悪役令嬢、紹介する
「ねぇマリア〜、落ち着いたみたいだから言うんだけど、パーティーの最中だったんでしょ?戻らなくていいの?」
ぐすぐすと鼻を鳴らすルークの背を撫でていると、リンがそう話しかけてきた。そういえばそうだった。リンと契約したりルークと出会ったりですっかり忘れていた。私はルークをそっと離してその手を握る。
「それじゃ、そろそろパーティーもお開きになる頃でしょうし、お母様たちの元へ行きましょ。リン、あなたも一緒に来て」
「ぼくの扱い雑すぎない? 仮にも妖精だよ?」
その目に強い光を灯したルークの手を引いて、ブツブツ文句を垂れるリンと一緒に会場へと戻る。手を繋いだ私たちに驚いているのか、それとも妖精のリンに驚いているのかは知らないが、人の群れがマリアたちを避けていく。まるでモーセの海割りである。
会場のど真ん中をずんずんと歩いていくと、こちらを真っ直ぐ見つめる両親と、ルークそっくりな美形の男性が狼狽した様子で立っていた。
「お父様、お母様」
「なんだい? マリア」
「なにかしら? マリアちゃん」
二人の優しい視線が繋いだ手へと向けられる。これから私が言う言葉を察したルークが、怖がるようにきゅっと私の手を握りしめた。
「私、この人と婚約します」
キッパリと言う。
私の突然の発言に会場が一気にざわめいた。
「うん、わかった」
お父様はそれだけ言うと、早足に会場を出ていってしまった。ぽかんとする会場の人々を横目にお母様が柔らかく微笑んだ。
「おめでとう、マリアちゃん」
そう言って私たちの目線に合わせてしゃがみこみ、ルークと目を合わせる。
「はじめまして。あなたの名前を教えてもらえるかしら?」
「……っあ、アラベスタ侯爵家長男のルーク=アラベスタと申します!」
話しかけられたルークがなんとか言葉を絞り出す。息子の声を聞いてか、フリーズしていたアラベスタ侯爵が慌てた様子で口を開いた。
「マ、マリア様!? あの、うちの息子と婚約とはどういう……っ!?」
「言葉の通りですわ、お義父様。私、マリア=セイントベールはルーク=アラベスタ様に婚約を申し込みます。ご許可をいただけますか?」
じぃ、とアラベスタ侯爵の瞳を見つめて問う。
戸惑いに染まるその目はルークより少し黒い色をしていた。その目がちらりとルークを捉える。一瞬緊張したようにぴくりと震えたルークが意を決し、会場中に響き渡るほどの大きな声で叫んだ。
「僕の意思です、父上! 僕らは自ら望んで婚約したいと申し上げています! ですから、この婚約をお認めになってください!」
その声にアラベスタ侯爵の瞳が大きく見開かれ、ただ一言、「驚いた……」とだけ言って、また黙ってしまった。
それからしばらく逡巡したあと、アラベスタ侯爵が一度、大きく息を吐いた。
「……わかりました。その申し出、喜んでお受け致します。未熟な息子ですがどうかよろしくお願い致します」
「ええ、よろしくお願い致しますわ」
見事な礼を披露するアラベスタ侯爵に微笑むと、ルークがほっと息を吐いた。
そこにカッカッと軽快な靴音を鳴らして、お父様が現れた。
手には紙とペンが握られている。
「誓約書を持ってきたよ。アラベスタ侯爵は納得されたかい?」
「はい。謹んでお受け致します」
「それでは、これからよろしく頼むね。それじゃあマリア、ここにサインを」
「はい、お父様」
マリアは何のためらいもなく、その誓約書に自分の名前を書く。その上にお父様が名前を書き、アラベスタ侯爵に渡す。
「アラベスタ侯爵、サインを」
「はい」
アラベスタ侯爵がさらさらと名前を書き連ねる。侯爵から用紙を渡されたルークが不安そうな目で自身の父を見た。
「父上……」
「私は賛成だ。おまえがあんなに意思をはっきり示したのは初めてだったな。何にも執着しないおまえだったが、それだけマリア嬢が大切なのだろう?」
そう言って、アラベスタ侯爵がふっと笑う。侯爵と言ってもまだまだ若い。その笑顔に会場のマダムたちがほぅ……と息をついたのがわかった。
そんなことはつゆ知らず、爆弾発言に顔を赤くしたルークがこくりと頷くと、侯爵が満足そうに笑みを深くした。私も予想外の流れ弾で顔が熱い。
ルークが震える手で自分の名前を書き、お父様へと手渡す。お父様は大きく手を広げ、その美声を会場に響かせた。
「今ここに、この会場の皆を証人として、我が娘マリア=セイントベールと侯爵子息ルーク=アラベスタの婚約がなされた! うら若き二人に祝福の拍手を!」
次の瞬間、割れんばかりの喝采が会場中に鳴り響いた。
今日は2部の投稿でした〜!
また数日後に投稿しますฅ^•ﻌ•^ฅ




