7つの石と半妖精ユニのものがたり
『オレは思うのだが、我々はかんぜんに奴の魔道の罠にかかったぞ。ほれ、ここを通るのはもう7回目だ」
「わかっている、お前は少しくらいなら黙れないのか?」
『それが無口な石の精であるこのオレに言う言葉か?だいたいオレはお前に従ういわれはないのだぞ!』
石の精の反応に流石にカッとなったユニは、感情を隠すこともなく石を怒鳴りつけた。
「誰が付いてこいと言った?お前が勝手に俺に従っているのだろう?お前なんか・・・」
ユニは石を腰の皮袋から取り出すと、今にも投げようと振り上げた。
『うわ!ま・・・待った!もう黙るから!・・・そうだ!それよりこの森を抜ける手立てを考えなくてはならぬぞ!その際、道に密接な関わりのある『石』であるオレを一緒に連れていると何とかなるかも・・・』
「わかったよ・・・。」
ユニは石を再び腰の皮袋にしまった。
これが自分の甘さであることをユニは百もしょうちしていたが、今更自分本来の性格を変える気にはなれなかった。
ーまったく、こいつは本当に厄病神だよ・・・。
ユニの心を読んだかのように石は口を開いた。
『たしかにオレがおまえと共に旅をするようになってから、多少トラブルが多いかもしれんが、それはオレのせいではないぞ。だからオレをどっかに厄介払いしたら何とかなるという考えこそ、どっかに放り投げるが良い』
「うるさい!さっさとこの『輪』から抜け出す方法を考えろ。それとももう一回りしたいか?」
『悪いが、すでにもう一回りした後だ。ほれ、あそこの右に転がるあの黒い石ころ、覚えているか?つまり、もう8回同じところを歩き続けて・・・・』
「そんなことは聞いてない。どうやったら出られるかを聞いているのだ」
『悪かったな、オレの考えによるとだ。俺たちは見かけに騙されているわけだから・・・、そう、おまえの体の半分もこの「みかけ」でできているわけだが・・・そもそも我々精霊はおまえのような「みかけ」でできているものどもより根本的にだな・・・・』
ユニは無言で石を腰の皮袋からとりだした。
『!!・・・つ、つまりこの道の周りに広がる森が怪しいわけだ。石の精であるこのオレ様の特殊感覚によると、地面の存在はたしかなのだが、どうも・・・・』
「さっさと結果だけを言え」
『わかったよ、ひとつだけ言っておくが、おまえはオレに命令する権利は・・・』
「結論を言えといったのだが??」
『そ、その・・・木々は幻覚だから眼を閉じてまっすぐ歩けば良いんだよ。ほら、本当の森の中なら気のせいとかの力があふれているだろう?見えるかい?』
そうだ。この森にはいってから感じた違和感のナゾがやっと解けた。ここには木々の精がいないのだ。
『地面の存在が確かなことは、石の精であるこのおれが保証するからさ・・・・うわっぷ』
ユニは無言で石を皮袋にねじり込むと眼を閉じて歩き始めた。
所々感じる木々の精の弱い力はおそらく本物なのだろう。だが、明らかに木々の精の力を感じないところがいくつもある。そこに向かってまっすぐ歩き始めると、ぶつかるはずであった木々に触れることはなく、彼は進むことができた。
あの魔道士の魔力を再び破った喜びに、ユニは軽く微笑みを浮かべた。
ずいぶん前に書かれた短編です。
半妖精ユニと、盲目の魔道士とが、精霊達の王復活を巡って戦うという、お話しの一部分を切り取ったものになります。プロット自体はそれなりに長編として作れるボリュームで作り込まれていたのですが、ほとんど忘れてしまいました。
大昔に手書きで書かれていたものをデジタル化しておこうと思って残したものになりますので、続きを書いたりするつもりはまったくありません。