悪魔の正体
「あの勇敢な『ゴラゾム』が、一体どうしたのだ?」
「……この星を我がものにしようとは。お前は本当にあの『ゴラゾム』なのか?」
「一体お前は何者なんだ」
ただ不敵に笑う『ゴラゾム』、三騎士は強大な『ゴラゾム』を囲んで叫んだ。
「『セブリア』の王、『ラクレス』召還!」
『ミルノータス』が実体になった。『ゲルノータス』もそれに続いた。
「『テラリア』の王『コオカ』、召還!」
そして最後は『クルノータス』が声を上げた。
「『ゴラリア』の王『エレファス』召還!」
『ミルノータス』が口を開いた。
「『カブト』はまだ戦えない、いくぞ二人とも」
「ふん、俺はあの時とはずいぶん違うぞ。試してみるか?」
『ゴラゾム』は両手の先から緑色の光を放った。横跳びをして『ミルノータス』は『ラクレス』の巨大なツノを振るう。しかし正面からそれを打ち込まれても『ゴラゾム』は微動だにしない。『ゲルノータス』が『コオカ』の大アゴを使い相手の左手をとった。しかし『ゴラゾム』は右手で一方の大アゴを握ると渾身の力を込めてそれを引き剥がした。『エレファス』の体重を使い『クルノータス』は体当たりを試みる、だがほんのわずか後に下がっただけではじき飛ばされてしまう。格段に『ゴラゾム』は手強くなっていた。
ーかつてこの惑星に危機があった、闇の力を手に入れた『ゴラゾム』が『レムリア』を追って来てしまったのだ。『ゴラゾム』らは武力で一気にこの惑星を制圧しようとした。自分たちが呼び込んだ悪魔に、責任を感じた三騎士はこの惑星のため彼らを倒した。そのときの『ゴラゾム』はこうまで強くはなかった。
「『リカーナ』を頼む、『ゴラゾム』は私とともに宇宙に消えよう」
三騎士にそう言い残すと『ビートラ』は倒れた『ゴラゾム』を抱きあげると『キャステリア』に乗り込み、この惑星を離れて宇宙に消えたのだったー
「何故わしが更なる力を得たのか知りたい様だな。ふふん教えてやろう」
『ゴラゾム』の言葉は『虹のほこら』にまで響いた。『黄金のカブト』に封印された『カブト』にもその声は響いて来た。
「さすがは『ビートラ』。その命を武器にしてわしをこなごなに砕きおった。わしが自分で魂を封印するなど考えもしなかった。寸前でわしは『ナツメの石』に形を変えて生き延びた」
「何故、息子たちを狂わせた!」
『カブト』が声を上げた。一瞥して『ゴラゾム』が言った。
「ほう、その声は『カブト』か。今のお前と同じさ。実体化するには寄り代が必要なのさ、俺を呼び戻す強靭な寄り代がな。まあ、そのおかげでわしは余計なものまで背負い込んでしまった。わしを召還できるのは『レムリア』の子孫だけになった。お前たちを根絶やしにはできなくなったのさ、あいつのおかげで」
「あいつ?」
『ミルノータス』がつぶやいた。
「わしの名を教えてやろう、『ヨミ』大いなる闇を司るものだ。『ゴラゾム』はわしを巧く利用したのさ、お前たちのためにな、さすがはわしが見込んだ男。なんとも頭の切れるヤツだ」
それは「キャステリア」の中での出来事だった。
「次の流星群までの間隔が短くなって来ている。頑張ってくれ、みんな」
『ゴラゾム』は砲火をくぐり抜け、着弾する流星の衝撃が、次第に増えてくることに気付いた。おびただしい流星を『キャステリア』に残った者たちが一丸となり必死で打ち砕いている姿を思った。彼の前後左右に扉が現れ、彼の行く手を阻む。彼は今、音も光も届かない空間にいた。やっと彼の念波が『ヨミの扉』に届いたのだ。
「リグル・ゴラゾーム・クッティース・レム・キャステリア・ポーキ』
それは〈鍵を持った『ゴラゾム』と言う名の者が、『キャステリア』に乗って来た。ここを開けてくれ〉と言う意味だ。しかし扉には変化が無い。
(間違っているのか?いや……)
次の瞬間、彼の周りの扉はたちどころに消え去り、目の前に小さな祭壇があらわれた。そのかがり火に照らされたのは身体が緑に光っている小さな男の子だ。あぐらをかいているその身体には、薄い布の上から幾重にもくさりが巻き付けられていた。彼はいぶかしげに片目を開けた。
「ほう、『タオ』でも『マナ』でもない、そうか、たった今扉の向こうで『ゴラゾム』とか言っていたやつだな。ここまで何しに来た!」
「貴方が『ヨミ』ならば、叶えて欲しい事がある」
「わしにできぬ事は、無い。代償はそれ相応にいただくがな」
『ゴラゾム』は少年の前に一歩進み出た。
(もう、後戻りはできまい、愛しの『リカーナ』。きっと再び希望は輝く……)
「……なんだ、そんな事か。わしにとってはたやすい事だ、ここまで来れたお前の念波の腕は立証済みだが、それだけではわしの寄り代にはふさわしくはない。生身のお前はどうだろうな?ちょうどいい、お前にも見えるだろうが最期の流星群を見事乗り切ってみろ。その先に『タオ』がわしを封じ込めた小惑星がある。そこでお前を待とう、そうだ、ここまでやって来た褒美に早速一つ、新しい生命エネルギーを送ってやろう。わしは気前がいいだろう? もっともそれはもともとお前にあったものを集めたものだがな」
「私にあったもの?」
「そうさ、お前達は大きな勘違いをしている。虫人という種の終わりが来たのではない。『ゴリアンクス』、『ルノクス』この両星は最初に現れた惑星だ。いや、正確に言えば『タオ』の命令でこのわしと『マナ』の二人がそれぞれ作った星なのだ。しかし失敗作だった、不良品は壊さなければならない。そして星の寿命が決まったのだ。星とともに全て滅び去ることになっていた。その『タオ』の決定に『マナ』は逆らった。それが繁栄の中、ふくれあがっていたお前達虫人の数を減らすという事なのさ」
「それが俺たちの『生命エネルギー』を封印すると言う事か……」
「今、お前の目の前のわしは『猿型知的生命体』の一つ、『ヒト』。知的生命体はいまや宇宙に広がっている、トカゲ型の『キョウリュウ』海中に住む『カイリュウ』大空を住処とする『テンリュウ』まだまだある、その一つがお前達『ムシビト』だ。俺たちが作ったまっ赤な火の玉が冷えると、やがてそれはガスに囲まれた。その星でやっと生まれた生命体がいた、その名は『ミドリ』。『ミドリ』によって次々と変換された豊富な酸素。その中でお前達は生まれたのだ。回りには敵もいない、餌になる膨大な『ミドリ』。そこで繁栄した『ひ弱な生命体』が自ら星を飛び出す訳がない。他の生命体と比べるとかなり見劣りする『ムシビト』を『タオ』は星の寿命とともに予定通り滅ぼすつもりだった」
(これが、真実なのか)
「決断の日、『マナ』は『タオ』に逆らった、そのためこなごなに打ち砕かれ、大宇宙に散らばった。それと引き換えに、お前達の『生命エネルギー』を封印して、残ったものに伝承しそれを結晶させる、という禁呪がかけられたのさ。」
(……それを結晶するのが、『リカーナ』の使う術なのか……)
「おかげで俺はこんな姿のままだ。さあ戻ってその流星群を乗り越えてみせろ、俺は約束を守る。お前が寄り代になったら『ムシビト』の封印を解こう。それができるのはもはや俺しかいないのだ」
「ゴラゾム」の前から「ヨミ」は消えた。




