ある日の出来事
鏡に写る私は、自分でも見違えるくらいに綺麗な姿だ……と思いたい。いつも苦労して手入れをしている長い黒髪は、後ろで纏めて貰って綺麗な蝶を模った簪を挿して貰っている。化粧は薄くし、着物も落ち着いた紺色に様々な花を模った模様が浮かぶ。
私は改めて自分をみるとニヤニヤとしてしまうが、頑張って仕事をしなければならないのです。
「さぁ、今日も頑張りましょう」
私は小さくガッツポーズを取って気合いを入れると自分の仕事を開始します。
私の仕事は小さな日本料理屋さんで料理を運んだり、注文を聞いたりと言わばウェイトレスのような事をやっています。旬の食材の名前を覚えるのは大変で、時々お客様から質問された時には女将さんや板前さん達に聞いてお答えしています。
町の食堂やカフェなんかでも季節毎の限定が出たりもしますが、ここでは今朝取れたものでメニューが変わるので、毎日色々な事を覚えられて嬉しいです。
そして、今日もお客様から尋ねられた事をお答えしに行って、その流れで少し世間話をしているのです。
「成程、君は若いのに色々と謙虚に学び、そして物事を良く考えているんだな。君も見習えよ?」
白髭を蓄えた老紳士がまだ若い青年に苦笑を浮かべながらお酒を飲んでいます。青年の方は「はぁ」と気のない返事をしながら、料理を食べています。
そんな姿に気を悪くせずに、老紳士はお酒を口へと運びます。
このお2人はどのような関係なのでしょうか?
私はおふたりの関係に興味を持ちながらも、お客様の事を余り聞くのも失礼かと思い黙ってしまいます。
「私たちはただの上司と部下ですよ、お嬢さん」
ニヤリ、と笑みを浮かべる老紳士に私はドキリとしてしまいます。
「なに、年の功というもので大体の人の考えている事はわかります。コレ以外は、ね」
顎で青年を指すと彼は苦笑いを浮かべて、私に微笑みかけてくださりました。
「まぁ、いつもは時々話すのですが、貴女のような可愛いお嬢さんの前だとだんまりを決め込む少し内気な男なんですよ」
「……違います」
ボソリと答えて老紳士を睨む青年に、老紳士はケラケラと笑う。
「さて、こんな私達に足止めされた貴女に、気持ちばかりのお礼をいたしましょう」
老紳士はそう言って、数本の糸を鞄から取り出すと、片方を垂れ下げもう片方は両手で隠している。お祭りにある紐くじのようです。
「さぁ、お嬢さん好きな糸を引っ張りなさい」
そう言って、私の方へ手を出しました。私は迷った末に1本を選ぶと、えい、と引っ張ります。私が勢い良く引っ張ったので“それ”は紐から外れて明後日の方角へ飛んでいきました。
私が先に何もついていな紐に首を傾げていると青年がおでこを擦りながら私に何かを差し出します。
私が目を白黒させていると「ん」と言って小さなものを差し出してくるので、思わず受け取ってしまいます。
手の中のかぼちゃ型のチョコレートと青年の顔を交互にみる私に、老紳士はケラケラと笑いながら言うのです。
「ハッピーハロウィン」
お題:和室、チョコレート、糸




