6 ■朱莉ちゃんをお持ち帰りです。
時刻は午後3時過ぎ。人気のない公園のベンチに座って遅い昼食をいただいておりました。
モグモグ。最後に残しておいた卵焼きをコクンと飲み込んで昼食は終了です。
「ご馳走様でした」
食後に水筒に入った冷たいお茶を一口。
「ふぅー。それにしても見事にハズレでした……」
リュックサックから地図を取り出して先ほどの廃病院があった場所に○印を付けます。横には女子高生が居たと小さくメモを忘れません。
例のサイトは情報更新されておらず、新しい心霊スポットの情報も無いため、現状はお手上げ状態です。
「今日は早いですけど、もう帰りますか」
「だな。武人がロリコンだったらさっきの朱莉ちゃんとくっ付けられたかもしれないけどなー」
「生憎だけど、僕は年下に興味ないよ」
「現役女子高生に憑りついているくせに恰好つけてんじゃないよ」
澪さんが武人さんの頭をくしゃくしゃに撫でています。
「私的には澪さんと武人さんがくっ付いてくれると一番なんですが」
「私が武人と? 無い無い。あり得ないって」
「さすがの僕にも選ぶ権利は欲しいかな。縁ちゃん」
「んだと、こら」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
澪さんと武人さんがじゃれ合っているのを尻目に光莉ちゃんを探します。光莉ちゃんは少し離れた草むらで屈みこんでいました。ベンチから立ち上がり、私も光莉ちゃんの横に屈みこみます。光莉ちゃんは蟻の行進にご執心のようでした。
「楽しい?」
「うん、ありさんがいっぱいいるの」
「だねー」
ほのぼのとした空気が流れています。しばらく光莉ちゃんと一緒に蟻の行進を眺めていました。ですが、何が楽しいのかサッパリでした。
「うーん」
と私は背伸びをします。お手上げなら仕方ありません。今日はもう帰ることにします。
「皆さん、今日はもう帰りま――あれ?」
数が合いません。今、目の前にいるのは4人です。私を入れていないのに4人です。
「あ、朱莉ちゃん?」
「面白そうだから付いてきちゃった」
「元々私って浮遊霊だからね。あの廃病院にもこだわりがあったわけじゃないし」
「はぁ」
自由な幽霊もいたものです。
「私も縁ちゃんの部屋に行ってみたいなー。ダメ? 何もしないからさ」
「それは構わないけど」
「やったー」
3人までしか憑りつかれないはずなのに、4人目に憑りつかれたのでしょうか。そのような感覚は一切感じませんでしたが。
「朱莉ちゃんって、今、私に憑りついてる?」
ハッキリと聞きます。もし憑りついているなら一大事です。
「んーん、憑りついてないよ。ただフラフラ付いてきただけ」
「そう、4人目に憑りつかれたのかと思ってビックリしたよ」
私のホッとした顔をみてコロコロと笑う朱莉ちゃんです。
空を見上げると入道雲がモクモクと立ち昇っています。これは夕立の可能性がありそうです。急いで帰りましょう。
「朱莉ちゃんも付いてくるんだよね。フラフラしてると置いてっちゃうよ」
リュックに食べ終えたお弁当箱と水筒をしまうとアルビオンに跨って帰宅の途に就くことにします。
「はーい」
元気よく片手を上げて返事をする朱莉ちゃんでした。
「あっ、くれぐれもお母さんとお父さんに憑りついちゃだめだからね」
「えー、ダメなのー」
「ダメ。憑りつくって言うなら連れて行ってあげないからね」
「はーい……」
何か不安を感じますが、まぁ本人が悪さをしないと言っているので良しとしましょう。
「夕立、本当に来そうですね」
澪さんに向かって呟きます。ゲリラ雷雨に当たる前に今日はさっさと退散です。
朱莉ちゃん、浮遊霊って言ってましたし、どこか他に幽霊がいる場所を知っているかもしれませんね。後で聞いてみましょう。
朱莉ちゃんがアルビオンの後部に跨り、私の腰に手を回してくるのを感じました。朱莉ちゃんは幽霊のため、二人乗りでも警察の方に注意されることはありません。
「じゃぁ出発です」
「おー!」
私たちの後を入道雲がモクモクと追いかけてくる日曜日の夕方間近の出来事でした。