セブリアの王
『ラクレス』は、『セブリア』の地中に埋まっていた、『赤い翡翠』の事を思いだした。
大ゾウムシの大僧正『ミネス』は『セブリア』の最近の雨続きの天気も、突然蔓延した伝染病により『セブリア』が次第に国力を落としつつあることも、『赤い翡翠』がそれをすべて予言していると言った。
「わしの力で何とかなるものなら、決して出し惜しみなどしないのだが……」
王国の花園も水に浸かり、川は寸断されてしまった。高台に国民は避難をはじめた、小さな争いが各地で起りはじめた。『ラクレス』にはそれがやがて大きく膨らむ予感がしてならなかった。そんな中、妃の『フランヌ』が病に伏した、伝染病の『眠り病』だ。眠り続け二度と起きることはない。長くても半年後にはその呼吸も止まる奇病だ。長年食料庫を任せていた大臣さえ、食料とともに行方がわからなくなっていた。
「城の備蓄は持ってあと数ヶ月しかない。その後は……」
そんな時に、『テネリア』との休戦協定を結んだのだった。
「なんと、『セブリア』は大雨だな」
大干ばつの『テネリア』を思い、『コオカ』の気持ちは複雑だった。昨日も地下の井戸をあれだけ深く掘ったのに、朝にはすでに底の岩盤が現れていた。乾きに苦しむ国民たちは身体が乾いている、兵士の中には『セブリア』の大雨を身体にあびてはしゃいでいるものさえあった。いつの間にか『コオカ』の日課は井戸を掘り続けることになってしまっていた。戦どころではない、『コオカ』も休戦協定には賛成だった。そのとき、ふと頭をよぎったことがあった。
「この水が『テネリア』まで引けたなら、皆喜ぶのだがな」
『ミネス』は『ラクレス』の最も信頼している長老だ。彼がまだ、ちいさい頃から『レムリア王国』の話しをよく聞かせてくれた。
「ねえ、『ミネス』は『カブト大王』のことをよく知ってるの?」
「はい、大王様は立派なツノを持ち一振りで山のひとつをこなごなに出来たと言われています。武神として、今でも各国であがめられております」
(大王はしかし、あまりにも強過ぎた、そのため妃の『マンジュリカーナ』が『レムリア』のため、『ナノリア』に封じ込めた。その思いは言葉にならないことだったろう。しかし、そうまでして国民のために使った霊力を国民は恐怖し、遂には『マンジュリカーナ』を異界に追いやったのだ)
『ラクレス』はその後の『マンジュリカーナ』のことを思うと、納得がいかなかった。
地下道から掘り出された『赤い翡翠』はある日『ラクレス』の心に話しかけた。
「『レムリア』の子、『ラクレス』よ。この気持ちがわかるか? 最愛の二人の王子を倒してまで、守った国民にわしは裏切られた。わしはいい、しかし妃に何の罪があるのだ『マンジュリカーナ』はただ国民のために、その力を使っただけなのに……」
そしてこう言って『ラクレス』を誘った。
「『レムリア王国』が再び興れば災害があった場所には、富んだ所からものが動く。何より『マンジュリカーナ』の霊力を持ってすれば不可能なことはない。『レムリア王』は『イト』として『ナノリア』に封印されている。その封印を解くにはまず『ナノリア』を陥落させる必要がある、俺に任せろ」
「『ナノリア』の国民はどうする?」
「余計なことは考えるな、お前はお前の国の事を考えるのだ。今そこで病に倒れているお前の妃『フランヌ』のことだけを考えるのだ」
彼は悩んだ、このままではおそらく『セブリア』の国民は死に絶えるだろう。
「『イト』の封印を解こう。そしてわしが暴君として、ひと暴れしてやろう。わしを倒すために大王が武神として現れれば『マンジュリカーナ』も必ず戻ってくる。『マンジュリカーナ』なら必ず『セブリア』もお前も救ってくださる、そうだろう『フランヌ』?」
彼はベッドに寝たきりの妃に言った。『フランヌ』はしかし彼に答えることも無く、眠り続けていた。それをすぐ側で聞いていた『ミネス』は言った。
「では、王は国民のために」
「ああ、俺は喜んで悪魔にでもなろう、『ミネス』」
『ラクレス』はその『赤い翡翠』を強く握りしめた。
「この命、お前にくれてやる。存分に使うがいい……」
『ラクレス』は『マンジュリカーナ』の復活に賭けた。




