが回復させたばかりの義弟、ユリウスはマリアにすっかり懐いていた。マリアも弟が可愛くて仕方ないのか、にこにこと笑って彼の面倒を見ている。

 昨日の〈賢者の書〉のことは、既に義父上に話をしてある。「さすが娘の選んだ婚約者だ!」の一言で片付けられたのだが、マリアのステータスの時といい軽すぎないだろうか。



 ルークのステータスが判明した日、自宅で父親に報告した。そのとき、父の第一声は「……すまない、もう一度言ってくれないか」だった。ルークは自分の父の反応の普通さに安心した。これで「さすが私の息子だ!」とか言われたらちょっと怖いと思う。自分の出自を疑ってしまいかねない。


 なんとか話を理解してくれた父は、ルークに真剣な表情を向けて「なにか協力することがあれば言ってくれ」と言った。正直マリアのステータスがあればなんとでもなるような気がしたが、ルークは微笑んで了承の意を示した。

 大人しい母も「あなたに大切な子ができてよかったわ」と言ってくれ、早くマリアを連れてきてとせがまれてしまったほどだ。

 落ち着いたら来てもらう予定だったが……朝から見た様子だとユリウスもついてくるかもしれない。


「あねうえ、これきれいですね」

「これ? 可愛いでしょう、ルークにもらったの」

「……きのうのひとですか?」

「そうよー。かっこよくて可愛くて、私、とーっても大好きなの」


 可愛いというのは疑念が残るが、素直に大好きと言われると嬉しい。ちなみにルークはマリアたちがいる子供部屋のドアにもたれ掛かっている。入るタイミングを見計らっていたのだが、思わぬ収穫だった。


「ぼく……あのひと、すきじゃないです」

「あら、どうして?」


 疑問符を飛ばすマリアに、ユリウスは口を噤んでしまった。そのまま続く沈黙に苦笑しながらルークはドアノブを回した。

 嫌われている理由がわからないわけじゃない。マリアに言いたくないのもわかるから、少し助け舟を出そうと思った。これで少しでも心を開いてもらえれば……という打算が含まれていることは言うまでもない。


「マリア、お待たせ」


 にこやかに部屋に入ると、「ルーク!」とマリアが笑顔で駆け寄ってきてくれた。


「見て見て、今日はマジェステにしてみたの!可愛い?」

「うん、よく似合ってるよ。繊細な細工がマリアの細い髪にぴったりだね」

「そ、そう? ありがとう……えへへ」


 照れたように頬を染めて笑うマリアに愛おしさがこみ上げてくる。笑い返すと、ジト目でこちらを凝視するユリウスと目が合った。


「やぁユリウス。気分はどう?」

「……とてもいいきぶんでした」


 言外に「さきほどまでは」と言われている。ささやかな威嚇はスルーして、「それは良かった」と笑う。


「ねぇルーク、リン知らない? 姿が見えないの」

「昨日、マリアが目覚める直前まで一緒にいたよ? どこに行ったんだろうね」

「犬とかに餌と間違われて食べられたりしてないよね……」

「それはいくらなんでも失礼じゃない?」


 窓からひょっこり現れたのは大量の果物を抱えたリンだった。


「だれですか?」

「初めましてユリウス、ぼくはリン。妖精だよ」

「ようせいさんですか? ぼくはじめてみました」

「うーん、なんでこう、セイントベール家の人間は妖精への驚きが小さいんだろうね……まあいいや。はいこれ、ユリウスにお見舞い」

「わぁ、オレンジにブドウに……キイチゴまでこんなに沢山! よかったわねユリウス」

「妖精と隣人たちが頑張ってくれたよ。あとで水撒きに行ってあげようね」

「わかった。この木苺は私がもらっていい?」

「いいよー。元々そのつもりだったから」


 はい、と渡されたカゴを受け取ったマリアは、「ジャムが作れるううう!!」と叫びながらものすごい勢いで部屋を飛び出していった。


「あねうえ、どうしたんでしょう?」

「……ドウシタンダロウネー」

「ネー」


 首を傾げるユリウスに、ルークとリンは目を逸らしながら言った。マリアの奇行をどう誤魔化そうかと頭を捻っていたが、ユリウスはすぐに興味を失ったようでリンが持ってきた果物を弄り始めた。ルークは大粒のぶどうの房を一つとって、洗浄魔法をかけた。


「はい、ユリウス」

「はわ……」


 ルークからブドウを渡されたユリウスが一粒、房からもぎ取って、口の中に放り込む。口をもごもごと動かすと、その目が爛々と輝いた。次々とブドウを口に入れていき、ルークたちが止める頃にはハムスターのようになっていた。


「……〜! っ!!」

「美味しいのはわかったから、落ち着いて」


 ばしばしとベッドを叩いて美味しさを訴えてくるユリウスに苦笑しながらも、よしよしと頭を撫でる。「オレンジもいる?」と聞くと、ブドウを飲み込みながらもこくこくと頷いた。先ほどと同じように洗浄魔法をかけて、ナイフがなかったので風魔法で切っていく。実はそれが高度な魔法コントロールであり、リンの顔が引き攣っていたのをルークは知らない。


「どうぞ」


 差し出したオレンジにかぶりつき、ユリウスはにっこりと破顔した。なるほど、この表情はマリアによく似ている。


「……あなたのこと、ちょっとすきです」

「本当? 嬉しいな」


 昇格したみたいだ。ぼそっと告げられた言葉に笑顔を返すと、ぎこちなく微笑んでくれた。


「まだいる? 今度は梨でもむこうか?」

「……ルークも、どうぞ……」


 あにうえとは呼んでくれないらしい。ちょっとへこんだけど差し出されたブドウを一粒つまむ。果肉を噛むと、甘い果汁が溢れ出てきた。さすがは妖精の果実。芳醇な香りが口の中に満ちる。


「これ、すごく美味しいね」

「でしょー? みんなユリウスのためならって頑張ってくれたんだから、感謝して味わってよね!」

「ありがとうリン。ぼくもようせいさんにおれい、いいたい」

「いいよぉ、マリアも連れて一緒に行こうね〜」


 そう言ってユリウスの肩に乗るリンに、昨日会話した時のあの雰囲気は一切見当たらない。

 ルークはすっかりいつもの調子に戻ったリンに安堵しながら、カゴに転がる梨を手に取った。


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