イトの復活
「あれが、『アギト』と『イオ』を取り込んだ悪魔の姿か」
『ドルク』は、脱皮を終え、異形なツノと大アゴを交互に動かす悪魔を呆然と見た。
「まさしく伝え聞く『イト』、いや『ゴラゾム』と呼ぶべきか」
『ミネス』が声を震わせた。もはや誰も立ち向かえるものではない。
「『バイオレット』もう一度戦う方法があると言ったな、それを教えてくれ」
「でも」
彼女はためらった、それは虹の国の巫女に伝わる禁呪だった。
(何をためらうのですか、『バイオレット』。『レムリア』を救うのです!)
『マンジュリカーナ』の声が聞こえた気がした。彼女は決心し、祭壇に立つと『テンテン』と『リンリン』を側に呼び寄せた。
「『バイス王子』、『カブト王子』ここへ来るのです」
そして、傷ついた王子に命じた。『メイメイ』は虹色テントウの最高巫女『バイオレット』だ。
「真実を話しましょう、かつてこの国を救った伝説の『虹の戦士』は『マンジュリカーナ』でした。愛する『カブト』が『ゴラゾム』に心を支配されたとき、自らが『虹の戦士』となったのです。もちろんその身体は『マンジュリカーナ』のものではありません、この国のために殉じた『アギト』、『イオ』の二人の王子の身体を復活させて召還したのです。『虹のほこら』の良き心を集めた『虹の結晶』を使って」
「では再びその呪術を使うのですか? お母様」
「いいえ、『デュランタ』、それに『ゲンチアーナ』。死んだものを呼び戻すことは『マンジュリカーナ』にしかできません。虹色テントウの私たちにできるのは別の方法です」
そのとき、『ゴラゾム』が肩を震わせて雄叫びを上げた。
「ぐうるるるん、遂にわしは甦った。おお、新しい身体がなじんでいく」
彼の周りの池の水が一瞬で蒸発した。
「『バイオレット』その方法を一刻も早く」
『カブト王子』がたまらずそう言って彼女に催促した。
「二人の王子を融合させます、そして屈強な身体を一時的に作ります」
「そんなことが、できるのですか?」
『リンリン』には信じられなかった。さらに強力な『メタモルフォーゼ』だ。次第に近づいてくる『ゴラゾム』は異臭を放つ唾液を垂らしていた。それが落ちた場所は強い酸で溶けていく、もう時間はない。
「虫けらどもを全て殺してやる、そして『マンジュリカーナ』をわしのものとするのだ、完全な復活のためにはな、ふぁははははっ」
これからの殺戮を楽しむために、『ゴラゾム』はゆっくりとツノの動きを確かめた。
「憎き『ルノクスの虫人』の末裔ども、『ゴリアンクス』の力を見せてやろう」
「さあ二人とも、手のひらを私に合わせなさい。そして一緒に唱えるのです、
『レム・メタモルフォーゼ』と、いいですね」
二人の『虹色テントウ』は、手のひらを合わせてこくりと頷いた。双子の『虹の国』の巫女『デュランタ(テンテン)』と『ゲンチアーナ(リンリン)』は身体の輪郭だけを残し次第に透けて見え始めた。『バイオレット』が『虹の結晶』を抱え、二人に合図を送った。
「『レム・メタモルフォーゼ』」
そう唱えると『バイオレット』は二人の王子の足下に向けて、『虹の結晶』を投げつけた。結晶は粉々に砕けて二人の王子を包んだ。完全に重なりあった透明な『虹色テントウ』は王子とともに、砕けた結晶をその一粒まで身体に吸い込んだ。『バイオレット』はこの国のためについに『虹色テントウ』に伝わる禁呪を使った。
「『ビィルトーラ・テラ・ヴィ・モールド』」
禁呪は、『ゴラゾム』の使った『アギト』と『イオ』を合体させたものに似ていた。二人の王子は融合し、真っ白い勇士として祭壇に横たわった。しかしその身体はぴくりともしない。
「『カブト』の寄り代として、耐えうるため王子たちは、しばらく休眠しなければなりません。そのときまでこのほこらが持ちこたえれるかどうか分かりません」
「『バイス王子』はわしの息子でもある、『バイオレット』頼まれてくれ」
『ドルク』は再び『虹の国』の王として立ち上がった。
「『レムリア』の闘神『アギト』よ、わしの元に来い、『アギト』降臨!」
身体は引き裂かれた『アギト』だがその体に残る良き心は虹のほこらに集まっていた。
「『イオ』にはわしがなろう」
『キング・ビートラ』が『ラベンデュラ』とともに立ち上がった。
「『レムリア』の闘神『イオ』再び立ち上がれ。『イオ』降臨!」
「やれやれ、兄弟揃って命はいらんのだな。援護しよう『エレファス』降臨!」
「『ラクレス』降臨!」
「『コオカ』降臨!」
「わしも手伝おう、『キュラウエラ』降臨!」
『ダゴス』まで戦闘モードに変わった。彼の念波は、巫女たちの呪力によってさらに練り込まれ、『ラクレス』たちを『アギト』や『イオ』の大きさまでに巨大化させた。ほこらの前に現れた五人の戦士たちを見て、『ゴラゾム』はやっと足を止めた。
「ほう、さすがに『ルノクスの三騎士』の末裔どもだ。俺の力を止めるには、まだすこし足りないがそれでも少しは楽しめそうだ」
「残念だが俺たちは足手まといだ、『ピッカー』」
天井から休み無く落ちる岩をなぎ払いながら『ガマギュラス』が言った。
「命まで狙った王子なのに、今はともにこの国を守ろうとしている、不思議なものだ」
彼はそう言いながら、長い触覚を振り回している『ギリーバ』をちらりと見た。
「はっはっは、よくあれで目が回らないものだ」




