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悪役令嬢は死にたくない。〜目指せ、完全無欠のハッピーエンド〜  作者: さびねこ。
第一章 悪役令嬢マリア(5)
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悪役令嬢、高位魔法を連用する

お久しぶりです。インフルエンザで寝込んでました。

「助ける?」

「そうよ、助けるの。このままだと、弟は必ず死んでしまうわ」


 そうだ、何もしなければ確実に死ぬ。もし、ゲームのマリアが助けようとしても無理だろう。が、今の私は前世チートを持っているのだ。


「お父様は準備と言っていたけど、きっと馬車の用意に時間がかかってる。そんなの待ってられないわ」


 危篤状態に陥ったのは昨日。先程、というのがどれくらいか分からないが、ルークが来た昼頃よりも後だろう。廊下ですれ違った時のお父様は普通だった。

 昨日の夜十二時に手紙を出したとして、今日の昼過ぎに屋敷に辿り着いたということは馬に乗っても十二時間はかかる。


「四歳の子どもが危篤に陥って、二十四時間耐えられる?」

「いや……読んだ文献にはそんな記録、なかったと思う。確かにマリアの言う通りこのまま馬車で行けば間に合わないね」

「だから、何とかして時間を短縮しなくちゃ……でもどうしたら」

「マリアの〈テレポート〉はどう?」

「それは私も考えたわ。だけど、私が一度行ったことがある場所にしか行けないみたいなの。お菓子作りで使った厨房には行けたのに、ララちゃんの部屋には行けなかった」


 私は別邸に行ったことがない。〈テレポート〉で別邸に行くことはできない。


 打つ手がなくなり、二人で頭を抱える。しばらく考えていると、ルークがふと思いついたように呟いた。


「人は?」

「え?」

「人だよ! マリアは行ったことのない場所に行けない。それなら会ったことのある人のもとには行けるんじゃないかな?」

「そ、か……もしそうなら、別邸にいるお母様の所に転移できれば!」

「試す価値はあるはずだ。とりあえず、部屋の外から僕のそばに」

「ええ!」


 マリアは駆け足で部屋を出て、一度ぱたりと扉を閉める。それから目を瞑って、言う。


「……〈テレポート〉」


 浮遊感。次に感じる、温かい手の温度。


「……ルーク」

「うん、僕だよ。成功だ」


 まぶたを開けると、目の前にはルークの顔。ルークは満足そうに微笑んで、マリアの手をさらに強く握った。


「次は、二人同時に転移できるか試してみよう。体調は大丈夫?」

「うん。まだ魔力量には余裕があるみたい」


 何ともないわ、と笑えば心配そうにしていたルークが少し安心したように息を吐いた。


「それじゃあ、義父上のところへ」

「わかった……行くよ」

「うん」

「……〈テレポート〉」


 さっきと同じ浮遊感がマリアを襲った。


「マリア!?」


 お父様の声が聞こえて、成功したことに安堵する。隣を見ればルークが立っていて、驚いたようにきょろきょろと辺りを見回していた。


「マリア、ルーク!? 君たちいったいどうやってここに……っ!?」

「お父様、行けます! 今すぐお母様のところへ!」


 魔力もそんなに減っていない。一人より消費量は増えたが、元の魔力量が桁外れなのか大した脱力感はない。

 マリアに説明させるのは困難と判断したのか、父がルークに顔を向けた。


「マリアの〈テレポート〉です。場所限定だとマリアは思っていたみたいですが、特定の人物を目的地にしても対応できます。手を繋いでいれば複数人での転移も可能かと」


 こんなふうに、とルークがマリアと繋いだ手を掲げた。一瞬驚いた顔をしたお父様も、先程のマリアの発言を理解し、そばにいた使用人たちに指示を飛ばした。


「僕は一足先に別邸へ行く! 皆は馬車で来て欲しい!」


 一斉に返事をした使用人たちがバラけたところで、マリアは父の手をきゅ、と握った。


「行きますよ、お父様」

「あぁ、フィーリアと……我が息子、ユリウスのもとへ!」


 次の瞬間、部屋から三人の姿が消え去った。


 *****


「っ、あなた!? マリア!?」


 お母様の叫び声に閉じていた目を開ける。固まったお母様、大勢のメイドと医者が一様にこちらを見つめ、突然現れた三人に困惑しているようだった。


「この子が……私の、弟」


 お母様が座る椅子の前にある大きなベッド。そこに横たわる小さな男の子。儚げな彼は今にも死にそうな青白い顔をしている。


 マリアは一つ、大きく息を吐いて、至極冷静な口調で言った。


「お医者様、この子の病状を教えてください」

「え、あの……」

「マリア……?」

「お母様、このままではこの子は確実に死にます。お医者様もそれはわかっているのでは?」

「っ、そ、それは……」


 悔しそうに唇を噛みながら、お医者様が目を泳がせた。この中で彼が一番、弟が危険な状態であることは分かっているはずなのだ。


「弟の、病気を教えてください」

「……わからないんです」

「は?」


 ずっと黙っていたルークが声を上げた。私だって驚いている。病弱で四年も医者にかかっていたのになぜ病気がわからないのか。

 開いた口が塞がらないマリアの代わりに、ルークが訝しげな視線を向け、問うた。


「どういうことです、あなたは医者では?」

「確かに医者です。私だけでなく他の者もわかりませんでした。魔力切れに近い症状ですが、回復せず、その状態がずっと続いてる。魔力がないから治癒魔法も施せないのです」


 目眩がした。弟を助けたい気持ちに変わりはないが、何人もの医者が手を尽くしてもわからなかった病気をなんの知識もない私がわかるのだろうか。ルークも同じ気持ちだったようで、何か言いかけたものの押し黙る。


「ルーク、〈賢者の眼〉を使うんだ」


 沈黙に、鈴のような声が転がった。

 ちりんという音を鳴らしながらひらひらと現れた光はマリアの弟、ユリウスを指さしながら言った。


「リン!?」

「ユリウスが心配で着いてきちゃった」


 この子も、〈妖精の愛し子〉だからね。

 そう言ってリンは微笑み、横たわる弟の頬を撫でた。


「ルーク、君の〈賢者の眼〉を使うんだ。万物を見通すその目ならこの子の状態もわかる」

「でも、僕なんかの能力じゃ……」

「……ルーク、お願い。この子は私の弟で、あなたの義弟にもなるのよ」

「……わかった。マリアが、そう言うなら。……〈賢者の眼〉」


 唱えると、ルークの瞳がキラキラと光を帯びた。深い蒼の瞳に光が瞬いて、まるで海に散りばめられた星みたいだと思った。


「……魔力の、流れが見える」

「え?」

「僕やマリア、皆の魔力は心臓の反対側……魔力核を中心にしてぐるぐる体内を巡ってる。けど、この子の魔力は全身に回ってない。核の周りに糸みたいに絡みついている」


 ルークはそばにあった毛糸玉を手に取って「これみたいに」と言った。

 マリアは弟の右胸に手を当てた。ほんのり感じる温かさがこの子が生きていると実感させる。


「魔力は……ある。感じるわ。でも治癒魔法は効かないんですね? お医者様 」

「そ、そうです。治癒ができないんです」

「……いいえ、マリアならできるわ」


 そう言って、お母様が微笑んだ。その声もお父様に支えられた肩も震えているのに、だ。


「なにか、策があるのよね?」

「……私は、治癒魔法が使えます」

「治癒魔法なら私どもが何度もかけました! ですが、なんの効き目もなかったのです!」

「ええ、"普通の"治癒魔法なら、効かないでしょう」


 私が持つ魔法は治癒魔法〈ヒール〉だ。

 聖職者を極めた兄が得た、治癒魔法〈ヒール〉はそこらへんの魔法とは違う。普通の治癒魔法は患者の魔力を引き出して自己再生させる。だからこそ、弱りきって魔力のない体に治癒魔法は使えない。それは魔力が固まってても同様だ。けれど、〈ヒール〉は術者の魔力を流し込むことで治癒を行う。それは患者に関わらず、術者の能力によって左右される。


 そんな知るはずのない知識をマリアが持っているのは、自分の能力だからなのだろう。


「ルーク、魔力の流れを見ていて。この子の魔力をほぐすわ」

「うん、わかった」

「ありがとう……今、お姉ちゃんが助けるからね、ユリウス」


 青白い頬を撫で、ふわりと微笑む。マリアは目を瞑りもう一度ユリウスの右胸に手を当てた。


「……〈ヒール〉」


 ライトグリーンの光が、ユリウスの胸元に輝いた。

 ドーム状の光がポゥ、とその体を包み、揺れる空気にマリアの髪が舞った。


「これは……!」


 お医者様が驚愕といった声を上げる。

 お母様とお父様は身を寄せあって、私とルークを見ていた。


「マリア、ゆっくり、落ち着いて……僕がいるよ、大丈夫」


 ルークが優しく背を撫でてくれる。

 毛糸玉をゆっくりとほぐすように、絡まった糸を解くように。ゆっくり、ゆっくりと魔力を流し込み、ユリウスの体を魔力で満たしていく。


「……っ、ユリウス!!」


 ぴくり、とその指先が動いた。お父様が駆け寄って、その小さな手を握る。やがて聞こえてくるのは小さな呼吸。先程までの浅い呼吸じゃない、深い吐息。


「……ぅ」


 小さな、小さな呻き声が聞こえた。


「ユリウス! ユリウス!!」


 お母様がぼろぼろと涙を零しながらユリウスを撫でる。私はまだ解けきってない魔力核に自分の魔力を流し続けた。


 同じ両親から生まれたからか、マリアの魔力はユリウスに馴染んだ。だんだんと解れてきたユリウス自身の魔力が溶け始め、染み出すように体を巡る。





「……っマリア!」


 ルークの声が聞こえた。

 ハッと目を開けて、状況を確認する。

 目の前の弟が薄く、その瞳を開けていた。

 そばに立つお母様とお父様が泣きながらユリウスに触れている。


「これは、なんという事だ……」


 愕然とした様子で呟くお医者様が、信じられないというようにマリアを見つめた。

 緊張からか脱力感がマリアを襲いその視線に答える気にはなれない。「お疲れ様」と頭を撫でてくれたルークに少し寄りかかって、問いかける。


「ルーク……ユリウスの魔力は……」

「大丈夫、ちゃんと体を巡ってるよ。君の魔力も取り込んで生命力に満ちてる。この状態で死ぬことはまずありえない」

「よかっ、たぁ……っ」


 安心したのだろうか、ふっと目の前が暗くなり、体から力が抜ける。「マリア!?」というルークの声を最後に、マリアは意識を手放した。

先日、誤字脱字報告をいただきました。すべて修正致しました。ご指摘ありがとうございました。これからも精進してまいりたいと思います。これからもよろしくお願いいたします。

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