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なっぴの昆虫王国  作者: 黒瀬新吉
8/112

追跡者

王国からずっと、追ってくるヤンマがいる。王国のヤンマの中で「トビヤンマ」より早く飛べるヤンマはいない。「高速トビヤンマ」として選ばれた『トビイ』はフローラ国へ向かっていた。守備隊長の『ハガネ』に大切な王女を預けるために、持てる力を振り絞っていた。いくら王女を抱えたままとはいえ、このスピードについてこれるヤンマがいるのは、彼には初めての恐怖であった。彼はさらにスピードを上げた。

「まさかもう追っては来ないだろう……」

その差は少しずつ縮まってきていた。そのヤンマが『B・ソルジャー』と化した「カラスヤンマ」であることを彼は知らなかった。


 「あの林を越えればフローラだ」

彼は頭上のヤンマを振り切るため、低空で林を抜ける作戦に出た。彼の後を追い『カラスヤンマ』も高度を下げた。林に入り、右や左に迫る木々をよけながら、彼は「チラリ」と追っ手を見た。

「ふむ、褐色のヤンマか、あんなヤツを王国では見たことも無い」

オニヤンマに似た大きさだった。だが全身真っ黒い。

「そろそろ林を抜けるぞ、あっ!」

次の瞬間、彼はいきなりブレーキがかかり、あお向けにひっくり返った。オニ蜘蛛の仕掛けていた古い網に頭から突っ込み『トビイ』の首が折れた。上空で『カラスヤンマ』が滞空しながらにやりとした。

「あれじゃあ即死だな。一機撃墜、任務完了」

そう言うとふたたび王国へ戻って行った。

『トビイ』の手から離れた王女は、偶然にも『コガネグモ』の作った網にあたり、小さなかごごと深い草の中に落ちた。


挿絵(By みてみん)


 一方「トビヤンマ」の『ダンテ』は『トビイ』よりもさらに高速で飛ぶことができた。エビネ国に、無事到着したというのに誰一人として彼を迎えなかった。

「何かあったのだろうか?」

彼は池の上空を回っていた。池の浅いところでは、タガメの親子が水泳の練習をしていた。そのとき上空から黒いヤンマが急降下してきた。その一撃をかわし今度は「ダンテ」が高度をとった。ヤンマの戦いでは、より高度をとり背後から襲うのが戦法として正しい。彼は王子を抱えたまま『カラスヤンマ』に向かっていった。

「見たことも無い、真っ黒いヤンマだ。噂に聞いたことのある、異国の確か……」

そのヤンマは彼を振り切るつもりだった。敵ながら美しくしなやかに飛び、彼の追撃をかわした。

「やるな……、そう確かこいつは、南の国の『カラスヤンマ』だ」

今度はとんぼ返りをして、真っ向からの一騎打ち、すれ違い様の一瞬の勝負だ。二頭のヤンマは、それぞれのあごを「グワッ」といっぱいに開いた。『ダンテ』の羽が少し裂けた。王子をくるんだ「まゆ」を抱えたまま、体制を立て直したとき、彼の目の前にカラスヤンマの巨大な目が映った。次の瞬間彼の羽が一枚、根元からもぎ取られた。


 「無・無念……」

落下する『ダンテ』を『カラスヤンマ』は不敵に笑いながら眺めていた。この高さから落ちれば彼の体中の骨はこなごなになるだろう。

「王子共々地獄へ堕ちろ。すぐに城の親父にもあの世で会えるさ、ハッハッハッハ……」

『ダンテ』の体中の骨が砕け散り、水面に波紋が広がる。

「ミッション終了」

カラスヤンマは勝ち誇り、ナノリアへ飛び去った。

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