悪役令嬢、ふらつく
お久しぶりです!
あれから屋敷中をルークに案内していたら、あっという間に時間が過ぎてしまった。迎えがきたルークが数日後に会いに来るという約束をしてくれ、ルークに会えない悲しみに眠れない日が続き、今日に至る。
だが、今日は楽しいお茶会ではない。
ルークが聞いたアラベスタ侯爵家没落計画についての対策会議をするのである。
ルークはフロスピのゲーム内でお助けキャラとして人気がとても高かった。けれど『ALL ROUND』として売り出したためにルークを攻略する続編などは発売されなかったのである。ちなみにファンディスク(こちらでもマリアは死ぬ)のルートはお遊びの逆ハーレムエンドのみである。
それでも諦めきれなかったプレイヤーの熱意に押され、考えに考えた公式が出したのが、ゲームではスポットが当たらないキャラ達を書いたスピンオフ……言わばノベライズだった。
そこでは人気はあるが攻略できないキャラ達の私生活や過去などが綴られていて、キャラ一人につき一冊という贅沢な品だ。
もちろん前世のマリアは購入したし、読んだ日にはルークの尊さに小説を拝み倒したものである。
しかし、今のマリアは何故かその小説の内容を覚えていない。正直言えばルークがモブであるフロスピ本編より小説の方が覚えていると思っていたのだが……どうも違ったらしい。攻略対象のことは隅々まで覚えているのに小説の内容は何も覚えていないのだ。これでは未来視チートが使えない。
「お嬢様、ルーク様がいらっしゃいました」
「来てもらって」
マリアがいるのは例のごとく自室である。
今回は周りに話が漏れないよう配慮しなければいけない案件だ。ルークが部屋に入ったら人払いをするようララちゃんには言ってある。
「こんにちは、マリア」
「こんにちはルーク。さぁ入って」
今日も可愛いルークを部屋に迎え入れ、ララちゃんに合図をする。ララちゃんは小さく頷いて立ち入り禁止の看板を立ててマリアの部屋から離れていった。
あまりにあっさりで拍子抜けしたが、この前のステータスのことは何となく屋敷の使用人には伝わっているようなので、マリアが護衛がいらないくらい強いことを知っているのかもしれない。
「それで……今日のことなんだけど」
「うん。僕の家の事だよね?」
「そう。まず、ルークが知ってることを教えてもらえる?」
そう尋ねると、ルークは少しの躊躇を見せたがやがて決心したように話を始めた。
セイントベール家のパーティーに来る数週間前、ルークは父であるアラベスタ侯爵とともにある侯爵家のパーティーに出席していた。アラベスタ侯爵がほかの貴族と話しているあいだ、暇を持て余したルークは屋敷内を散策していたそうだ。
「それで、数人の貴族たちが計画について話してるのを偶然聞いちゃったんだ。最後のほんの少しだけだけど……」
そう言って、ルークがその時の会話を思い出しながら声に出していく。
「本当にあの不吉なアラベスタを墜せるのだな」
「むしろ、アラベスタでなければ務まるまい」
「アレの手配はどうした?」
「手配済みだが、なにぶん物が物だ。完成には年単位で時間が必要になる」
「まぁ焦ることもない。こんな大きな計画、急いた方が負けだ。ゆっくり進めよう」
「あぁ、何しろ"天下をひっくり返す"のだからな」
……なるほど、計画とは相当ヤバいものらしい。
そのセリフたちから察するに、彼らが狙うのは現国政の転覆。アラベスタ侯爵はその糧、つまり首謀者に仕立て挙げられるというわけだ。
『アレ』が何かはわからないが、恐らくこの計画のキーになる代物だろう。
それにしてもルークの記憶力には舌を巻く。
すらすら出てきた様子から恐らく一言一句そのまま、聞いたままを話したのだろう。ルークのアビリティ『完全記憶』は伊達ではないらしい。
「うーん……計画の詳細がわからないとお父様たち大人を動かす事は出来ないわ。もっと確実な情報を集めることが先決ね」
「僕もそう思う。どのくらいかはわからないけど、計画を進めだしたのは最近みたいだし……最低でも一年の猶予はあるはずだ」
「そうね。首謀者が貴族なら名前が露呈することを嫌がって下手なクーデターより慎重になるはずだわ。転覆後の政治の中心に自分たちが関わろうとするなら尚更」
根回しや賄賂など、それなりの下準備がいる。派手に動けばお父様にもバレるから隠密にやらざるを得ないはず。つまりそれは、私たちに迎え撃つ準備が出来るということだ。
「私もルークも諜報スキルを持ってるけど、情報を集めるにはパーティーに参加しないといけないわ。でもまだお披露目前の私たちが二人で参加するのはまず不可能……きっとどちらかの親についていくことになるはずなの」
「そうなると敵に勘づかれる可能性が上がる……か。難しいところだね」
二人で頭をフル回転させ今後のための策を練る。が、情報が少ない、手段がない、証拠がない、と八方塞がりなこの状況でまともな案が出るわけがなかった。
「うーん……どうしよう。せめてお父様が信じられるような筋の通った話ができれば……」
「お嬢様!! 失礼致します!!」
バァン! という音とともに開け放たれた扉に思わず肩が跳ねる。いったい何事かと扉を開けた張本人、ララちゃんを見れば、彼女は肩で息をしながら「旦那様が……」と言葉を紡いだ。
「旦那様が、話があると! 緊急だから今すぐ執務室へ来るようにと!!」
早く!! と急かすララちゃんに、私とルークは顔を見合わせ次の瞬間には廊下に飛び出した。
*****
「お父様! 緊急の要件とはなんです!?」
「あぁマリア! ルークも……すまない。二人に大事な話があるんだ」
そう言った父の顔にいつもの飄々とした様子はなく、今にも歯ぎしりが聞こえてきそうな顔だった。
「実はね、マリアには……一つ下の、弟がいるんだ」
「……は?」
「生まれた頃から体が弱くてね、ずっと別邸で療養していて、まだ屋敷の使用人と専属の医者くらいしか知らないんだ。いつ死ぬかわからない状態だったからマリアに言うことも出来なかった。やっと安定してきたと思ったら、先程、別邸にいるフィーリアから使いがきて……昨夜、危篤状態になった、と」
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたお父様がポツリと言った。マリアはゲームになかった設定に愕然とし、思わずふらりと倒れかける。それをそばにいたルークがそっと支え、オーウェンに向かって言葉を投げかけた。
「それでは、マリアを呼んだのは一度、弟に会わせるためですか?」
「ああ。ルークにも来て欲しい。僕やフィーリアはきっと、冷静でいられないと思うから……マリアのそばにいてくれ」
「もちろんです」
そんな二人の会話など耳に入ってこないマリアは頭の中でぐるぐるとゲームのマリア=セイントベールの設定を思い出していた。
マリアに弟などいなかったはずだ。一人っ子の我儘娘を極めた悪女は独占欲が強く、一つ下の実弟なんていれば両親の愛を独り占めできず、それこそ弟をいじめ倒し、殺意に近いものを持っていたに違いない。
両親は死んだ弟の分もマリアを可愛がった結果がアレなのだろう。
と、いうことは、だ。このまま何もしなければ、確実にマリアの弟は死ぬ。
だが、ゲームとは状況が違う。ゲームでは知らされなかった弟の存在がマリアに教えられた。それならまだ道はある。弟を助けるルートがあるはずなのだ。
「準備が出来たら呼ぶ」と言ってお父様が部屋を出ていき、執務室には私とルークが残される。
「マリア、大丈夫?」
「ええ……ルーク、私……」
「ん?」
「弟を、助けるわ」
寄りかかったルークの服を握りしめ、マリアは決意を込めた声で呟いた。
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