4 ■心霊スポットに向かいます。
まずは敷地内の侵入には成功です。次はちゃちゃっと病棟の中に入れる入口を探しましょう。
予想よりも大き目な病院で期待度は急上昇です。病院の裏手に回って扉や窓の施錠をチェックします。
「うーん、どこも締まってるなー」
窓ガラスを割って侵入なんて以ての外です。ただでさえ不法侵入なのに、その上器物破損は避けたいところです。
「これは諦めなくちゃダメかなー」
諦めかけてたその時、一つの窓が割れていました。足元にはご丁寧にも足場が設けられています。
恐らく、先にこの病院を訪れた方がやったのでしょう。全く、けしからん人もいるものですね。
でもこれで病棟内に侵入することができます。
「では失礼して、っとその前に」
リュックサックの中から先ほど購入したお饅頭を取り出して、ビニールをはがして地面に並べていきます。
「お邪魔します」
と手を合わせてお辞儀をします。
「よいしょっと」
少しお年寄りみたいな掛け声を上げつつ、窓から病棟内に入りました。
入った先はどうやら待合室みたいですね。
長椅子が並んでいます。ただ妙に荒れていますね。ゴミも散乱しているのが気になります。
廃墟マニアの方が残留物を大きく荒らすとは考えにくいので、恐らくは不良な方々が我が物顔で荒らしたのでしょうか。
それはさておき、こういう廃墟ってワクワクするんですよね。ゲームをやっているときに感じる未開の地を開拓する感覚というのでしょうか。
「ぼさっとしていると日が暮れるよ」
不意に澪さんから声が掛かります。
「分かってますよ」
早速ですがネットに乗っていたこの廃病院の心霊スポットである霊安室に向かってみましょう。
スマホをイジイジ。なるほどこの通りに進めば霊安室に着くわけですね。
では参りましょう。
「前から思ってたけど、縁ってば大した度胸の持ち主だよな」
道すがら澪さんたちと会話を楽しみます。
「そうですか?」
自分では分かりません。
「普通、廃病院の霊安室に一人で平然と行くやつも珍しいよな。武人」
「まぁ、怖がってビクビクするのが普通だよね」
「だよな」
「小さい頃からこういう場所にはお祖母ちゃんに連れられていましたし、今は澪さんがいるから安心ですしね」
澪さんは生前の強い霊感のおかげで他の幽霊たちに対する発言力が非常に高いため、仮に悪霊がいたとしても安心です。
「まぁそこは安心してくれて構わないけどさ」
頬を掻く澪さんはちょっと照れているようでした。
「そういえば光莉ちゃんはどこでしょう」
「病院が珍しんだろ、入った直後に駆け出して行ったぞ」
「そうですか」
ここが家の中などでしたら一大事ですが、仮にも心霊スポットですし、光莉ちゃんが物を動かしてもポルターガイスト現象で片づけられます。問題ないでしょう。ただ心霊スポットとしての知名度が飛躍的に向上するぐらいで。
――澪さんたちと会話を続けながらも道すがらの部屋を探索していきます。幽霊が出たとネットに投稿されていたのは霊安室ですが、他の場所にだって幽霊がいる可能性は十分あります。
廃病院の残留物を避けながら軽く部屋を見渡しますが誰も居ません。
「本当に心霊スポットですかね、ここ」
不安が募ります。
さて件の霊安室に到着です。当然ですが中から生きている人の気配は感じられません。
「失礼します」
挨拶をしながら霊安室の扉を開けました。
「……ハズレですね」
霊安室の中には誰も居ませんでした。
諦めて他の部屋を探してみようと考えたときでした。
「ゆかりおねーちゃーん」
光莉ちゃんの声が遠くから聞こえてきました。
その声は何かを見つけたときのように弾んでいました。