悪役令嬢、状況を確認する
本日二話目の投稿です。
泣き疲れて眠るという精神年齢2X歳+5にとって恥ずかし過ぎる出来事を乗り越え、目が覚めてから一日が経った。昨日は検査とかで疲れてしまい、今日やっと絶対安静を条件に自由にする許可が出たのである。開放感と言ったらない。
「さて、と」
マリアは自分の置かれた状況を整理するためにまっさらなノートと鉛筆を構えた。
もちろん、人払いも済ませてある。
「もう完全に治ってるしお医者様にもお墨付きもらってるのに……三日間はベッドにいなくちゃいけないなんて、皆心配性ね」
つまらないなぁ、なんてボヤきながらもマリアは素直にベッドの中にいた。散々心配をかけたのだから仕方がないし、そもそも筋力が衰えていて少し歩けばすぐ脚が震えるのだ。リハビリが必要である。
そんなことを考えながら、マリアは頭の中の情報を目の前のノートに書き込んでいった。
まず、前世について。
20代前半で、服飾系の専門学校を出て、20歳で働き始めたはず。年齢=彼氏なし。
なぜか死んだ理由も自分の名前も思い出せない。
両親は交通事故で他界して、兄と双子の妹と弟がいた。両親が遺した遺産と兄と私の稼ぎで生活していて、妹と弟が高校生になったのを機に兄は結婚して家を出て行った。死んだ時は3人で暮らしてたはず。こちらも誰の名前も覚えていない。
「こんなもんかな……」
誰の名前も覚えていないのは不思議だが、まぁ仕様ということで納得する。困るものでもないし。
次に、現世について。
名前はマリア=セイントベール。王家の次に偉い公爵家の令嬢で、現在5歳。お父様は国の宰相。
そして転生先であるこの世界のシナリオ、乙女ゲーム「フロンティアスピリット」とは。
平民の主人公が、全魔力保持者の国民が通う魔法魔術学校に入学し、そこで出会うハイスペックキャラ達と恋に落ちるというものだ。これがゲームの名前の通り、なかなか心を開かないキャラ達を開拓していくという根気ゲーである。正直全ルート網羅はキツかった。
マリア=セイントベールはそのフロスピにおいて主人公のライバル、悪役令嬢として登場するキャラクターである。短気で我儘で暴力的なマリアは6歳の時、一目惚れした第一王子との婚約をゴリ押しし、婚約者となる。ゲーム開始とともに主人公へのイジメや嫌がらせなど権力を盾に躊躇いなく行っていた、紛れもない悪役だ。
ちなみにどのルートに行っても、最後がハッピーエンドだろうがバッドエンドだろうがトゥルーエンドだろうが最後には絶対死ぬ。改心して主人公と友人になるノーマルエンドでさえ主人公を庇って死ぬ。ファンディスクでも死ぬ。
「うーん……乙女ゲームを始めたら絶対死ぬやつだよね、これ。フロスピのシナリオから完全に外れないといけないやつだな」
どうしよう、危篤から回復して三日しか経ってないのに既に死亡する未来が見えている。
嫌な考えを振り払うように、マリアはブンブンと首を振った。現実逃避に、確認作業を続行する。
現実でのマリアは……といっても5歳までの記憶しかないが、結構ゲーム通りだったような気がする。我儘で乱暴で気に入らないことがあると泣くような、典型的なジャ〇アン気質の子供。
目が覚めてからの大人しく素直な私の様子に屋敷中の人間が目を丸くしている。
ゲームのマリアは幼い頃病にかかり、危篤になるがなんとか一命を取り留め、周りが甘やかした結果あの性格になった。が、現実では元の意識は消えかけて、前世の記憶が叩き起されている。
「今わかるのはこのくらいか……こうして見るとゲームとの相違点が多すぎて、本当にここがフロスピの世界なのかって思うわ……」
ここがフロスピであるという確信が欲しい。攻略対象に会うことなくわかる方法はないだろうか。
「……あ、そうよ! ここがフロスピの世界なら『ユグドラシル』の世界でもあるわ! ならきっとステータス表示があるはず!」
実は乙女ゲーム「フロンティアスピリット」は、総合ゲームソフト「All ROUND」の中に収録されているものの一つである。
トランプゲームやチェスにオセロ、将棋に囲碁、花札などコインやレア素材集めのための多種多様ミニゲーム「パーフェクト」
牧場や農場で妖精とともに家畜と作物を育て、加工・出荷を行う農場・牧場育成ゲーム「フェアリーファーム」
オリジナルからカバー曲までを網羅したリズムゲーム「Music Music」
そして乙女ゲーム「フロンティアスピリット」
その元となる剣と魔法の世界で依頼を達成しながら進める冒険譚、本編RPG「ユグドラシル」
前世での兄弟たちと手分けしてクリアしていた「All ROUND」は、娯楽にお金が割けない日々の中で一番の楽しみだった。手に入れた瞬間から空いた時間は「All ROUND」につぎ込み、お金に余裕が出来ては課金することもあったほどだ。
主に兄がプレイしていた「ユグドラシル」は典型的なオンラインRPGである。マリアは前世の動作を思い出して、空中に手をかざした。
「えーと……〈ステータスチェック〉!」
ブゥン、という音とともに、目前にタッチパネルようなものが出てきた。
「……おぉう」
いやもう、驚いてそれしか言えない。
確かに、確かにね? 確かにゲームでもこうだったけどね? ホントに出てくるとは思わないよね??
「マジでか……と、とりあえず私、何レベなんだろ……って、え」
その文字を見てピシリと固まる。
「な、な、なにこれええええっ!?」
快気祝いのパーティ準備で慌ただしい公爵家屋敷に、マリアの悲鳴が轟いた。
今回の話はゲームの説明が主になります。
わかりにくいのでまとめです。
『All ROUND』
RPGを主に多種多様なゲームを収録したソフト。
ゲームの種類は
・本編RPG「ユグドラシル」
剣と魔法の世界を依頼を達成しながらの冒険譚
・乙女ゲーム「フロンティアスピリット」
ユグドラシルの世界にある学校での恋愛劇
・多種多様ミニゲーム「パーフェクト」
トランプゲームやチェスにオセロ、将棋に囲碁、花札などコインやレア素材集めの短編ゲーム集
・農場・牧場育成ゲーム「フェアリーファーム」
牧場や農場で家畜と作物育て、加工・出荷を行うゲーム。出荷品のサイズを競うコンテストでは優勝者にレアアイテムと限定スキルが贈られる
・リズムゲーム「Music Music」
オリジナルからカバー曲までを網羅したリズムゲーム。開催されるイベントで獲得した称号や限定スキルは「ユグドラシル」に反映される
というラインナップになります。
皆さんはどれを遊びたいですか?