レムリアの王宮
王宮に降り立った『マンジュリカーナ』は、その玉座に安置された『黄金のカブト』に話しかけた。その中には『レムリア』の大王、こと『カブト』の魂が封じ込められていた。
「いままで、この国をお守りくださってありがとうございました」
ー『イト』を倒した最強の戦士は『ゴラゾム』に身体を乗っ取られ、暴走をはじめた。彼女は最大の霊力を持ってその悪魔を倒した。しかし消え去る『カブト』を目の当たりにした時、彼女は王を愛するがために、『ヨミの禁術』を用いてこの世にその魂を残したのだ。それと引き換えに『マンジュリカーナ』は『レムリア』を去り、異国へ旅立った。もちろん、『カブト』は知らないことだ。彼の魂はあの日で時間が止まっていた、それを知らないのは彼だけだった。ー
「おお、わが愛する妃『マンジュリカーナ』そなたは相変わらず美しい。いかがしたのじゃ、あの悪魔を倒した時にわしまで身体を乗っ取られた。そなたが『ヨミの禁術』を使ってくれたおかげで、こうして生きたまま、そなたを待っていたのだ。さあ、わしの身体を返してくれ、『マンジュリカーナ』」
(それは叶いません。もうあなたの身体はこの『レムリア』のどこにもありません。『カブト』あなたは、もうこの世にはいないのです)
彼女はそう言いたかった。『カブト』はあの日と同じ目をして彼女に言った。
「それに、この息苦しさはなんだ。そなたの元に駆け寄り、抱きしめてやりたいのにわしの身体は思うように動かない。何かに身体を縛られている様じゃ」
『黄金のカブト』に封じ込められた彼は、一度解放されれば二度とその中に戻ることは出来ない。数時間後には、彼は完全に消滅してしまう。しかし、もうそれしか『レムリア』を『ゴラゾム』から守る方法はない、彼女にとっては最愛の彼と永遠に逢えなくなってしまう。
「あっ……」
なっぴの意識が戻った、彼女の身体から紫の光が『黄金のカブト』の中に吸い込まれていった。
「なっぴ、ほんの少しでいいの。二人に『王と妃』の時間を頂戴ね」
なっぴは、『マンジュリカーナ』のその声を聞くと、小さく頷いた。
「あの娘は?」
『カブト』は彼女が離れたあと、その場に座り込んだ娘について妃に尋ねた。微笑んで彼女は答えた。
「私たちに繋がる異界の子孫、万寿小夏。危険を顧みず『レムリア』に来てくれた、『マンジュリカーナ・小夏』可愛いでしょ?」
「ああ、まるで『フローラの花園』で初めてそなたに逢った時のようだ」
「まあ、覚えていらっしゃるの?」
「もちろんさ、わしがそなたに摘んだ『トレニア』の色までな」
「笑った顔の『トレニア』を探すと言って……」
「そうそう、陽が傾くまで探したな、あの花園iに咲く『トレニア』をひとつひとつ手にとってな。はっはっはっ」
『マンジュリカーナ』はそのとき『レムリア』の勇者『カブト』の花嫁になろうと心に決めて、フローラの地を離れたのだった。まだ、乱世の時代『レムリア』が統一される少し前のことだ。やがて師範であった『ルノクスの三騎士』から二代目の『ビートラ』の名を与えられ、『レムリア』の初代王となる。
「あなたは、戦いに荒んだこの国の隅々まで出かけて戦い、説得し、時には岩を砕き、若者に夢と希望を与えてくれましたね」
「そなたこそ、国中の病人を看病し、老人には安らぎを与えていた。この国に愛を広めたのはフローラの力だけではない、そなたの持って生まれた力じゃ、わしはそう思っている」
「ええ、王子たちが、『ナツメの石』に打たれさえしなければあのまま……」
『マンジュリカーナ』が涙をこぼした。『カブト』がそれを拭い、彼女の細い肩をきつく抱きしめた。
「もう言うな!『アギト』も『イオ』も勇敢だった。『ナツメの石』が国中を焼き尽くす力を秘めていたのを知ると、悪魔がそれを使う前にそれを自らの身体に封印したのだ。王子は、わしに倒されることを望んでいたのだ。この国を守るにはそれしか方法がなかったのだ」
「ええ、私にも王子たちの気持ちはわかりました。王子は心の中で『母上、私を殺してください』と何度も叫んでいました」
山河が形を変えるほどの王子たちの暴走は、『ナツメの石』の力を封印しても止められなかった恐るべき破壊力のごく一部分だったのだ。
「わしがもう少し早く気付けば、よかったのかもしれない。しかし悪魔に魂を奪われた二人はついに本当の悪魔になってしまった。わしさえもその悪魔に取り込まれるかも知れなかった、だからそなたに……」
『カブト』は、思い出した。その時自分を殺せと目の前の『マンジュリカーナ』に告げたのだった。『マンジュリカーナ』は紫色のドレスを脱いで王に向き合った。
「『カブト』、あなたは今も私の夫、『レムリアの大王』です」
「『マンジュリカーナ』そなたは今も変わらず美しい……」
『カブト』は自分がすでにあの日、死んでしまったことにやっと気がついた。
激しい抱接のあと、『カブト』は『マンジュリカーナ』の肩を抱いて言った。
「連れて行ってくれ、もう一度わしが必要な時が来たのだろう」
「はい、悪魔が再び目覚めようとしています。この危機を救えるのは、あなたしかいません。しかしあなたと一体になれるものがこの国にいるかどうか」
「そなたらしくない、信じているのだろう。誰よりもこの国のものを」
「それに、この『黄金のカブト』から出てしまうと……」
「どのくらいだ? わしが消え去るまで」
こらえていた涙が『マンジュリカーナ』の目から溢れ出した。『カブト』はそれさえも知っていながら、この国のために立とうとしているのだ。
「あの陽が傾くまで」
「それだけあれば十分だ、悪魔を倒したあと、もう一度フローラを訪れたいな『マンジュリカーナ』」
今度は彼女から『カブト』に抱きついた。なっぴは目のやり場に困りながらも王と妃を見守っていた。やがて、『マンジュリカーナ』は、なっぴの身体に再び戻ってきた。
その脇に『黄金のカブト』を抱えた彼女は、王宮に振り返ると深く頭を下げた。
「ありがとう、レムリアの王宮。長い間大王を守っていてくれて……」




