漆黒テントウ
少し前の事だ、リンリンが「虹のほこら」に戻って来たのだった。「メイメイ」はすぐには声も出なかった。娘は母に昔の様に笑って声をかけた。
「お母さん、元気そうね」
「『リンリン』、夢じゃあないのね。『リンリン』」
彼女は、祭壇から転がりそうになるくらい、驚いた。副大臣に連れ去られた時より、少し背が伸びていた。顔も姉そっくりになり、髪も少し伸びていた。しかし彼女は巫女だ。辛いことに娘がすでに以前の『リンリン』ではないとすぐに感じてしまった。
「仕方ないわね、これも私の運命」
祭壇を降りると、『メイメイ』は深呼吸をして胸いっぱいに虹の気を取り入れた。
「あなた、いったい何をされたの?」
しかし娘は答えなかった。
「『ラクレス様』の言う通り、私はお前たちに捨てられたのね」
その娘の言葉にメイメイは決心した。
「あなたの邪気を祓います。ムーア・レリル・リンリン!」
虹の閃光が、『リンリン』を貫く。その部分が虹色テントウの本来の色に戻った。しかし、無念にも周囲の漆黒に押さえ込まれて小さくなり、消えてしまった。
(これほどまでに、ラクレスの呪術は強いものなの)
「残念ね、私は女王のコマンドを手に入れた。最強の『漆黒テントウ』。『虹のしずく』の力程度では、この私に勝てるものか」
『メイメイ』はそれでもひるまなかった
「王国を守るため、あなたを倒します」
『メイメイ』は最後の方法『メタモルフォーゼ・テントウ』を発動した。これは虹色テントウ族が持つ、『虹のしずく』を一時的に結晶させるものだ。
虹色テントウ族は、生まれながらに身体に『虹のしずく』を受け継ぐ、その生が終わるとそれは、このほこらに『気』として戻ってくる。それが長い間に結晶し、『虹のかけら』に成長するのだ。『メタモルフォーゼ・テントウ』はその『気』も含め、全ての虹色テントウから『気』を集め結晶させるものだ。『テンテン』がいる人間界からでも、ここにその『気』を集めることができる。もちろんそれは巫女として選ばれた彼女の持つ能力だ。娘の前に立つ彼女は、紫の衣装を身体にまとい、静かにたたずんでいた。
「ふーん、初めて見たわ。それが王国で『フローラル』とならび称される美しき『バイオレット』の姿なのね。『テンテン』にそれを残すために、この私を犠牲にした高貴で強い能力……」
「それは違うわ、この能力はね……」
『リンリン』は『ブラック・ソード』を抜いた。
「その能力が、欲しかったのよ、わたしはずっと前から」
それを言い終えないうちに、『リンリン』は『バイオレット』に一太刀を浴びせた。
「ムーア・レリル・オーラ」
『リンリン』のソードは空を切った、いやそのソードは目標を失った。念波は『リンリン』の感覚さえ狂わせるのだ。防ぐことのできない、『バイオレット』の念波攻撃だ。何度か試みた後、『リンリン』はソードを納めると、眉間に右の人差し指を当て、指先にその力を集中した。
「念波は私にも使えるのよ、『バイオレット』」
そう言うと、『リンリン』は人差し指をぐるぐる回して『バイオレット』の左腕を射抜いた。『バイオレット』はその場に倒れた。
「残念ね、ここに『虹のかけら』でもあれば私を倒せたのかも知れないけれど」
『リンリン』は『バイオレット』を空の小さな石棺に押し込んだ。そして封印術を使った。
「ムーア・レリル・ガダン」
『メイメイ』は石棺に封印され、結晶していた『気』は四方に散らばった。
「これから起ることは、あなたは見ない方がいいでしょう」
「フフフッ、『ブラック』、また随分、優しいことだな。」
そう言った『コオカ』を尻目に、『リンリン』は祭壇に立ち、人間界の『テンテン』に向かって、念波を送った。そして今度は『ビートラ』の動きを監視した。『ビートラ』の出す『ドルク』召還のコマンドを解読し、それを書き換えて『コオカ』を人間界へ送還するつもりだった。
「さあ戻っておいで。『テンテン』、おまえは死ぬのよ、あなたの一番好きな人たちの前で」
一部始終を見ながら、『コオカ』は思った。
「この力こそ、『ラクレス』の恐れていたものか。なるほどこいつを敵にはできない訳だ」




