挨拶回り 宗教部門
天使と一緒に頑張っていこう。
そう思ってから三日が過ぎた。その間の仕事は仕事場の片付けだ。
先代が失踪してから放置されていた仕事場を必死で片付けた。
扉を開ければホコリが出迎えるような籠った部屋の窓を全て開け、水を入れたバケツと雑巾をありったけ持って来させた。
棚をどかして棚の下も拭き、棚を戻す。散乱した資料は軽くホコリを払い適当な箱に詰めて番号をかいておく。
そんな日々が3日も続いた。綺麗になっていく部屋を見ているとやりがいはあった。綺麗になった後の応接室のような立派な仕事場を見たときに達成感を感じた。だけどもう二度とやるか。
「おはようございます。さあ、今日こそはお仕事ですよ」
アイリーンとも3日の必死の掃除を通じて多少打ち解けた。共同作業を本格的な仕事の前に出来たのはうれしい誤算かもしれない。
「まず始めに何をしたらいいんだ?」
「そうですね、先ずは掃除ばかりで出来ていませんでしたが各部門に挨拶回りでしょうか、今日はそれで潰れるかなと思います」
「なるほど。そういやまだやってなかったな。適当に身支度したら行くか」
用意されていた軍服のような制服を着て髪を整え、口をゆすぎ部屋を出る。
「ええと、実は掃除中に雑務の方が合いたいと言ってきた部門の人達を整理してくれてます。どの部門も直接来ていいとのことなので整理された順に行きましょう」
アイリーンの手元にあるクリップボードを覗き見れば地図のあちらこちらに番号が振られている。
「なあ、こことそこ近いのに何で番号順離れてるんだ?近いなら一括したほうがいいだろ」
「そこは面倒な話ではありますがやはり順番というのを気にされるのも珍しくはないので整理された順にという大義名分のためですね」
順番なんていいじゃねえかとも思ったが素人な俺は黙っておいた。そんなことお構いなしな人もいますけどと呟いたアイリーンについても黙っておいた。
「では初めは神官長ですね。一番、つまり真っ先に会いに来てくれた人です」
「おお、ようこそいらっしゃいました。天使様に人事部門長様、こちらへどうぞ」
神官長は優しげでありながらも軽く見れない大樹のようなじいさんだった。神官達と神殿の掃除に励んでいたが俺達を自室に上げてもてなしのお茶とお菓子を用意してくれた。
「神様からの御遣い様というものは昨今でこそ珍しくはないのですがなかなか勇者以外の役職が現れず難儀しておりましてのう」
あの神様のことだからどこまで本当かわからなかったが勇者の供給過多は事実らしい。
「いや、俺もこうした仕事初めてですし。そんなかしこまられても」
「いえいえ、神様に選ばれたというだけでどれ程の価値があることか。神殿はあなた様の味方です。何時でも頼ってきてくだされ」
優しく微笑みつい頼ってしまいたくなる父性を醸し出す神官長。何かあったらこの人に頼ってみようか。俺には神様より便りになりそうだ。
その後出されたクッキーは子供達が焼いてくれたものだとかアイリーンについても教えてくれたりした。
「………そこで我等神殿の者は立ち上がったのです。あの頃はワシも若く」
ゴーンゴーン
「む、これはいかんいかん。つい爺の長話をしてしまいました。若い者からはよく注意されるのですが歳をとるとどうにも語ることが多くて困りましてのう」
「いえ、神官長様のお話はとても面白かったです。ではまだまだ他部門の訪問が控えておりますので失礼します」
最後はアイリーンが締めて見送られながら神殿を後にした。
へなりとアイリーンの羽が萎れる
「長かった、全部知ってる話だったし……」
表に出してなかったが長話に疲れたらしい。まあ、校長の話を聞いてたもんだしなあ。朝起きて昼までだ、俺もしんどい。
「でもまだ友好的な分いいんですよ、私が挨拶で一日潰れると言った理由もわかるでしょう?」
「ああ、まあな」
「次は研究部門です。とりあえず向こうの要求は全部まだわからないとでも答えてください。万年予算人材不足を訴えているとこなんで多分何かしら言ってきます。」