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後悔先に立たず

「あーー!!言っちゃったよー!」

大学のキャンパスで、ゆりちゃんは陽子ちゃんに泣きついていた。

「ちょ、ちょっとどうしたのよ、ゆり??いきなり泣きついてきて…」

「あたし、昨日雄介くんに告白しちゃった…」

「は?マ、マ、マ………マジで??」

さすがの陽子ちゃんも動揺を隠せなかった。


「ねー、陽子ー!あたし、どうしよう…」

ゆりちゃんは昨日の出来事を後悔している様子だった。

でも、昨日の出来事で、ゆりちゃんが雄介くんを本気で好きなことは、ボクにも充分伝わっていた。

逆告白も、ゆりちゃんの本気の思いの丈を雄介くんにぶつけたものだった。それは、最も近くで見守っていたボクが一番よく知っている。


ゆりちゃんが雄介くんに取られてしまうのは正直ボクも悔しい。だけどボクは猫。雄介くんは人間。

猫であるボクが人間であるゆりちゃんに恋をすることなど夢のまた夢の話だ。

それこそ、ボクが人間の姿になれば話は別だが、そんなことは絶対に起こり得ないことはボクにだって分かっていた。

ならばゆりちゃんの好きな人と幸せに暮らしてくれる方がボクは嬉しい。

大好きなゆりちゃんに告白ひとつできない自分がもどかしいと思いつつも、ボクはゆりちゃんを応援しようと誓った。

その方が絶対にゆりちゃんのためになるからだ。

ボクはゆりちゃんが幸せになってくれればそれでいい。


「どうしようって言われてもねぇ…………」

さすがに陽子ちゃんも、こればかりはアドバイスのしようがなかった。

というよりも、ゆりちゃんが大学中の女の子からの人気ナンバーワンの雄介くんに告白したことに、ただただ唖然としていた様子だった。


(ゆり、女の子みんな敵にまわしてるじゃん?これじゃー、あたしもどうすることもできないよ…)

心の中で陽子ちゃんは、昨日のゆりちゃんの行動を非難していた。


実をいうと、陽子ちゃんも雄介くんのことは気になっていたようだった。

しかし、陽子ちゃんは女の子たちを敵にまわすリスクを考えて、一度も雄介くんに告白することはなかったのだ。

(まー、ここはただただ見守るしかないよね…)

陽子ちゃんは早々に白旗をあげた。


夕方、ゆりちゃんはいつものようにサッカー部のグラウンドを見ていた。

「きゃ~~~!雄介く~ん!」

相変わらずグラウンドには、雄介くんファンクラブの女の子たちでごった返していた。

シュートを放つたびに聞こえる、女の子たちの黄色い声はいつもと変わらない。


だが、今日は雄介くんもまた、いつもと違っていた。

いつもならドリブルを止められる人は居ないのに今日は簡単にインターセプトされたり、パスも正確に通らなかったり、簡単なPKを外したり………明らかに様子がおかしかった。


「なんか今日の雄介くん、変じゃない?」

「うん…いつもならあんなにミスしないのに…どうしたんだろ?」

「なんか、今日の雄介くん、カッコ悪~い!マジでヤバみじゃない?」

「そだねー」

「あんなに凡ミスばかりする雄介くんなんて、見たくな~い」

「今日の雄介くん、マジ卍~!」

黄色い歓声が次第にざわつき始めた。

そして、あんなに女の子でごった返していたグラウンドが、いつしか女の子はゆりちゃんだけになっていた。


サッカー部の部活が終わって、ゆりちゃんは雄介くんに駆け寄った。

「雄介くん………お疲れ様!」

はにかんだ笑顔でゆりちゃんは雄介くんにタオルを渡した。

しかし、ゆりちゃんは明らかに笑顔がひきつっていた。


「あ…………ありがと!」

雄介くんにタオルを渡すとすぐに、ゆりちゃんは逃げるようにグラウンドを後にした。


ゆりちゃんは家に着くや否や、すぐにベッドの中で寝てしまった。

「ゆり!ご飯よー!」

お母さんの声も聞こえていない様子だった。

ボクをカゴから出して、ボクの身体を洗うこともしなかった。


そんな日が10日間ほど続いた。

大学に帰るとすぐにバタンキュー。ボクの身体も洗ってくれず、カゴの中からも出してくれなかった。

それにお父さんが気がついて、後からボクはお父さんに身体を洗ってもらってはいたのだが、お父さんはかなりめんどくさそうな様子でボクを扱っていた。

ボクもお父さんの乱暴な扱いはイヤだった。


ホントにゆりちゃん、どうしたんだろう…

人間も猫も、恋というものは難しい。

ボクもく~にゃんを好きになった頃、どうしてもく~にゃんを手に入れたい気持ちでいっぱいだった。

今は、ゆりちゃんを手に入れたい気持ちでいっぱいだ。

だが人間と猫という、越えられない壁がある。

ゆりちゃんが、大好きな雄介くんを手に入れたい気持ち……それはボクも痛いほどよく分かった。

ゆりちゃんが今、どんな思いで雄介くんに向かっているのかがボクには手に取るように分かった。

結ばれてほしい……ボクはただただゆりちゃんを見詰めることしかできなかった。


しばらくしたある日のこと、突然ゆりちゃんのケータイが鳴った。

雄介くんからだった。


「もしもし…」

不安な様子でゆりちゃんは電話に出た。

「あ………雄介だけど。………あのさ、ゆり!今度、遊園地に行かないか?」

「えっ??」

雄介くんのまさかの誘いにゆりちゃんは驚きを隠せなかった。

この間のゆりちゃんからの逆告白の答えが出たのだろうか?


ボクはそんなことは知る由もなく、眠りについてしまっていた。



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