未来の光
謎に包まれたある一族が残した不思議な力の物語です。
「その人を解放するんだ!」
そこは、この世でもあの世でもない不思議な空間。昼間だと云うのに、青黒い灰色の闇に覆われていた。
「太陰を司る者たちよ、去れ!」
その闇の中を、女性を抱えた妖魔が浮遊しながら追手を振り切ろうとする様に、不規則な飛行を繰り返していた。追手の数は3つで、赤味がかった光の玉の様であり、微妙に形を変えながら飛行していた。やがて、援軍を得てその数が4つとなり、5つとなり、6つ目が加わった頃には妖魔の行く手が次第に阻まれて行った。
❝この女は渡せん。やっと見つけたのだ。千年も探して、やっとだ。❞
追い詰められながらも、妖魔は腕の中の自分より一回りか二回りほど小さく華奢な彼女を覗き込んだ。女性は、20代前半くらいだろうか、美しい花柄の着物姿で、髪は綺麗に結われていたが、気を失っているらしく、おそらくはかなり愛らしいだろうその瞳を観ることは出来なかった。
その時だった。金色の光が突然降って湧く様に、妖魔と追手の間に割って入った。
「土御門の方々、お待ちなさい。」
「まさか、弥勒様。」
「精霊である貴方方の立場も分かりますが、この者をこれ以上追い詰めてはなりません。」
「菩薩ともあろう貴方様が、何ゆえこの様な輩を庇いなされるのか?」
「私に考えがあります。さあ、お行きなさい。」
その言葉に、一時止まって様子をうかがっていた妖魔が、精霊達の隙を突く様に囲まれかけていた輪の中から飛び出し、蒼暗い闇の中に微かに灯った瑠璃色の光の方に飛び去った。
「あの光は、もしや?」
精霊達はもう追わなかった。
「糺の森に届く無限の力ですよ。」
「ここはかつて糺の森と云われたあの地なのか。いつの間にか、こんな西まで来てしまったんだな。」
「導かれる様にね。」
「あの光は確か数百年に1度しか現れないはずでは?」
「時が来たのです。」
菩薩の謎の言葉に精霊達も、その不思議な光に吸い込まれて行く妖魔達を見守った。
お付き合い頂きまして、ありがとうございます。そんなに長い話にするつもりはありませんので、よかったらこの後もよろしくお願い申し上げます。