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悪役令嬢は死にたくない。〜目指せ、完全無欠のハッピーエンド〜  作者: さびねこ。
第一章 悪役令嬢マリア(5)
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侯爵子息、恋い焦がれる

お久しぶりです。テストが終わりました。

「ルーク」


 名前を呼ばれて、ルークは意識を現実に戻した。

 マリアが意識を失い、屋敷中がバタバタしているなかで今の自分に出来ることはないと悟ったルークはセイントベール家の別邸にある、本邸よりは少し小さな庭へと出てきていた。

 マリアと初めて会ったのも庭だから、つい思いを馳せてしまったのかもしれない。


 ルークはそんな考えを追い払って、声がかけられた方に向き直った。


「リン……マリアの容態は?」

「命に別状はないみたい。ただ、いつ目が覚めるかはわからない」

「……どういうこと?」

「マリアの魔力回復スピードは早いけど、使ったことのない魔法を連発すればそれなりに消費する筈なんだ。〈テレポート〉や〈ヒール〉なんて上級魔法もそうだし、アビリティの魔法威力精密調節も無意識下で使ってる。緊張もしてただろうから気疲れで倒れたんだろう。だけど、そこでイレギュラーが起こった」


 淡々と話すリンに、ルークは自分の中で情報を整理しながら話を続ける。


「イレギュラー?」

「マリアは夢を見てる。それもこれから起こることの」

「それは、まさか……〈夢見〉?」


 〈夢見〉とは特殊スキルの一つだ。未来に起こることを夢で予知する未来視の力。その力を持つのが何者であろうとも王宮に引っ張られほぼ強制的にその力を国のために使わされる。

 もしマリアがそうなら聖女と崇められ、自由などなくなり、結婚なんてもってのほかとなるのだ。


「違うよ。マリアはそんなスキル持ってない。ぼくから聞くより本人に聞いた方がいいよ」


 リンの返答に戸惑いながらも少し安心し、ルークは抱えていた疑問を投げかける。


「なんでリンは、そんなこと知ってるの?」


 リンの表情が少し強ばったような気がした。それからルークの瞳をじっと見て、静かに口を開いた。


「あのね、ルーク……ぼく、ぼくはね、実は……」


 リンに告げられた言葉にルークは眼球が零れるかというほど大きく目を見開いた。


 *****



「……リンの事情はわかった。大丈夫、その時が来るまでは僕と君の秘密だ」


 その内容に衝撃はある。でもそれを誰かに言ったりは絶対にしない。リンはマリアを守るために僕にそれを話したのだろうから。


「ありがとう、ルーク」

「いや、いいんだ。僕も、自分の願いがわかったから」

「願い?」

「うん、僕は……マリアを、守れるようになりたい」


 青い空を仰ぐように見上げ、祈るように目を閉じる。


 マリアは優しくて、誰かのためなら自分を犠牲にしても人を救う人だ。臆病になっていた僕の心を温めてくれたように、ユリウスの体を治したように、人のために自分が傷つくことを厭わない。彼女は強いけど、その分どこか危なっかしく、脆いと本能で感じる。


「マリアが傷つかないように、誰かの身代わりにならないように、一人で背負い込まないように……僕を、頼ってもらえるように。僕は強くなりたい。マリアを守るための力が欲しいんだ」


 彼女を失わないために。


 そう呟いた途端、自分の目の前が眩いほどに光った。次いで魔法陣が現れ、小さい芽が出て、どんどん成長していく。

 突然目の前に現れた木はルークの頭より少し大きいくらいに育ち、止まった。その中の一番太い枝に二つの赤い実が実っていた。


「こ、これ……」

「おめでとうルーク。これは君の知恵の樹だ」


 リンの言葉にルークは呆然と急に生えた木を見つめた。それほど大きくない木を軽く見上げ、実る果実をそっともぐ。簡単に取れたそれは林檎に近い形状で、フルーティーな香りからしても似たようなものだと思う。実をもいだ木は空中に溶けるように消えてしまった。


「やっぱりルークはふたつ実らせたね」


 満足そうににこにこと笑うリンにどういうことかと視線を向ける。リンは笑顔のまま「僕の話を思い出して」と言って、ふわりと庭から出ていってしまった。ひとり残されたルークは手元にある果実を眺めながら記憶を辿っていく。


 やっぱり。と言うならリンはルークがふたつ実らせることを予想していた。リンが知っていて、かつルークが親しくしている人などセイントベール家しかない。そうなれば、この実を渡すのはマリアしかいない。

 かつてこの王国を築いた勇者パーティがこの実を食べ、知識を共有したならマリアも同様にルークと共有できるはずだ。それはこれから共に道を歩んでいく中でとても大きな力となるだろう。あとは、この実をマリアが受け取ってくれるか、だ。



 以前、セイントベール邸でマリアの母や父から〈知恵の樹の実〉について話を聞いたあと、自宅にて初代賢者に関する書物を探したのだ。まぁアラベスタ邸の地下にある書物庫は図書館に匹敵する蔵書量なのだが……初代アラベスタ当主がかけた血族に継承されるタイプの検索魔法のおかげで探すことはさほど難しくない。


 いくつか弾き出した本の中の一冊、『国の歴史と大賢者レオトールの一生』というものに書いてあった話は大体は子供の頃散々聞かされた絵本の内容であった。


 かつて、国は魔王が支配していた。国民が瘴気に支配される中、一人の青年が仲間たちと共に魔王討伐へと立ち上がった。彼らは苦難を乗り越え魔王を倒し、国は平和を取り戻して、国民から勇者一行と崇められたというものだ。

 のちに勇者と、魔王に殺された前王の娘であり、共に魔王を倒した〈治癒の巫女〉と呼ばれた姫君は結婚し、新たに国を築いたというものだ。

 それ以降、ルークたちが生きるこのキャプタル王国は勇者の子孫である王家のもと、繁栄を続けている。


 長い長い鈍器のように分厚い本に書いてあったことを総括すると、同じ木から実った〈知恵の樹の実〉を食べた者は血より深い絆で結ばれる、という一言で完結できる。


 念じれば相手の居場所がわかり、繋げようと思えば思考回路だって繋げられ、複合魔法や治癒魔法などの成功率や威力も格段に跳ね上がる。これがあったから魔王に勝てたと言っても過言ではない。


 ただ、それを食べた者は結婚がしにくくなる。

 食べたのが同性ならそこまで問題にはならないが、結婚相手が自分以外の異性と血より深い絆で結ばれた上、居場所も思考もわかるとなれば気分のいい者などいないだろう。


 〈知恵の樹の実〉を発動させた歴代の賢者たちは同性と食べるか、食べた異性と結婚することがほとんどだ。ちなみに大賢者レオトールは勇者の妻である姫君に叶わぬ恋をしていたらしく、生涯独身を貫き惜しまれながらもその血を残さなかったという噂である。


 そういうわけで、ルークはマリアにその実を食べさせることに躊躇いを感じていた。もしもマリアが心変わりし、違う人との結婚を望んだとき(相手の寛容さにもよるが)それができなくなる可能性が高い。彼女の人生を縛りつけていいものかと、ルークは自分も同じ状況になるということを忘れ、その年齢離れした心配に頭を抱えたのだった。


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