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なっぴの昆虫王国  作者: 黒瀬新吉
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援軍

 「ほう、『ナノリア』にもコマンドスーツを使えるものが生き残っているのか」

「一人で楽しむつもりか?抜け駆けは良くないぜ、ヤンマ」

背後から声がした。胸全体に奇怪な電源をつけたカメムシ『デンネツカメムシ』が近づいて来た。そのとなりには両手に長い『サイス』を持つカマキリがいた。

「そうそう仲良く分けようぜ、久し振りの獲物だからな……」

そう言ったのは、『ワケミカマキリ』、彼らは『セブリア』から着いたばかりだ。

さすがにこの三人を相手にするのは手強い、しかし『バイス』は引かなかった。

「来い、『ナノリア』の『ドルク』の名の下に、お前たちを倒す」


挿絵(By みてみん)


 「あーら、折角来たのに、あなた一人で戦うつもりなの?」

『ブルー・ストゥール』をひらめかせ、由美子が降り立った、そしてもう一人。

「やっと会えたのに、何やってんのまだこんなところで!」

『テンテン』が『バイス』に背中越しから言った。その姿は紫色に輝いていた。

「ほう、それでハンデがないつもりか、シャアー」

『デンネツカメムシ』が強力な熱線を放射させて『テンテン』を襲った。

しかし『テンテン』はキューを胸の前で高速回転させて、それをはじき飛ばした。その熱線が当たったそばのがれきが、音を立てて一瞬で蒸発した。

「いくわよ、カメムシ。ランスに変形『ブルー・メラン』、セットアップ」

打突部に『ブルー・メラン』をセットし、二股のランスを構えたテンテンは、まっすぐ『デンネツカメムシ』の胸を突いた。電気音とともに、電熱の放射部が割れ、配線がショートしたようだ。格段にランスも『テンテン』も戦闘力がアップしていた。それでも『デンネツカメムシ』は補助電源を起動させて、回復するとすぐに立ち上がった。

「ゲフフッ、なかなかやるな」


 その戦いを見ていた『ワケミカマキリ』に由美子が回し蹴りをした。脇を蹴られたにもかかわらず、『ワケミカマキリ』は微動だにしない。

「効かんなぁ、そんな蹴りは。こうするのさ、回し蹴りは」

『ワケミカマキリ』は由美子の脇をお返しとばかり回し蹴りをする。しかし由美子の新コマンドスーツはそれを感知し、瞬時に硬度を高めた。

「ウグッ、何だこの堅さは、おまえのコマンドスーツは生きているのか?」

「あーら、フローラの『ハガネのコマンドスーツ』。お気に召したかしら?」

「『ハガネ』、君がフローラの王女か?」

「後でゆっくり話しましょう『バイス』。『テンテン』から聞いてるわよ、いろいろとね……」

「余計なこと言わないの、由美子ったら」

空中で回転しながら、『テンテン』が、顔をまっ赤にして怒った。


 「来い、オニヤンマ隊の仇だ、『フランタイヤンマ』」

「噛み砕いてやる、シャア!」

ヤンマはアゴからよだれを落としながらいっぱいに両手を開いた。同時に鋭い爪が伸び、口から火炎を吹いた。その火炎をよだれに引火させて『バイス』を取り囲んだ。

「丸こげになれ、クワガタ野郎!」

「たあーっ」

『バイス』はその火炎のサークルを飛び越え、ヤンマの顔面を狙って拳を放った。首を動かしてそれをかわし、『フランタイヤンマ』は鋭い爪を振った。

「うっ」

『バイス』はそれをかわした。かすっただけだが、少し肘の皮膚をそがれた。なるほど、さすがに『セブリア』の奇怪昆虫人は一筋縄ではいかない。それぞれに一進一退の攻防だ。しかし、その均衡がやがて崩れた。『テンテン』は大車輪を遣い、『デンネツカメムシ』の真上から降下した。死にものぐるいに熱線を放射する彼はランスにセットされた『レッド・ジャイロ』によりその方向を変えられ『テンテン』を捉えることができない、『レッド・ジャイロ』が放たれた。そしてランスの先端に『イエロー・ブンブン』がセットされた。その攻撃は『ピッカー』の得意な戦い方を参考にしたものだった。


 「何だこんなもの…」

ジャイロをはじき飛ばした時には、すでに『テンテン』の黄色いランスの先端が、『デンネツカメムシ』の胸に深く突き刺さっていた。

「うげゃぁぁぁっ」

完全に回路がショートし、行き場を失った電熱が、彼の体中を駆け巡った。ほんの一瞬で、『デンネツカメムシ』は消滅した。


 「そんなバカな、あんな小娘に『デンネツカメムシ』が。ならば」

由美子に両腕のカマをかわされ続けていた、『ワケミカマキリ』はそれを見ると戦いを有利に戦うため両腕を交差させて、前に突き出した。緑の煙とともに、由美子の前にもう一人のカマキリが現れた。それこそが『ワケミカマキリ』の持つ能力、分身の術だ。しかも後から現れたカマキリは両手で柄の長いカマ、『サイス』をゆっくりと回して近づいてくる。挟み撃ちだ、『テンテン』が助けに行こうとした時、由美子はにっこり微笑んで止めた。

「あーら、どうしても戦いたいの、仕方ないわね。グリーン召還!」

由美子は『インディゴ・ソード』の能力を使った。緑の光がソードから溢れ出して広がり、やがてそれが人型になり、ゆっくりと「テンテン」に振り返った。

「おまえは『ガマギュラス』……」

「おや、覚えていてくれたか、似合うなその新しいコマンドスーツは」

「ゲフッ、おまえは、確か」

「『ラクレス』に一度は操られたが、ナノリア『ヨミ』の戦士、『ガマギュラス』。俺がサイスの本当の使い方を教えてやろう」


 『ワケミカマキリ』がサイスを振りかぶった。

「イヤー」

「ガッ」

渾身で振ったサイスを『ガマギュラス』は、苦もなくはじき飛ばした。

「そら、拾ってもう一回打ち込んでみろよ、今度はもう少し腰を入れてな」

「よそ見をしている余裕はないだろう」

『バイス』は空中で背面回転をしてヤンマのアゴを蹴り飛ばした。そして『テンテン』に声をかけた。

「俺の渡した道具を良く使いこなしているな、『テンテン』。ランスを貸してみろ、もうひとつの使い方を教えてやろう」

『テンテン』から受け取ったランスを両手でつかみこう叫んだ。

「『バイオレット・サンダー』」

右手の端から赤・橙・黄の、左の端からは藍・青・紫の、そして中央からは緑の稲妻がいっせいに『フランタイヤンマ』を襲った。それはヤンマを取り囲み巨大な渦となる。そして稲妻が彼の身体に全て吸収された時、『フランタイヤンマ』は七色の霧になり飛び散った。


 「アゲハの舞い」その華麗で鋭い舞いに『ワケミカマキリ』はついて行けなくなり、次第に腕が上がらなくなった。由美子は『ツイン・ドラゴン』に変形させたソードを一本に戻した。両刃の黄龍刀はふらふらの『ワケミカマキリ』の脳天から一の太刀がそして今度は二の太刀が下から斬り上げられた。まっぷたつになった『ワケミカマキリ』は一体に融合した。

「なるほど、これで少しは使えるようになったのかい、残念だがとどめだ、岩石割り」

『ガマギュラス』は頭上でサイスを回転させると、大上段から一気に振り下ろした。それをサイスで受けようとした『ワケミカマキリ』は、サイス共々まっぷたつになり消滅した。それを見た周囲のシカバネカナブンは『ラクレス』の後を追って逃げ出した。

 『ナノリア』の親衛隊がそれを見て、いっせいに城内に駆け込んでいった。

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