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5 ■4人…目?

「ゆかりおねーちゃーん」


 廃病院内に普通の人には聞こえない光莉ちゃんの声が響いています。


「何かあったのかな」


 私たち3人は光莉ちゃんの声を頼りに病棟を進みます。

 どうやら光莉ちゃんは上の階にいるようです。

 院内配置図をみるとそこは女性専用の病室が並ぶ階のようです。


「光莉ちゃーん、どこー?」


 私はなるべく外に声が漏れない程度の大きさで光莉ちゃんを呼びます。ここで大声を上げると色々面倒なことになりそうな気がします。


「こっちー」


 光莉ちゃんの声が近づいてきました。光莉ちゃんの声はとても楽しげです。


「ここかな」


 そこは病棟の西端に位置する女性専用の個室のようです。


「光莉ちゃん?」


 締まっていた扉をあけると光莉ちゃんがいました。そして、そこにはもう一人の影も。


「あっ、ゆかりおねいちゃん」


 光莉ちゃんが走り寄ってきます。そのまま私の上着を掴んで病室内に引っ張ります。


「どうしたの光莉ちゃん」


 私は光莉ちゃんを抱っこします。すると光莉ちゃんはもう一人の影に向かって指をさしながら


「あかりおねーちゃんだって」

「あかりお姉ちゃん?」


 私は首をかしげながら影に向かって挨拶をします。


「こんにちは」


 因みにこのもう一人の影は明らかに幽霊です。


「あなた私が視えるの?」


 影が段々と色づき始め、そこには私と同い年ぐらいの女の子が立っていました。


「はい。そういう体質ですので」


 私はフランクに答えました。


「そうなんだ、だったら……」


 急に部屋の空気が重くなります。これはまずいですね。これは明らかに私への敵意を表しています。

 私が身構えた瞬間に重くなった空気がふっと軽くなりました。


「あはは、冗談だよ、冗談」


 女の子は笑いながら手を違う違うと言わんばかりに左右に振っています。


「そうですか、びっくりしましたよ」


 私は体から力を抜きました。


「興味本位で私の部屋を荒らす輩だったら憑りついてやろうと思ったけど、何だか違うみたいだしね」

「あっ、自己紹介が遅れたね。私、ヒイラギ 朱莉アカリっていうんだ。貴方は?」

「私は館花 縁と言います。高校2年生です」

「高校2年っていうことはたぶん同い年だね。よろくね、縁ちゃん」

「はい、よろしくお願いします」


 どうやら悪霊の類ではないようなので一安心です。


「光莉ちゃんの保護者さんでいいのかな?」


 朱莉さんが尋ねてきます。


「いえ、正確には憑りつかれています」

「だよねー」


 何だかとてもノリの良い朱莉さんです。


「朱莉さんはここで何をなさっているんですか?」

「私? 特に何もしてないよ。今さっきまで光莉ちゃんと一緒に遊んでたくらいかな」

「そうなの光莉ちゃん」

「うん。あかりとひかりはおんなじなの」

「ん? 同じ?」

「あぁ、あかりもひかりもどっちも明るく照らすから一緒だねーって」

「そういうことでしたか」


 キャッキャと暴れる光莉ちゃんを落とさないように抱き直します。


「貴方、変わってるわね」

「はい?」


 光莉ちゃんにサイドポニーを弄ばれながら聞き返します。


「んーん、何でもない」

「?」

「ホントのこと言うと、最初は別のことしようとしたんだけどそこに立ってるお姉さんが怖くてね」


 朱莉さんの視線の先には腕組みをしてこちらを静観している澪さんの姿がありました。なるほど、知らない間に澪さんに助けられていたようです。後でお礼を伝えておくことにします。


「あっ、私から朱莉さんに質問があるんですが良いですか?」

「うんいいよ、何でも聞いて」


 朱莉さんが自分の胸をポンっと叩きながら応えてくれました。


「この廃病院に朱莉さん以外の幽霊っていらっしゃいますか?」

「ううん、いないよ。この病院にいるのは私一人のはずだよ」

「そうですか……」


 どうやらこの心霊スポットもハズレのようです。帰ったら地図に書いておきます。


「何々? 幽霊を探しているの?」

「はい、とある事情で」

「事情って? っとその前に、私たち同い年みたいだし、その丁寧な言葉遣い止めてタメ口でいいよ」

「そうですか? わかりました」


 同年代の幽霊に逢うのも久しぶりなので会話が弾みます。

 朱莉さんは自分のベットに腰かけ、私は近くにあった椅子に汗拭きタオルを引いて腰かけます。

 まるで昔からの友人だったかのように会話は弾み時間があっという間に過ぎていきました。


「おーい、いい感じのところ悪いけど、そろそろ別のスポット探しに行かなくていいのか? 縁」


 澪さんに声を掛けられスマホを取り出して時間を確認します。時刻はとっくに午後を回っていました。


「なに? それ」


 朱莉ちゃんがスマホに興味を持ったようです。


「これはスマホっていうの。携帯電話だよ。朱莉ちゃんが亡くなったころには無かった?」

「へーこれが今のケータイなんだ。私が死んだときにはアンテナを伸ばすやつが最新機種だったよ。32和音のやつ」

「ガラケーですか」

「ガラケー?」


 女子トークは止まりません。そうこうしているとしびれを切らした澪さんにぽこんと頭を叩かれました。


「いい加減にしな。朱莉ちゃんだっけ? そろそろお暇させてもらいたんだけどいいかな」

「えー、もっと話したいよー」


 私も同感です。ですが、澪さんのいうことも確かなのでそろそろお暇させてもらうことにします。


「えー、ホントにいっちゃうのー」

「ゴメンね、朱莉ちゃん。でもまた来るから」

「うーん」

「じゃあね」

「うん……。バイバイ」


 病室に朱莉ちゃんを一人残して廃病院を後にします。

 その時の私たちは気付いていませんでした。朱莉ちゃんがこっそりと後を付いてきていることに。

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