悪役令嬢、決意する
こんにちは、さびねこ。です
やらかした。
最初に抱いた思いはそれだけだった。
痛くはないけど驚いて、自分の手とルークを見比べて呆然としているとルークが焦ったように声を上げる。
「っあ、ご、ごめん……僕、あの……っ」
「わ、私もごめんなさい……ルークが謝る必要はないの。嫌だったよね。一目惚れとか、気持ち悪かったと思うし……忘れて」
ごめん……と、自分でもびっくりするくらいか細い声が出る。
さすがに好きな人からの拒絶は辛い。じわじわ現状を理解し始めたら胸が苦しくなった。泣き出しそうになって、咄嗟に俯く。ドレスを握る手が震えていた。
「本当にごめんなさい、私そろそろ会場に戻らなくちゃ……」
「っ、あ……っ待って!」
泣き顔なんて見せたくなくて、踵を返して走り出そうと振られる手をルークが掴んだ。
パニックになって思わず振り向いてしまう。
「……ルーク?」
目に入ったルークの表情は苦しげで辛そうで、ぐっと何かを我慢している様子だった。目尻には少し涙が浮かんでいる。
まるで逃がさない、と言うように手首が強く握られる。
「ごめん……君を傷つけるつもりじゃなかったんだ。この容姿を好きって言ってくれたのは家族以外じゃ君が初めてだし、すごく嬉しかった。婚約者だってなれるものならなりたい」
「ほ、んと?」
聞き返すと、ルークが重々しく頷いた。
嫌われてないと知って、ほっと胸をなで下ろす。
「でも……僕は、君の婚約者にはなれない」
「どうして?」
「僕は……僕の家は、きっともうすぐ、爵位を剥奪されるから」
ぽろ、ぽろ、とルークの瞳から涙が零れる。それから、ルークはひとつひとつ語り始めた。
自分の家が不吉な家系と呼ばれていること。
そのせいで迷信深い貴族と、ルークの父親が伯爵家から猛スピードで出世し侯爵家にまでなったことに嫉妬した貴族に嵌められそうであること。
その計画を聞いてしまったこと。
そして嵌められた暁には爵位剥奪、下手すれば犯罪者として牢に入れられる可能性があるということ。
大人に伝えても、年齢のせいで誰も信じてくれなかったこと。
もし今マリアと婚約してしまえば、セイントベール家にそのとばっちりが行くかもしれないということ。
涙ながらに語るルークは年相応の子供だった。
きっとすごく怖かっただろう。未来を知っているのに、助けがあれば回避できるかもしれないのに、誰にも信じてもらえなくて、ただただその時を待つことしかできない。
普通の子供なら計画の内容なんてわからず、その時が来るまで楽しく過ごせていたかもしれない。けれど、彼はその賢さ故に理解出来てしまった。
私が彼なら自身の無力さに耐えられず、自暴自棄になってしまうだろう。
それほどにこれは、彼の小さい背には重すぎた。
「あのままじゃ君に甘えてしまうと思ったから、君の手を払ったんだ。僕は君を……っ、マリアを巻き込みたくない! だから、僕は、僕は……」
君の隣に立つことはできない。
そう言ってルークが俯く。いつの間にか手首から離された手が拳に変わっていた。私は震えるその手を包み、口を開いた。
「なら、その計画を阻止しましょう」
「……え?」
顔を上げたルークと目が合う。その瞳からとめどなく溢れる雫を拭い、射抜くように見つめる。
深い深い紺碧に、私の緋色が反射した。
「私が貴方を救う。絶対に絶望なんてさせない」
私の言葉をじっと聞くルークを引き寄せて、ぎゅうっと抱きしめる。
「私が貴方を守ってみせる」
激しく脈打つ互いの鼓動の音だけが、二人の世界のすべてになった。
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