希望の「キャステリア」
「そうか、三騎士が出発したのか。皆の希望は日ごとに膨らんでおるのだな」
「はい、それに『ナチュズン』の推進装置は『ゴラゾム』様の命じられた通りにすでに『キャステリア』のシステムを応用しております。おそらくはこの船の倍の速度で航行でき、三倍の航続距離にはなろうかと」
副大臣は自慢のヒゲを大きく開いた。そこに『ビートラ』が部屋に入ってきた。
「兄上、私に『レムリア』を任せるというのは本当なのか?」
「おお『ビートラ』お前が承知してくれればのことだが」
「それは構わぬが、兄上はどうするつもりだ」
「心配するな、『キャステリア』で一仕事終えたら『レムリア』と合流する」
「一仕事?」
「実は、この先に数多くの流星群がある。満足な大砲も防御も無い『レムリア』ではひとたまりも無い、しかし案ずるな『キャステリア』が盾となる。それが仕事だ。これは俺にやらせてくれ、父上がおっしゃっていたろう、再び我らのふるさとをこの宇宙の何処かに興すのだ」
曳航されたままの『レムリア』まで『ビートラ』を送り、戻りかけた『ゴラゾム』は明るい光に頭を上げた。艦橋をかすめて星が過ぎ去る。そろそろ流星群が近づいてきたのだろうか、外宇宙に待つ『希望』に向かい、繋留ロープを縮めた『レムリア』は『キャステリア』と一体化して航海していた。
「『レムリア』に小石ひとつも衝突させはしない……」
彼は念波をさらにロープに練り込むと、『分離装置』をそっと装着した。それは遠隔からでも操作できるものだった。彼はふと誰かの視線を感じた。
「『ゴラゾム』様、それは?」
「ああ、『リカーナ』。この流星群を防いだら『キャステリア』を切り離すためのものさ。今度は『レムリア』がみんなの希望を運ぶんだ。外宇宙のさらに次の銀河にまで行ける」
(その地にそなたと二人で降りたかったのだが……)
『ゴラゾム』は彼女に悟られないように心を閉ざした。抑えきれない気持ちが溢れ出し、彼は『リカーナ』を抱き寄せた。時折輝くのは流星同士がぶつかる時に放たれる火花。その中で二人はやがて重なった、この時『ルノクス』も『ゴリアンクス』もない。『キャステリア』も『レムリア』もひとつになったのだ。
「ミノーレ・カラミール・レモ・サラマントス、ゆっくりおやすみ。『ビートラ』はきっと君も国民も幸せにしてくれる。私はいつも君たち二人と『レムリア』を見ているよ」
耳元でそうささやかれた『リカーナ』はたちまち気を失った。深い眠りに入った彼女を抱き上げると『ゴラゾム』は再度『レムリア』に向かった。彼女をベッドに寝かせ、そっと別れのキスをした。
「さあ、いよいよ来るぞ、仕事にかかるか。おやっ、お前たちは?」
艦橋に戻った彼を迎えたのは、予想外の人数だった。
「砲術長の『ザーラー』、副大臣の腕では電波砲は扱えませんでしょうから」
「レーダー担当『ヘリメウス』流星は全て捉えて計測します」
「操舵長『メルサー』コンマ五度の舵さばきをご覧に入れましょう」
「そのほかにも数名、この『キャステリア』に残ったものは全て覚悟を決めています」
「副大臣……」
「まさか降りろとはおっしゃいませんでくだされよ、『ゴラゾム』国王」
「国王は無かろう、ハッハッハッ」
「よいではないですか、女王がおっしゃっていました、国民が一人でもいればそこは立派な国だと。私がいつも見守っていると、それが女王なのだと」
「おいおい、『リカーナ』まで女王にしてしまって」
「おやおや。この期に及んで。あの『草原の裸足の天使』に心を奪われてしまった王子を担いで帰った、我々の目はごまかせませんよ、『ゴラゾム』様」
「ハッハッハッ、お前たちには叶わんな」
「二時〇八分の方向から第一群流星飛来。数三十二」
『ヘリメウス』の声に一瞬でその場の空気が変わった。
「さあ、ここは私たちが、『ゴラゾム』様はすべき事をなされてくだされ」
「わかった、『ヨミの扉』を必ず開き、もう一度若き生命エネルギーを私は取り戻そう。皆のために『キャステリア』は一丸となって未来を切り開く!」
流星の第一群を一つ残らず粉砕したあと、若き『ゴラゾム王』は念波の部屋に入り、しばらくは彼らの前には現れなかった。




