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ゆりちゃん訪ねてどこまでも

ボクはどことも知れない道をトボトボと歩いた。

もう、ゆりちゃんには2度と逢えないのだろうか・・・

そんな絶望感に苛まれ、ボクは立っていることすらままならなかった。


ボクとゆりちゃんが離れ離れになって1ヶ月が過ぎようとしていた。

ゆりちゃんもまた、毎日上の空の生活を送っていたようだ。

「み〜くん・・・」

雄介くんと居るのはこの上ない幸せだったはずのゆりちゃんだったのに、今は毎日涙を浮かべていた。


「雄介!この部屋引っ越しな!!」

「ば、バカ言うなよ。そんなこと簡単にできるかよ?」

「み〜くんのこと、どうでもいいの?動物が飼えるところに引っ越して!!」

「はぁ?何言ってんだよ。なんでみ〜くんのためだけに引っ越さなきゃならねぇんだよ?簡単に言うな!」

「もういい!み〜くんを連れ戻しに行ってくる!」

「ゆり、バカか?どこに居るかもわかんねぇんだぜ?」

「あたし、み〜くんが戻ってくるまで雄介の家、もう来ないから!」

ゆりちゃんは勢いよく雄介くんの部屋を出て行った。


ーーーゆりちゃん・・・

ボクの頭の中に、ゆりちゃんの泣き顔が浮かんできた。

ゆりちゃんが泣いている。ボクだって男だ。ゆりちゃんにいいとこ見せなくちゃ!

ボクが泣いてどうする?ボクが立ち上がらなくちゃ、ゆりちゃんだって喜ばないはずだ!


ボクは決めた。絶対にゆりちゃんの家へ帰る!

どことも分からない暗い夜道をボクはがむしゃらに駆け抜けた!

ゆりちゃんのためなら、ゆりちゃんのためだけに・・・

ボクはゆりちゃんが居なければ生きていけない。ゆりちゃんはボクの命の恩人なのだから・・・

まだ何一つ恩返しができていない。迷子になった時もボクは何もできなかった。ただただゆりちゃんの迎えを待つしかなかった。

ボクはもうそんな弱虫なんかじゃない。ボクはもっともっと強くなる。


ボクはひたすら駆け抜けた。

「危ねぇな。気をつけろ!」

車に轢かれそうになってもそんなことどうだっていい!ゆりちゃんに逢えなくなるぐらいならボクはもう死んだってかまわない。


野良猫だった頃には出したことのないパワーがボクを後押しした。

きっと昔の野良猫仲間がボクに背中を押してくれたに違いない。

ボクはいっぱいいっぱい走った。それこそ何キロも、何十キロも・・・

赤信号でも突っ走っていた。赤信号なんて人間が作ったルールだ。

ボクは猫。猫にとっては赤だろうと黄色だろうと青だろうと、自分が思ったらただただ進むだけ。

ゆりちゃん、ゆりちゃん・・・

ボクの人生を変えてくれたたった1人の女の子とこんな形で逢えなくなるのは絶対に嫌だ!!


しかし、ボクの希望の光は打ち砕かれた。

走れども走れども、ゆりちゃんに逢うことはできなかった。

ボクは草叢で1人、ヘタりこんでいた。でも・・・


あれ?ここ、どこかで見たことのある景色だ。

向こうに明かりが灯っている家ってもしかして・・・ゆりちゃんの家だ!

やった!もうひと踏ん張りだ!

しかし、ボクの体力はもはや限界を超えていた。草叢で寝転がる以外の体力はもう残っていなかった。


そして、翌朝。

「ゆり、おはよー!」

「・・・・。」

「何よー!挨拶ぐらいしてよね?最近ゆり、変だよ?」

「え?・・・・あぁ、陽子・・・」

ゆりちゃんは、もはやこの世の終わりかのように目が死んでいた。

「はぁ・・・」

ゆりちゃんはいつもため息ばかりついていた。

「ゆり、先に行くね?・・・大丈夫?今日、学校休んだら?代返とっとくからさ・・・」

「あ、うん・・・」

陽子ちゃんは足早にゆりちゃんとバイバイし、学校へ向かった。

その途中だった。

「にゃーーー」

「ん・・・・あ、あれ?み〜くんじゃない??」

陽子ちゃんがボクを見つけてくれたのだ。

「そうだ!ゆりのところへ連れていこ!ゆり、絶対喜ぶよ!」

それはありがたい!ゆりちゃんとの直接の再会はまだお預けだけど、陽子ちゃんが見つけてくれたのなら話は早い。

「ゆりー!ゆりーーー!!」

「・・・どうしたの?」

「ほら、コレ見て!」

陽子ちゃんに背中を掴まれてちょっと痛かったけど、奇跡的にゆりちゃんと再会することができた!

これもゆりちゃんのおかげだ!!

「え?え??み〜くん??」

ゆりちゃんは現実をまだ受け入れられていなかったようだ。

「そうだよ!さっき、あそこの草叢で見つけたの。」

「え?えぇぇ??ほ、ホントに??」

「嘘だと思ったら、ほっぺたつねってみなよ。」

陽子ちゃんに言われた通り、ほっぺたをつねってみるゆりちゃん。

「いたたたた・・・ホントだ!!・・・よかった〜!もう逢えないかと思った!!」

この世の終わりのようなゆりちゃんの表情は一瞬にしてまるで天国にでも来たかのような表情に変わった。

ボクはこの笑顔があるから生きられる。ボクとゆりちゃんの赤い糸が導いてくれたんだ!きっとそうだ!!

ゆりちゃんはすぐさま、雄介くんに電話した。


「もしもし、雄介?み〜くん、見つかったよ!」

「ん?あぁ、よかったな・・・」

電話から来る雄介くんの声は、ゆりちゃんの表情を一瞬で崩すような生返事だった。

むしろ、ボクが見つかってもちっとも嬉しくなさそうな様子だったのだ。

ゆりちゃんの表情は、天国から再び地獄へと突き落とされたのだった。


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