悪役令嬢、そらす
気がついたら日付超えてました。まだ寝てないので今日は30日です。
「疲れたわ……」
仲睦まじい両親のいる父の執務室を飛び出したマリアは、厨房で片付けをしていたララを引っ張って自室に戻っていた。
冷めてしまったフォンダンショコラはジャッジに温めてもらい、そのあいだにさっと身支度を整える。
今日は婚約してから初めてルークが我が家に来るのだ。といっても盛大な準備などはなく、二人でお茶会をするだけである。マリアの自室でもいいと許可が出た昨日のうちに部屋も片付けているし、あとは紅茶とお菓子を用意して待機するだけだ。
また青いワンピースを着てあのマジェスタで髪を留める。今日は髪を全て編み込んで、首元をスッキリさせている。ちょっと触覚を出しているのはご愛敬だ。
支度を終えて厨房にもどる。鼻歌を歌いながらお湯を沸かし、茶葉を用意していると、玄関に行ったララちゃんがマリアを呼んだ。
「お嬢様! ルーク様がいらっしゃいました!」
「えっ!? 少し早いわね……どうしましょう、紅茶の用意がまだだわ」
「そんなこと私がやっておきますので! 早く玄関へお出迎えを!」
「わかったわ! よろしくねララちゃん!」
「承りました!」
全力で廊下を走り、自分史上最速で玄関にたどり着いた。服や髪の乱れを直してルークが入ってくるのを待つ。やがて、目の前の扉がゆっくりと開いた。
「ごきげんよう、マリア。今日はお招きありがとう」
「ごきげんよう、ルーク。来ていただけて嬉しいわ」
形式通りの挨拶を済ませ、二人でにこりと笑い合う。マリアはルークの手を取って自室へと歩き出した。
「あ、マリアの父上と母上にご挨拶を……」
「あぁ、いいのいいの。二人は今ちょっと……忙しいから。それより今日はどうしたの?時間より少し早かったわね」
先程のことを思い出し、目をそらしつつ話題もそらす。ルークが悲しそうな顔で首をかしげた。
「ごめん、迷惑だったかな?」
「いいえ、まったく。でも時間ぴったりに来そうなイメージだったから」
ゲームではいつも決まった時間に行動していて(アドバイスキャラなのもあるが)、なかなか捕まらない攻略対象とは違うプレイヤーへの配慮に涙した記憶がある。
「いつもはそうなんだけどね。今日は……」
「今日は?」
「マリアに会えるって思ったら楽しみで……待ちきれなくて、少し早く家を出たんだ」
照れたように頬をかくルークに、マリアの心臓は射抜かれた。うぐぅ、とときめきに胸を押さえると「マリア!?」と心配してくれるルーク。尊い。マジ天使。本当に可愛い。照れた顔なんて見たことない。ごちそうさまです。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫……早く部屋に行こう、お菓子を用意してあるの」
悶えて見せられない顔になりそうなのを令嬢スマイルで誤魔化し、てくてくと歩き出す。今度はルークも手を握り返してくれて、口がにやけるのを抑えきれなくて振り向かず自室へと向かった。
*****
「お、お邪魔します……っ」
緊張した面持ちのルークがガチガチに固まりながらも部屋に入る。紅茶とフォンダンショコラが入ったバスケットを持ってきてくれたララちゃんにお礼を言って下がらせ、部屋には二人きりとなった。
「今日はルークのためにお菓子を作ったんです。口に合うといいんだけど……」
「ええ!? マリアが作ったの?」
「うん、さっき」
「さっき!? どうりでマリアから甘い匂いがするわけだ……」
「これなんだけど……食べられそう?」
バスケットから取り出したカップをルークの前に差し出す。スプーンを渡すと、ルークがそっとチョロレートを掬った。ひとくち口に含んで、ルークが小さく「わぁ……」と呟いた。
「すごく美味しい……マリア、これどうやって作ったの?この味チョコレートだよね? ケーキみたいな食感だけど」
「一度とかして生地と混ぜてるの。喜んでくれて良かった。みんな心配性で、厨房に入っただけですっごく止められたのよ」
あれは5歳児に使う力じゃなかったわ。
そう言うと、ルークが紅茶を飲みながらくすくすと笑った。
「公爵家の令嬢が台所に立って料理だなんて、普通はありえないからね。でもマリアはすごいね。こんな美味しいもの作れるんだ」
「実は私、料理スキル持ってるの。だから多少の料理はレシピがなくても作れるんだ」
そう、実はこの料理スキル、めちゃくちゃ便利である。たいして良くもないこの頭に前世で作ったレシピなど残っているはずもなく、なんとか再現出来ないかな〜なんて気持ちでレシピを思い出そうとしたら [フォンダンショコラのレシピ] [チョコレート:200g] というふうに眼前に表示されたのだ。最初は驚いたがこれ幸いと材料を準備し調理を始めた次第である。
前世でも欲しかったわ、なんて考えながら紅茶を飲むがルークからの返答がない。不思議に思って目線を向けると、
「え……料理スキル?」
ルークが口を開けて固まっていた。
呆然と言うルークの鬼気迫る様子に若干タジタジになりながらもこくんと頷く。
「え、えぇ……特に珍しいものじゃないでしょう? 料理長のジャッジも持っていたし……」
「えっ、聞いたの?」
「いいえ、見たわ。あ、もしかして人のステータスは見ちゃいけない法律とかあったのかしら? だったらジャッジに謝らないと……きゃっ」
突然肩を掴まれ、驚いて声を上げる。
恐る恐る顔を上げると、目を瞬かせたルークと視線があった。
「マリア……君、人のステータスが見えるの?」
「……みんなが見れるものではないの?」
しくった。
事態を理解してきたマリアはルークの様子がおかしいことの理由を察した。
つまり、マリアは常人にはないスキルを持っており、それを使用したというわけである。恐らく料理スキルも、常人が何年も修行してようやく得るものなのだろう。前世の年月を考えれば持っていてもおかしくないのだけど。
乾いた笑いを浮かべる私にルークは深いため息をついた。
「マリア……僕にそのステータス見せられる? いや、見せたくないならいいんだけど」
「ルークならいいよ! 待って、今やってみる。〈ステータスチェック〉!」
唱えると、目の前にパッとステータスが表示された。
「見える?」
「見える……すごい。熟練の鑑定士でもこんなことできないよ」
マジか……戦闘能力チートだとは思ってたけどそっち方面もか。
そんなことを思っていると、興味深そうに文字を読んでいたルークが段々と震えだしたことに気づく。
「ルーク? どうしたの?」
「……あのさ、マリアって実はダンジョンで育って魔物を倒しながら生活してたりした?」
「するわけないでしょ!? 何言ってるのルーク!?」
なんだそのタ〇ザンみたいな設定。怖い。
ルークは「だよね……」と呟きながらもう一度マリアのステータスを見た。
「だけど、そうでもなくちゃ納得出来ないステータスなんだよ。何? 職業レベル全部MAXって。このスキルの量も意味がわからない……ていうかこの特殊魔法の〈テレポート〉ってはるか昔に失われた古代魔法だよ? 君いったい何者なの?」
畳み掛けるように言われ、マリアはもう何の意味もなさない回答を口にした。
「た、ただの公爵令嬢ですわ……」
書き溜め分が終わってしまったので、これから少しずつ少しずつ書いていくつもりです。不定期投稿となります。
気長にお待ちいただけると嬉しいです。




