記憶
一方、「テンテン」が去った人間界では、王国の戦いなど知るものは誰もいない。
なっぴは連休の間、ずっと昏睡状態だった。『テンテン』が言った通り、シナプスに書き込まれたコマンドはもう彼女には思い出せなくなっていた。そしてまた普通の生活が始まった。
なっぴの学校では朝から連休中に家族と行った旅行の話しなどで、にぎやかだった。先生が教室に入って来ると、さっそく出席を取りはじめた。なっぴは女子で一番最後だ。彼女はぼんやりと友達の名前が呼ばれるのを聞いていた。
「神田とも子さん」
「はい」
「工藤ミナコさん」
「はい」
「黒田美春さん」
「はい」
「小山サキさん」
「はい」
「……斉藤真希さん」
「はい」
「坂上なぎささん」
「はい」
「佐々木りかさん」
「はい」
「……桜田のりこさん」
「はい」
なっぴはなんとなく誰かの名前が呼ばれていない気がした。しかしそれが誰なのか、顔さえ思い出せなかった。
「気のせいかな、クラスのみんないるし……」
「松本エリナさん」
「はい」
「万寿小夏さん」
「はい」
先生が出席簿を閉じた。
「ハイ皆さん、今日も全員遅刻無しですね。お早うございます」
「お早うございまーす」
(やっぱり気のせいだ、変なの?)
今日はたいすけと帰った。帰り道になっぴは聞いてみた。
「ねえ、クラスの全員来ていた?」
「おまえ何言ってるんだ、みんな来ていただろ」
「ふーん、やっぱり気のせいか、ごめんごめん……」
なっぴは家に帰るといつもの様にお母さんに言った。
「お母さーん、お腹ぺこぺこ、何か作ってよ」
でも母さんはいつもと違い、台所にはいない。二階にもいない、なっぴは裏の物置にでもいるのかと思って、勝手口を開けた。母さんのサンダルが物置の外にあった。
(脅かしてやろうっと…)
そっと中に入った、近づいて「ワッ」と言おうとしたなっぴは、口をつぐんだ。母さんが誰かと話しているようだった。
「ええ、『バイオレット』……、『レムリア』……『イオ』のことは『ナノリア』の『ロゼ』女王のために……」
母さんは所々聞いたことのない言葉をつぶやいている。それも小さな箱に向かってだ。
「『由美子』が『ラクレス』に狙われているのですね……」
(……由美子)
母さんが言った言葉を聞くと、なっぴは気を失ってしまい、その場に倒れた。
「なっぴ、なっぴ、しっかりしなさい……」
母さんの声がベッドのなっぴを起こした。
(なんだ、夢だったのか……、でも、『由美子』、『由美子』……その名前はどこかで聞いたような気がする……。)
「もう少し眠りなさい、なっぴ。後でゆっくり話しましょう」
そう優しく言うと、母さんはなっぴの部屋から出て行った。




