1 ■私、二つの意味でつかれています。
「今日も疲れたよー、蒸し暑いよー」
私、館花 縁って言います。
今日は土曜日。朝から元気にファミリーレストランでアルバイトをして汗水流した帰り道です。西日が目にしみます。
「早くお風呂に入りたいよー」
名古屋の夏は蒸し暑いと言いますが、本当のことですよ。皆さん。
日中は冷房の効いたフロアでまるでメイドさんのような恰好で接客をしていました。
今はアスファルトから立ち昇る熱気に湿度が加算されて、いい感じに蒸し焼き状態で帰宅中です。
アルバイト先から自宅までは徒歩で10分程度の距離なので、健康とプロポーション維持のために歩いて通っていますが、サイドポニーが首筋にペタペタとくっ付くのが若干、嫌になります。
それはそうと何気に明後日の月曜日はアルバイト代が入るんですよ。とても憂鬱です。
何故アルバイト代が入ることが憂鬱になるんだって?
簡単なことです。足代が入るからです。
足代って?
私の相棒であるスクーターのガソリン代です。
意味が分からない?
追々分かっていきますので気になさらず。
「これ、そこのお嬢さん。ちょっとお待ちよ」
茹だる暑さとアルバイト帰りでヘトヘト状態で歩いていると知らないおばさんに声を掛けられました。何でしょう?
「?」
私は頭にクエスチョンマークを浮かべながら話しかけてきたおばさんにのこのこと近づいていきました。
「実は私、視えるんだけどね。あなた憑かれているわよ」
「はい、疲れてますよー。それじゃあ失礼します」
ちょっとだけ気怠く答えちゃった。ごめんね、おばさん。
「ちょっとお待ちよお嬢さん、ねぇったら――」
「失礼しまーす」
おばさんから距離を取るためにちょっとだけ走って帰ります。
「ただいまー、お母さんお腹空いたよー」
「はいはい、先にお風呂入っちゃいなさい、縁」
「はーい」
帰りの数分間を走ったおかげで下着まで汗でびっしょりです。そんな下着は洗濯機にぽいーしちゃいましょう。
まずはシャワーで全身の汗を流して、頭→体→足の順に洗っていきます。
その後は湯船にざぶーんと入ります。
「ふぃうー。疲れが取れる、癒される―」
口から魂が抜けそうなくらい全身から力を抜いて湯船につかっていると、ふと先ほどのおばさんのことが思い浮かびました。
「あのおばさん、視えるって言ってたなー。じゃあ、あの人も本物なんだ。けど何人見えたのかな? まぁいいや」
お湯をパシャッと顔に当てて夕飯のことを考えました。
お風呂から上がったら夕飯です。今日はお母さんお手製の肉じゃがでした。私の大好物の一つです。とても嬉しいです。嬉しさのあまりご飯をおかわりしてしまいましたよ。これには少し反省です。
夕飯も食べたことだし、後は宿題をやって明日の予定を考えれば今日は終了です。ただ、明日の予定を考えることは非情に憂鬱です。また骨折り損のくたびれ儲け、ただの銭失いだったとしたら……何のためにアルバイトをしているのかって話ですよ、全く。
――チャチャっと宿題を済ませられるあたり、私は優秀な部類に属するのでしょう。自画自賛かもしれませんけどね。
「さてと、じゃあ明日、どこのスポットに行くか考えますかー」
私は使い古した地図を本棚から引っ張り出しました。そして机の引き出しから取り出した赤ペンを口に咥えながら
「どこにいるのかなー、いい人ー」
と独り言を言いつつ地図をパラパラと捲っていきます。使い古した地図には赤ペンで丸印や✕印、細かい文字で色々書かれています。
「そうだ、新しい情報がネットにアップされてるかも」
とベットの上に投げ出されていたスマホを操作します。私が開いたサイトはその界隈ではとても有名な心霊スポットを紹介しているものです。
「この心霊スポットウソだったじゃんか!」
憤慨しつつ、サイトの更新情報を見ていきます。すると家からさほど離れていない廃病院のことが書かれていました。
「こんなところに廃病院ってあったのかー、知らなかったー」
明日の予定が決まりました。ここに決定です。
「明日の予定も決まったことだし早めに寝るからね、静かにしててよ皆」
言いそびれてしまっていましたが、私、3人の幽霊に憑りつかれています。
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