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なっぴの昆虫王国  作者: 黒瀬新吉
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セブリアの巫女

 次第に岩盤も崩れはじめた。彼女たちだけでは、防げる衝撃ではない、このままだと生き埋めになってしまう、『コウカ』が立ち上がった。

「俺のツノは、結局、岩盤を砕くのが似合っているのさ」

なっぴと由美子の上に落下してきた岩盤を打ち砕いて『コウカ』が笑った。『ギリーバ』は長い触覚でけが人の上に落ちる岩をはじき飛ばしていた。堅い背中で壁を補強しているのは『エレファス』。その向かいの壁には、ようやく息を吹き返した『ラクレス』がいた、まだ足がふらついていた。

「お前たち、動けるものは壁を、天井を支えるのだ!」

『キング・ビートラ』は、ほこら中の昆虫人に声を響かせた。


 二頭の怪物は、殴られれば蹴り返し、投げ飛ばされれば組み付き、互いに譲らない。まさに『百朝百夜の戦い』だ、その嵐の中を青い光が向かい風に逆らってほこらに向かってきた。入り口に降り立ったのは、南の『セブリア』の蝶『ブルー・モルフォ』だ。ほこらの中がまたひとつ明るくなった。

「お前は……『フランヌ』。よかった、ようやく目覚めたのか?」

『ラクレス』は目を細めた。それは眩しいブルーの羽根のせいだけではない。


 「はい、『セブリア』に大雨を降らせていた暗黒雲もここに集まったため、今では晴れ間が広がっています。おそらく『テネリア』の干ばつもすでに収まったと思います。そこにいらっしゃる『エレファス』様の調合された薬で国民はもう全て目覚めました。ふらふらの身体のままで早速、復興のための汗を流しております。今のあなたにそっくりですわ……」

「そうか、それでよい。それを伝えにきてくれたのか?」

「いえ、わたしもお手伝いに参りました」


 『ラベンデュラ』に向かってお辞儀をすると、『セブリア』の女王は叫んだ。

「メタモルフォーゼ・アイリス!」

海を越えてやってきたのは、『マンジュリカーナ』の妹『トレニア』の力を受け継ぐ、五人目の巫女。エビネ国の女王『サキ』の妹でもある『アイリス』だった。『アイリス』が天井に向けてさらに霊力を放ち、やっと落盤が止まった。そして『虹の原石』の前に全ての巫女が集結し、右手を重ねた。全ての巫女が集まったとき、『ナノリア』の女王『ラベンデュラ』が厳かに口を開いた。

「ここに集まりし、マンジュリカーナ、アロマリカーナそしてトレニアーナの力を継ぐ、五人の巫女たちよ、虹の光が集まった今、ここに、あらたな巫女として三人を加えよう」


 「まず、『虹の村』の『リンリン』、あなたは『ゲンチアーナ』として新たな光を育てなさい。『フローラ国』の由美子、『サフラン』として愛しみの心で人々を守り、助けるのです。そして最後に『虹の村』の『テンテン』あなたは『デュランタ』と名付けます。人間界での経験を生かして、この国を守るのですよ」

「はい、『ラベンデュラ』様」

三人は顔を見合わせた後、声を合わせた。


 ほこらの中には、外の戦いの衝撃はもう伝わらなかった。しかし徐々に大地も形が変わりつつある。大雨は『エビネ池』の水かさを増し、『虹の池』と繋がりナノリアの大地をひと飲みにしていった。このままだとやがて海にさえ繋がる勢いだ。『イオ』は『アギト』の突き出したその右腕を握ると、思い切り投げ飛ばした。『アギト』は回転して『エビネ池』に着水した。『アギト』はその重みで池の底を抜いた。自由が利かなくなった『アギト』を『イオ』が殴り続ける。そして『アギト』は遂にツノを折られた。

「ぐるるるおおん」

奇怪な叫び声を上げる『アギト』の身体を『イオ』のツノが締め付けた。

「勝負あったな、シャアアッ!」

「ブチッ」

鈍い音がほこらの中まで聞こえた。『アギト』はとうとう胴体をまっぷたつに引きちぎられた。胴体の切り口から赤い光がはじき出されて、ほこらに横たわったままの『バイス』に戻った。


 その周囲の異変にやっとなっぴは目を開けた、『テンテン』、そして由美子が心配そうになっぴを覗き込んでいる。それは、ドッジ・ボールを頭に当て、失神したとき、由美子が保健室まで来てくれた時のことを思い出させた。

「あれっ?おかしいわね、お揃いの紫のドレスなんか着て。まるで『マンジュリカーナ』、由美子たち、私のお母さんみたいになってる……」

正気に戻り、やっと起き上がったなっぴは『コマンドスーツ』も無く、薄紫の『ストゥール』だけの姿だった。虹色テントウの二人を解除したため、もはや戦士の姿ではなかった。

挿絵(By みてみん)

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