そうして彼女は作り始めた 3
「なんだ、図星だったのか」
私の言葉にネメシアはニヤッとした表情を浮かべる。それで私はようやく鎌をかけられたのだと理解した。
「ネ、ネメシア!」
「そう、怒るなよ。代わりに良いことを教えてやる」
「……なによ」
ケラケラと楽しそうに笑うネメシアを睨みつけていると、彼は全く反省した様子も見せない口調で悪かったと言いながら棚から一つ粘土を引っ張り出すと、そのまま私の手の中に落とし込んだ。
「これが一番汎用性の高い石粉粘土だな。初心者にはおすすめの商品。
それから…… 芯材に使うならこの辺りを使うといいだろう」
そう言って丸められたアルミ線を棚から選び出すと、そのまま同じようにニトに手渡した。
「……」
「……」
「なんだよ、二人ともそんな顔して」
私もニトも思わず口をポカンと開けるしかなかった。
先ほどまでの人を食ったような軽薄な態度とは一転して、材料を選び出すその動作は真剣でまったくの迷いがなかったのだ。ネメシアの急激な変化についていけず戸惑っていると、彼もまた困惑したような表情を浮かべた。
「なんで解るのよ」
「なんで? それは俺がクリエのところに卸しているからだよ」
埋もれるほどの商品があるにも関わらず、どうして私が望む商品が「これだ」と断言することができるのだろうか。喉の奥からやっとの思いで絞り出すように問うと、ネメシアはこともなげにそう答えた。
クリエのところに商品を卸しているから分かると言われても、やっぱり納得いかなかった。
「そりゃ、言いがかりだぜ。看板娘」
「うっさい」
「あいたっ……」
そういうとネメシアはすぐにいつもの軽薄な態度に戻ってしまった。
なんだか腹が立って脛を蹴飛ばすと、ネメシアは蹴られた場所を抑えながら大げさに飛び跳ねた。ざまぁみろ。
「まぁ、兎に角使ってみろ。こっちも取り扱う商品のことで嘘は吐かない」
「……ん。行こう、ニト」
「あ、ありがとうございました! ネメシアさん」
もしも上手くできなかったら今度こそ思いっきり蹴飛ばしてやろうと思いつつ店に代金を支払い、ニトの手を引いて逃げるようにお店を後にした。
………
「ねぇ、メユはネメシアさんのことが本当に嫌いなの?」
「キライ。大ッキライ」
雑貨屋さんを出て、ピノッキオドリームへの帰り道、唐突にニトは口を開いた。
一体ニトは何を見ていたのだろう。
「うーん、そうかなぁ。メユはそこまで嫌っているようには見えなかったよ?」
そんなはずはない。
だって、ネメシアはノーラ姉さんのことを買うような人間なのだ。人格のある存在を奴隷商人のように売買できるような人間がまっとうな人間なはずがない。
そんなことができる奴は悪い奴に決まっている。
どうしてそんな悪い奴を好きになれるのだろうか。
「僕はネメシアさんがそんなに悪い人には見えなかったよ?」
「……ニトって意外と人を見る目がなかったり、する?」
「ひどいや」
思わずニトの目は節穴なんじゃないだろうかと顔を覗き込んでしまう。幸い、ニトの目は節穴ではなく、燃えるような赤毛の奥に黒目がちな瞳がしっかりと嵌っていた。
良かったと安堵の溜息を吐くと、ニトは少し拗ねたような表情でそっぽを向いた。
そんな風に他愛ない話をしながら通りを歩いている内に、大通りの外れにある小さな人形店に辿り着いた。
ピノッキオドリーム。初めてニトとおしゃべりした場所である。
「ピノッキオドリームへ、ようこそ」
「うん」
看板娘らしく入口を開けてお辞儀をしニトを招き入れると、彼は周囲の目を気にしつつも、少しだけ恥ずかしそうに頷いて店内に足を踏み入れた。




