7 ■情報収集です。
「へぇー、ここが縁ちゃんの部屋なんだー」
朱莉ちゃんが部屋の中を興味ありありと見渡しています。
「あんまり部屋を荒らさないでよ。後、物を動かしたらちゃんと片づけることね」
釘を刺しておきます。
「はーい」
元気よく返事を返してくれる朱莉ちゃんですが、既に忙しなく部屋を物色しています。
「なにこれ、これがテレビなの? 薄いねー、あーこの漫画まだ続いてたんだー長いねー」
「じゃあ、私はお風呂に入ってくるから、静かにしててね」
「私も行きたーい」
「幽霊なんだからお風呂に入る必要ないじゃない」
「そこはほら、縁ちゃんの成長具合を見てみたいし」
「行ってきます!」
「ぶぅー」
朱莉ちゃんのハイテンションに付いていくには苦労します。ゆっくりお風呂に入っていると部屋がどうにかされそうなのでチャチャっとお風呂を済ませちゃいましょう。
湯船につかりながら今日の出来事を振り返ります。あの廃墟に居たのは朱莉ちゃん一人だけだったので、個人的にはハズレでしたね。まぁ、その朱莉ちゃんが付いてきてしまったのは想定外でしたが。
お風呂から上がったら朱莉ちゃんに他の幽霊がいる場所を知らないか色々質問をしてみましょうか。
お風呂の窓から聞こえる夕立の雨音を聞きながらそんなことを考えているとうつらうつらしてきました。
まずいですね、このままでは湯船で眠ってしまいそうです。さっさと上がることにします。
「――朱莉ちゃん、話しがあるんだけどいい?」
「いいよー。なーに?」
お風呂上りに光莉ちゃんと人形遊びをしていた朱莉ちゃんに声を掛けます。
「光莉ちゃん、お姉ちゃんちょっと縁お姉ちゃんとお話ししてくるからね」
「はーい」
光莉ちゃんはとても聞き分けの良い子です。私も将来こんな子を授かりたいと心から思います。
「で? 話しって?」
「うん、朱莉ちゃんって浮遊霊なんだよね」
「そだよー」
朱莉ちゃんがふよふよと浮かんで見せます。まさに浮遊霊です。
「それでね、あの廃病院以外で朱莉ちゃんが行ったことのある場所で他の幽霊を視た場所を教えて欲しんだ」
「いいけど、なんでそこまで幽霊に固執するの?」
「――なるほどねー。除霊のためかー」
朱莉ちゃんに私の除霊方法について説明をしました。
「じゃあ交換条件を呑んでくれたら教えてあげる」
「交換条件?」
「そう、ほら私も幽霊じゃん。やっぱり成仏したいんだよねー」
「なるほど、交換条件として朱莉ちゃんもちゃんと成仏させてあげるよ」
「ホント? やったー」
なんか不思議な感覚です。確かに幽霊にとって成仏とは救いになるため、それを喜んで受け入れる方々は多いですが、朱莉ちゃんはその方々とは少し違ったい印象を受けました。なんというか、口では成仏したがっているようですが、本音は違うような。あくまでイメージでしかありませんけど。
「じゃぁ、地図だして。教えてあげるから」
「うん、よろしくね」
私は愛用の地図を取り出して朱莉ちゃんと一緒に地図に色々と書き込んでいきます。
「この公園に前行ったときは、お爺ちゃんが一人いたよ、あとここの橋の下にはお婆ちゃんがいたし」
「あ、ここの森は行かないほうがいいよ。すごく危なそうな人がいたから。たぶんあのお姉さんでも危険だと思う」
「澪さんでも危険となると相当な悪霊ですね」
「うん」
一人旅で書き込んでいた地図が見る見る内に、その情報量を増やしていきました。
「ん、取りあえず近場で覚えている場所はこんなところかな」
「ありがとうね。すごく助かっちゃったよ」
「いえいえ」
朱莉ちゃんが照れくさそうにしています。
ここまで情報が一度に増えると日曜日だけで回ることは不可能ですね。ちょっとバイトのシフトについて店長に相談してみましょう。あと、学校の近くにもスポットがあることですし、明日の授業後に覗いてみましょう。
「朱莉ちゃんのおかげで明日の予定も決まったよ。ありがとう」
「気にしなくていいよ。でも約束は守ってよ?」
「うん、ちゃんと守るよ」
心霊スポット情報が大量に手に入って喜ぶ女子高生って私ぐらいなものでしょうね。恐らく。でも嬉しいものは嬉しいのです。若しかしたらあの3人+1人を成仏させてあげられるかもしれないわけですから。
今日はぐっすり眠ることが出来そうです。
ドサドサッ。
朱莉ちゃんが机の上に置いてあって参考書を丸ごと落としてしまったようです。
「縁ー。夜も遅いんだから静かにしないさいよー」
「ごめんなさーい」
とんだとばっちりです。朱莉ちゃんを見ると片目を瞑って両手を合わせてごめんねのポーズをしていました。やれやれ。同居人が増えるとこういう問題も増えるのが悩みの種ですね。