着任
笑われるかもしれないが俺はヒーローや勇者に憧れていた。
魔物や怪物といった[悪]に立ち向かいかっこ良く人々を救う存在になりたいと思って何度も空想をしては家族に見つかり悶絶した。
そしてそのチャンスはある日突然やってきた!
筈だった。
実際になろうと思えばなれた
だが今の俺は異世界の人事部いる。
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「君、別の世界にあったよね?異世界で仕事しない?」
それがある日神様に出会った時に言われた言葉だった。
曰く異世界にも人間はいるけど歴史の組み立て方の違いや外敵で数が俺のいる世界より少ないらしい。
「だからね、僕は別世界へと保証を付けて人間を送って異世界と人間の数を釣り合わせるって方法考えたんだ。今のままいい加減目を覚ませって言われながら大学受験してるよりかは君のためにもなると思うなあ僕は」
男かも女かもわからない怪しい神様は言葉までも怪しかった。
しかも浪人生の環境をチクチク刺してくるいやらしさも金揃えている。ファック
「んで、どうすんの?やるのやらないの?後がつかえてるんだけど?僕の仕事が進まないんだけど?」
ああもう何だこの神様うざい!
「やるよ、やってやるよ!夢だからな!」
「はいオッケー。でも一応義務だから話すけどさー、何も仕事は勇者とかヒーローだけじゃないんだよ。むしろ飽和してるから他の仕事紹介したいんだ」
椅子を用意し疲れたと言わんばかりに肘をついて話す神様。
そろそろ逆にわざと煽ってるのではないかと考え出してきた。
「夢だって言ったし知ってるだろ?」
「うんうんわかるよ?でもね?夢は理想で現実じゃないんだ。保証を付けるとは言ってもやることは血生臭いし死なない保証でもないからね?」
え?
「今なんて?」
「はい案の定。大方チート能力無双やスーパーマンみたいなの予想したんだろうけどね?現実は半分しかあってないんだよ」
夢は変わらない。変わらないが神様の言葉に尻込みしてしまう。
「半分って?残り半分は例えばどうなんだ?」
俺の問いにんー、と少し考えて
「あんまりにも強い力なんて国からしたら鬱陶しいから謀殺されたのもいるし調子にのってたら寝首を魔物にかかれたり、酷いのなんて敵なしどころか外敵にも人間にも狙われる敵だらけだったのもいたね、あははは」
…………
「適当にやればいいだろ?そんな目立つこととかしないでさ」
尚も食い下がる俺に神様はふぅーっと溜め息をついて椅子により深く腰かける。
「うん、君は物分かりの悪い馬鹿だからもう直接言ってあげるね?諦めよう?無理。勇者は適当な仕事じゃないしそうして尻込みする奴は意思が弱いからハッピーエンドを掴めないんだ」
何かが俺から崩れ落ちたような感覚がした。
「他の優良職が空いてるのはまだ運がいいんだよ?まあ無理強いは後で僕が面倒くさいからしないけど。あ、やっぱやめて大学受験頑張るのもいいよ?」
このまま大学受験に戻ってもやりたいことがない。見つからない
だけどこのまま勇者になろうとしても神様の言葉に尻込みした自分は納得をしてしまった。
だからもう答えは1つしかない
「お願いします、いい職で……」
我ながら口惜しさが滲み出た酷い声だ。
そんな俺とは対照的にパンと手を叩き神様は顔を綻ばせる
「うんうん、良かったよ!これで君はラッキーなことに滅多にない幸せに出会えるんだよ?いやあ、これで僕もこれ以上勇者寄越すななんて言われなくて済むよ」
「今本音がでなかったか?」
「出ちゃったねー。でも君は僕の言葉に納得してしまったし無理なものは無理じゃないかな。そこは嘘偽りないよ」
いそいそと紙とペンと机を召喚して何かを書きながら一瞬こいつの出任せかと期待に釘を刺される。
「はいここに名前書いてね、読めない字なんて書いたらそのまま異世界に叩き出すから。後社会人じゃないしキャリアもないよね?アドバイザー代わりの天使一体君にあげるからそれ保証ね。好きに使ってね?君の部下だから」
決まったら早いとばかりに次から次へと手続きを済ませていく神様
「具体的な職って何なんだ?後天使は美少女にしておいてくれ」
「異世界で人事のお仕事。地位はすでにあるけど最近勇者だとかで仕事が増えてる。やる気だしてくれるならそれくらいはいいけどホント人間ってそんなのばっかだね?」
トントンと書類を机で整え光のわっかでまとめた神様は俺の下に魔方陣を出す。
「ヒロインは物語につきものなんだよ。それで、もう行くのか?」
「そうそう、後はもう僕の責任でもないし好きにしたら?それじゃいってらっしゃい」
光が強まり視界が光に包まれる
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再び目を開けるとそこはイギリスとかにありそうな教会だった。
俺の下には魔方陣、回りにはざわつく人々。どうやらこの人達に召喚された形らしい。
そして天上から光が刺し一人の天使が地上へと降り立つ。
ざわついていた人々は方膝をつき祈るポーズで天使の言葉を聞く。
「こちらの方が今回の選ばれしものです。この世界で空席であった人事を勤めます。彼により世界はより幸福と光に満ちることでしょう」
それからあれやこれやと何もわからないままに俺の部下だと言った天使が手続きを行い俺と天使は何やら立派な建物の一室をあてがわれた。
「私の名前はアイリーンと言います。本日よりあなた様のために尽くしますのでよろしくお願いしますね」
部屋につき二人になるとやんわりと微笑みながら自己紹介をされた。
注文のお陰かおっとり顔の可愛い天使だ。俺が諦め手放したものの代わりに手に入れたものと考えれば男なら喜ぶところも素直に喜べない。
だが神様は言っていた。俺はまだ運がいいと。だから頑張ってみようと思う。だから俺も笑顔で部下に応えた。
「こちらこそよろしくな、一緒に頑張っていこう」