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捨てられたボク

「いってきまーす」

ここ最近、雄介くんのお家に毎日のように通い詰めているゆりちゃん。

雄介くんのお家に行く時はもちろん、ボクも一緒だ。


雄介くんのお家は、どこにでもあるごく普通のアパート。

雄介くんはここで1人暮らしをしている。

ゆりちゃんの家と比べると、格段に狭い。

ーーーピンポーン


「おー、ゆり!」

「雄介、今日も来ちゃった!」


いつも2人の笑顔はキラキラしている。今日も2人とも幸せそうな笑顔。

もしかしたら、このまま結婚しちゃうんではないかな?


そうなったら寂しいな・・・ もしゆりちゃんが雄介くんと結婚するとなれば、ボクはゆりちゃんと離れ離れになってしまう・・・


そんな心配をよそに、今日もいつものトークで盛り上がる2人。


「ははは!!これ、面白ーい!」

「だろ?ぽっこりはんって、今一番来てる芸人さんだよな・・・」


2人とも、お笑いが大好きなようだ。

2人のデートは、遊園地に行ったりお茶したりもするけど、家デートもある。

家にいる時はだいたいお笑いのDVDを見ている。

今日もいつものデート。そんないつもの時間が2人にとっての幸せの時間。ボクもそんな2人を見て幸せに浸っている。

「にゃーにゃーにゃーにゃー」


すると、2人の幸せな時間を遮るかのように、ものすごい勢いでドアを叩く音がした。

ーーードンドンドンドン!!

「本田さん!本田さーん!!」

ドアを開けると、そこにはメタボで大柄な、いかにも恐そうなオバさんが立っていた。

どうやら、雄介くんのアパートの大家さんのようだ。


「ちょっと、本田さん!また猫の鳴き声が聞こえたんだけど・・・」

「いや、それは・・・」

「ペットは禁止って何度言ったら分かるの?もう、今日という今日は許しませんからね!猫をよこしなさい!!」

すごい剣幕で大家さんは雄介くんに詰め寄った。

「だから・・・飼ってませんってば!」

必死に抵抗するが、大柄なオバさんの力では華奢な雄介くんはすぐに吹っ飛んでしまった。


「こんな猫、捨ててやるわ!」

大家さんに背中を摘まれ、ボクはもう何も抵抗はできなかった。


「大家さん、ごめんなさい。その子はあたしの猫なんです!」

「言い訳無用よ!動物はアパートに入れちゃいけないのは常識でしょ!! ペット臭くなるし、鳴き声はうるさいし…

最近、本田さんの部屋で猫の鳴き声がするっていう苦情が多いの知ってるでしょ?

だから、2度と猫が入ってこないように、捨ててやるの!それか、2人とも今すぐこの部屋出てきなさい!!」

---バタン!

雄介くんの部屋のドアは勢いよく閉められた。

それこそ、大家さんの乱暴なドアの閉め方の方が苦情が来そうなぐらいに・・・

そしてボクは大家さんに背中を掴まれ、外のゴミ置き場に捨てられた。

「ひどい!み~くんをあんな虫けらのようにポイ捨てするなんて!!なんて大家さんなの?」

ゆりちゃんの怒りは収まらなかった。

「しょうがねぇよ。うちのアパート、ペット禁止だからさ」

「そういう問題じゃないよぉ!」

大家さんにボクを捨てられたことに怒り心頭のゆりちゃんは、感情が高ぶって雄介くんの前で泣き出してしまっていた。

ゆりちゃんの泣き顔を見て、雄介くんは申し訳なさのあまり、何もすることができなかった。


しばらくして、雄介くんが気まずそうにゆりちゃんに切り出した。

「ゆり・・・ごめんな」

「ううん。雄介が謝ることないよ。悪いのはあたしだよ。」

ゆりちゃんはなんとか落ち着きを取り戻した様子だった。

「いや・・・大家さんを追い返せなかったからさ・・・」

「大丈夫だよ!それより、大家さんに怒られて追い出される方がヤバいでしょ?」

「まぁな・・・」

「あたし、み〜くんを連れ戻しに行ってくる!」


ゆりちゃんは、駆け足でゴミ捨て場に向かった。

「いない・・・」

ゴミ捨て場にボクの姿は無かった。

ボクは他のゴミと一緒に、ゴミ収集車に連れていかれていたのだ。

変な板や他のゴミに体を押しつぶされているボク。まともに息もできない。

ボクは酸欠で気絶してしまった。


やがて、車はゴミ集積所に到着した。

ボクは他の潰されたゴミの山と一緒に捨てられた。

ボクは、ゴミの山の強烈な臭さで目が覚めた。

気がつくと、目の前にはゴミを燃やす炎が見えた。炎を見たのは初めてだ。


炎が怖いことは知っている。どんなものも一瞬で焼かれてしまう、恐ろしい炎。

ボクが野良猫だった頃、保健所でどれだけの仲間が焼かれてしまったことか・・・

ボクはもう野良猫ではない。焼かれるなんてあり得ない!


しかし、轟々と燃え上がる炎は否応なしにボクの体に近づいて来ている・・・


あぁ・・・ボクは燃やされてしまうのだろうか。

ペチャンコにされて、酸欠状態のボクに、逃げる体力など残されていなかった。

ここにいることはゆりちゃんだって分かるまい。

ボクはもう、なすすべがなかった。


「ん?なんで猫が紛れ込んでるんだ?しかも首輪がついてるぞ?」

1人の作業員がボクに気がついてくれた。


「かわいそうに・・・ほ〜ら、逃がしてやるからな。」

その作業員は外に向かって勢いよくボクを放り投げた。


よかった!燃やされずに済んだ!!

間一髪、ボクの命は守られた。

しかし、どこともわからないゴミ集積場の前でただただ佇んでいるだけのボク。

「ゆりちゃん・・・」

ボクは力なく、曇天の夜空に遠吠えをした。


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