水面のひまわり
その少年と出会ったのは、それが2回目だった。
親戚同士ではあるものの、かなり遠い親戚だったこともあり今まで何回も会うことがなかったのだ。
けれど一回目の記憶は私が幼すぎたせいかあまり覚えがない。
ただ、前はこんな感じではなかったという思いが漠然と浮かぶのみだった。
「……気持ち悪い」
そしてそれが2回目の第一印象だった。
私より一つ年上の彼は、まるで生きた目をしていなかったのだ。
彼は挨拶をした私に軽く会釈で返してはきたものの、その目には既に私は映っていなかった。
私は母親に、「あんな子と一緒には暮らせない」と直訴したものの、「あの子は可哀想な子なのよ」と言う母親の一言に一蹴され、結局それは聞き入れられることはなかった。
それから私の家に一人家族が増えた。とは言っても私と彼との会話はない。
私の父親とも母親とも、彼は必要最低限以下の会話しかしない。
だからこそ余計に気持ち悪かったのかもしれない。
小学校から私が帰ってくると、五月蠅い蝉の鳴き声と共に彼は縁側にぼーっと座っていた。
私の母親からゆっくりと過ごせるようにと渡された着物に着替え、彼は庭を見ていた。
何を見ているのかと思い私が近づいても、まるでそれに気づいてないかのように、彼はその視線をずらすことはなかった。
ただ彼の視線の先には、私が毎年植えている一輪のひまわりがあった。
しばらくして、転入の準備が済み彼は私と同じ学校に通い出した。
けれど彼はそこでも孤立していた。
話しかけてくるクラスメイトを全て無視していたんじゃ、それは当然の結果なのかもしれない。
私が友達と遊んで帰ると、誰とも遊ばず学校からすぐに家に戻る彼はいつも着物を着て縁側に座
っていた。
剣術教室からの帰りが遅い時でも彼はそこにいた。
おそらく彼は学校や食事、睡眠以外のほとんどの時間をそこで過ごしていたのだろう。
私はそんな彼をいつも見ていた。
嫌いでしかたなかった彼を、気がつけばいつも見ていた。
ある日服を取り出そうと自室のタンスを開けた時、タンスの上から何かが落ちてきた。
落ちてきたものは自分の体を掠めるように床に落ちた。
「……麦わら帽子」
床に落ちたものの名前をなんの気なしに呼ぶ。
すると水の音がした。
違う、これは私の頭の中のイメージだ。
何かを忘れている。
瞬間、脳裏に彼の笑顔が浮かんだ。
私は思わず膝をついた。
……そうだ、思い出した。
私は――彼に救われたんだ。