激突
「俺の『ツイン・ドラゴン』、確かに受け取った。さあ来なっ」
『ピッカー』は低く構えた。気迫が明らかにさっきとは変わっている、一呼吸のち空中に跳ね飛んだのは、今度は『侍アブ』の刀だった。次の瞬間『ピッカー』の握っていた方の刃が突き上げられて彼の胸を切り裂き、さらに半回転した『ツイン・ドラゴン』は深く胸に突き刺さって『侍アブ』は絶命した。なっぴのキューの使い方を『ピッカー』も取り入れていた。
『毒ヨツメ』の羽根からのシビレゴナに手を焼いていた『ガマギュラス』は、『グリーン・サイス』を受け取るとそれを振り回して風を起こし、逆に鱗粉を使って竜巻を作った。そしてその中心から竜巻ごと『毒ヨツメ』をまっぷたつに切り裂いた。
「やっぱりこいつは切れ味最高だな」
二人は相手を倒すとほこらに入り、シカバネカナブンたちに言った。
「命の不要なヤツはかかってこい!」
「由美子が戦っているのに」
『バイス』の肩につかまり、『テンテン』は立ち上がった。しかし思うように力が入らない。『コオカ』の羽交い締めのために、まだ身体がしびれていた。由美子は『ブラック』の攻撃をひらりひらりとかわしながらチャンスを待っていた。彼女のブルーの瞳は輝きを失っていない。いやむしろ生き生きしているようにも見えた。自在に『ブラック』の使うアゲハの舞いをかわし続ける。『ブラック』は不思議だった。まるで空気を相手にしているようだった。
(武器を捨てて、あなたは本当に私に勝てると思ってるの?)
一方、『ギリーバ』は長い触覚をムチのように振り回し、次々と『シカバネカナブン』をなぎ倒す。『大キバゴミムシ』も追いつめられた。両手に忍ばせた牙の手裏剣を投げても『ギリーバ』の触覚にたたき落とされた。次第に打つ手が無くなり、彼は戦意を無くし後ずさりをした。その背後から『コオカ』の黒い影が現れた。
「目障りだ、この腰抜けが!」
『コオカ』の長い腕がヒュンとしなり、鋭いかぎ爪がオサムシの首を刎ねた。
「それがお前の本性か?」
『ギリーバ』は牙を剥いた。『コオカ』は気にも止めずに『エレファス』に向かった。
「俺を無視するつもりかっ!」
『コオカ』の腕に『ギリーバ』の触覚がからまった。
「ムン」
片腕を引くだけで『ギリーバ』は地面から離れ、『エレファス』の足下に飛んだ。
「ぐっ」
(何という力なの、『ギリーバ』を片腕一本で投げ飛ばすなんて)
『テンテン』は『コオカ』の圧倒的な力を目の当たりにした。
「あれが、『レムリア王』の血を受け継ぐ、『テネリア』の王『コオカ』だ」
『バイス』は『テンテン』に近づくと肩の傷が癒えたのを確かめるように、数度腕を回した。それは戦いに加わるという、意思表示だ。『テンテン』にはもう彼を止めることは出来なかった。そのとき、虹のほこらに、またあらたな敵が現れた。クモ族を振り切って来たのは俊足の『シルベハンミョウ』、そして空からは『カタビラオオコガネ』が降りて来た。二人ともに『セブリア』の王、『ラクレス』の部下だ。『バイス』は大きく胸を膨らました。
「『テンテン』、君に指一本触れさせはしない」
『バイス』の胸板がさらに厚くなった。その厚さはすでに『ドルク』を越えている。彼は不思議だった。
(この力はどこからわいてくるのだろうか?)
『ギリーバ』は、『コオカ』に投げ飛ばされたとき、認めたくはなかったが歴然と存在する、格の差を感じた。
「しかし、この戦いのきっかけを作ったのは紛れもない俺だ。俺が『ナノリア』の王キングを殺したのだ、この牙でツノを噛み切って屋敷に火を放ち……」
その時『ギリーバ』はちらと頭によぎったものがあった。
(まさか、まさか、そんなことはあるまい)
「『ギリーバ』よ、今度はわしにも戦わせてくれ。」
『コオカ』よりも一回り大きい黄銅色の『エレファス』が『コオカ』の前にゆっくり進んだ。それを見ると『ラクレス』は深いため息をつき、最後の説得の言葉を吐いた。
「『エレファス』、お前は『コウカ』とは違う、わしの気持ちがわかるだろう?」
『ラクレス』はそう言った。しかし『エレファス』は首を横に振った。
「わからんな、わしは女王が正しかったと今でも思っている」
『コオカ』がツノを振りかざして飛びかかった。
「つべこべ言うな、強いヤツ、勝ったヤツが正しいのさっ!」
「ガキッ」
『エレファス』も正面からツノを突き合わせた。カブト族独特の力比べだ、相手を持ち上げて投げ飛ばすまで誰も手出しは出来ない。しかし、彼よりも体重の重い『エレファス』を『コオカ』は持ち上げる事ができなかった。
「シャア」
『コオカ』は、力比べが不利と知ると、第二の武器とも言える長い腕を振り、『エレファス』の目に鋭いかぎ爪を打ち込んだ。
「く、おのれ『コオカ』……」
だが、さすがに『エレファス』だ、『コオカ』を持ち上げるとほこらの石畳に思い切り打ちつけた。石畳が砕けた音がした。
「うげぇあ」
『コウカ』は背中をしこたま打ちつけられ、しばらくは動けそうもなかった。




