Welcome to Yuri's house!
「ただいまぁ…」
ボクはゆりちゃん家に連れていかれた。
「あら、おかえりなさい!」
ゆりちゃんのお母さんがゆりちゃんを迎え入れる。
すると、すぐにお母さんは、ゆりちゃんに抱き抱えられているボクを見つけた。
「…………何?その猫?」
「お母さん!あたし、この猫飼いたい!!」
開口一番にゆりちゃんはお母さんに向かって叫びだした!
「ダメよー!この猫、野良猫でしょ?家がメチャクチャにされたらどうするの?…………まぁ、とりあえずお父さんに聞いてみる」
お母さんの顔は、ものすごく渋い表情だった。
無理もない。ボクはイタズラ好きの野良猫。
いくら瀕死の重傷を負っていたとはいえ、ボクは拾われた身だ。
美しい人間の世界に土足で踏み込むことなど出来はしない。
「ただいま!」
お父さんが仕事から帰ってきた。
「飯にするぞ!」
ゆりちゃんのお父さんは、お喋り好きのお母さんとは正反対に、ものすごく寡黙な人だった。
「お父さん、ちょっと聞いてよぉ!ゆりが野良猫を飼いたいって言ってるのよ。お父さん、ゆりにビシッと言ってやって!家では飼えないって…」
ほとほとボクの存在に困り果てているお母さん。
「…………」
お父さんは反応しない。いや、考え込んでいたのかもしれない。
「ゆりと話する。………ゆり!こっちに来なさい!」
お父さんが重い口を開いた。
「………この猫、どうしたんだ?」
「陽子と遊んでて、その帰りにたまたま見つけたの。車に轢かれたみたいで、かわいそうだったから動物病院に連れてってさ……」
「それで?」
「病院で治療して、元気になったんだけど、保健所に連れていかれるって聞いて………
せっかく死にそうなこのコが元気になったのに、また殺されるのは嫌!って思ったの。
ほら、こないだニュースで、野良猫が保健所で殺されるっての、やってたでしょ?」
「…………あぁ。お父さんもそれ見たな…」
「そんなの可哀想だよ!それにこのコ、車に轢かれて死にそうだったんだよ!
病院でせっかく元気になったって言うのに、殺されるなんて、あたし耐えられない!!」
心優しいゆりちゃんの言葉が、お父さんの心にも刺さったようだった。
ゆりちゃんは元々猫が好きだったらしく、家族にいつも「猫を飼いたい!!」と言っていたそうだが、「高いからダメ!」といつも断られていたらしい。
「…………で、ゆり!この猫、自分で育てられるのか?」
「育てる!絶対に育てる!!」
「…………分かった」
お父さんはまた考え込んだ。
「ちょっと、お父さん!!」
お母さんは、ゆりちゃんの言葉に慌てふためいた。
どうやらお母さんはボクのことが嫌いらしい。いや、嫌いではないかもしれないが、どこかめんどくさそうだった。
ゆりちゃんの話を聞くとすぐに居間から出ていった。
「そこまでお前がこの猫を大切に思っているなら、飼いなさい!」
「やったーーーー!お父さん!ありがとう!!ありがとう!!」
ゆりちゃんは喜びを爆発させていた。
ゆりちゃんの優しさは、怖い怖い人間の大人の心をも動かした。
なんてパワーなんだろう。ゆりちゃんの、ボクに対する心は本物だ!と感じた。
命の恩人でもあるゆりちゃん。そのゆりちゃんのボクに対する愛情は、一点の曇りもない。ボクはそう感じた。
「お母さんには説得しておくから…」
お父さんはそう言うと、居間から出ていった。
「み~くん、良かったねー」
ゆりちゃんはボクの頬をスリスリさせていた。
あぁ…………ゆりちゃんのほっぺたが実に気持ちいい。
「そうだ!み~くんのお家作んなきゃ!」
もうゆりちゃんの頭の中はボクのことでいっぱいになっていた。
生まれてはじめて、家というものに住むことになったボク。
野良猫生活の時には考えもしなかった。でも、好きだったく~にゃんを見ていると、どこかでボクは人間の家に住むことに憧れをもっていた。
人間の家に住みたい一心で人間にイタズラを続けてきたボク。
でも逆にそれがボクと人間との距離を遠ざけていた。
ボクは命の恩人、ゆりちゃんに誓う!
もうイタズラはしない。
ゆりちゃんに認められる立派な飼い猫になる!
全ては、生きる希望をくれた、ゆりちゃんのために…
ボクは、ゆりちゃんに負けないように飛び上がって喜びを爆発させた。
「にゃ~~~!」
今までにない、高らかなボクの鳴き声がゆりちゃんの家にこだました。