野良猫よ、立ち上がれ!!
もう生きる意味も、生きる価値も失ったボク。
ボクはただこの世に生を受けただけの、嫌われ者。
ボクはネズミにさえ負けている。
とうとうボクの宿敵、ネズミのチュ~太にまでバカにされる始末。
「おいおい!野良猫さんよ!あんたみたいな女々っちぃ猫に俺を取っ捕まえられるのかよ?」
メチャクチャ悔しい。ここまでボクがバカにされるなんて……
人間にも嫌われ、ネズミにもバカにされる毎日…
でも、チュ~太の言葉に反論することはできなかった。
むしろ、反論する気力すらない…という表現が妥当だろうか…
毎日毎日涙を流し続けるボク。
この時、天国に居ると思われる神様を呪った。
「なんでボクは野良猫として生まれてきたの??」
そんな答えなど出るはずもない。
野良猫として生まれてきたのは宿命以外の何物でもない。
しかし、野良猫なんてもう嫌だ!
ボクは生まれ変わりたい。
その一心でボクは、車がひっきりなしに行き交う国道に飛び込んだ。
キキーーー!
ボクは猛スピードで走ってきた車に轢かれた。
10メートルぐらい撥ね飛ばされ、固いアスファルトの地面に体を叩きつけられた。
「なんだよ。野良猫か…人轢いたかと思ったよ。ビビったぁ…………まったく、気を付けろよな!」
「え?猫轢いちゃったの??ヤダー!猫の祟りに取り付かれるわよ!」
「縁起でもねぇこと言うなよ!行こうぜ!」
ボクを轢いた車には、若くてチャラそうな人間のカップルが乗っていた。
そのカップルを乗せた車は、何事もなかったかのように走り去っていった。
アスファルトに横たわったボクの体は血だらけになっていた。
段々と意識が薄れていった。
ボク、このまま死ぬのかな?
ボクは自分の死を受け入れようと考えていた。
生きる価値を見失っていたからだ。
生きる価値がないのなら、生きる価値のある動物に生まれ変わりたい。その一心でボクは人間の車に飛び込んだのだった。
ある日、ふと目が覚めた。
「ここはどこだろう……」
気がつくと、見たことのない光景がボクの目に映っていた。
ここは動物病院だった。
「気がついたみたい。良かったぁ!生きてて…」
1人の人間の少女が嬉し涙を流していた。
ボクは生きていた。
でも、生きているか死んでいるかなんて、この時はどーでもよかった。
ただただ、1人で佇んでいる女の子のことが気になって仕方がなかった。
「この子、誰だろう…」
ボクが逢ったことのない子だ。
それもそのはず、ボクはずっと意識不明の重体だったからだ。
瀕死の重傷を負っていたボクを病院に運んでくれたのは、紛れもなくこの子だった。
「み~くん、良かったね!」
み、み~くん??
それって、ボクのこと??
ボクは名もなき野良猫。ノラと呼ばれてはいるものの、それは単に野良猫だからと勝手につけられた名前だ。ボクの名前ではない。
み~くんという名前も、この女の子が勝手につけた名前だ。
でも、み~くんという名前をつけられたのは嬉しかった。
初めて、野良猫のノラ以外のまともな名前をつけられたからだ。
「にゃ~~~!!」
ボクは女の子に喜びを鳴き声で表した。
ボクの目には、今ここに立っている女の子がものすごくキラキラ輝いて見えた。
この子はボクの命の恩人だ!
まだまだ世の中、捨てたもんじゃないなと悟ったボクは、もう一度1匹の猫として生きる道を選んだ。
それもこれもみんな、この女の子のおかげだ!
「もう大分良くなってますので、この猫は保健所に預けさせていただきます。」
ほ、保健所?冗談じゃない!
保健所で何匹の猫が殺されたことか…
ようやく生きる意味を取り戻そうとしているのに、殺処分されるだなんて!
「この猫、あたしが飼います!」
女の子が叫んだ。
「でもねぇ、中山さん。この猫は野良猫なんですよ。野良猫ですので保健所に預けるように決められてますので…」
「嫌です!!この猫はあたしが育てます!!このコだって、それを望んでるはずです!!」
女の子の言う通りだ。
ボクはこの女の子によって生きる価値を取り戻すことができた。
願わくば一生、この女の子と暮らしたい!
「…………そこまで仰るのなら、本来はダメですが、特別にこの猫を飼うこと、私が許可します。市役所には、ウマイように言っておきますから」
「ありがとうございます!」
やった!この女の子と暮らせる!!
「良かったね!み~くん!!あ……………あたし、ゆり!よろしくね」
中山ゆりちゃんかぁ……かわいい名前だ。
本当に優しい女の子、ゆりちゃん。
ゆりちゃんと一緒に暮らせると思うと、もうワクワクが抑えられない。
ボクはもう、野良猫ではなくなった。
新しいボクの人生が、これから始まろうとしている。