村に戻ったテンテン
ほこらの前の滝に二本の虹がかかった。祭壇に灯がともり、明るさが増した。
「そろそろ、テンテンが戻ってくるころだわ」
王国の要に位置する『虹の村』の巫女『メイメイ』が、人間界から戻ってくる『テンテン』と『ドルク』を迎える用意をした。やがて虹の霧の中に、ふたつの影が現れた。
「『テンテン』よく帰って来てくれわね、本当に良かった」
『メイメイ』は祭壇に現れた娘を抱きしめた。ついで『ドルク』が祭壇から降りた。
「ところで、『虹のかけら』は集まったの?さあ『紫龍刀』を見せて頂戴」
『テンテン』は左肩のケースに手をかざし、縮めていた『紫龍刀』、『バイオレット・キュー』を取り出して身長ほどに伸ばした。『メイメイ』が微笑んだ。
「よく頑張ったわね、『テンテン』あなたなら『虹のかけら』を集めてくれると思っていたわ。さあ『紫龍刀』をもっと良く見せて」
『メイメイ』は両手を差し出した。それに応じ『テンテン』も両手を伸ばした。そして左手をキューから放し、右手だけで持つと、突然『テンテン』はキューを大きく回転させた。
「ガシャーン」
祭壇の上にキューが振り下ろされ、その祭壇が粉々に砕けた。とっさに後ろに飛び退いた『メイメイ』は声を荒げた。
「な、何をするの『テンテン』」
「いい加減にしたら、この偽物。『紫龍刀』の事をどうしてあなたが知っている訳? この『紫龍刀』を私が持っている事は『ギラファ』しか知らないはずなのにね、あなたはおそらく」
「あっはっは。さすがね。そう、私はおまえたちに裏切られた『リンリン』よ」
「裏切った? 何言ってるの、『ラクレス』たちがあなたを連れ去って今まで、ずっと心配していたと言うのに」
「後から何とでも言えるわね、私をさっさと差し出して、自分たちの命乞いをしたくせに」
「違う、それは違うわ」
「いいえ、違わない。私に『虹のしずく』を封印して、おまえのコピーに仕立て、おまえの代わりに私を差し出したのよ。『ラクレス』様にね」
「『ラクレス』様ですって、『リンリン』、『ラクレス』に何をされたの?」
「『ラクレス』様はこう私におっしゃった……」
「わしはこの国を新しく作り替える、そのためにはお前に封印された『虹のしずく』がいる、それを取り出せばお前は死んでしまう。あいつらは、それを承知でお前を差し出した。お前は姉を守るために捨てられたのだ。それだけではない、お前の姉はさっさと人間界に逃げてしまった。『虹のしずく』のなくなったこの国を破壊するために、すでに闇の暴君がこの国に現れようとしている。暴君を復活させようと企んでいるのが、『ヒラタ』大臣なのだ。『キング』も王子たちも、彼にやがて始末されるかもしれない。わしは異国の王だ、ずっと南の国から卵の姿のままこの国に来た。私が羽化するのを見守っているのが、『ノコギリ』副大臣だ。わしはお前から『虹のしずく』を取り出すのを止めた。それよりそうまでして自分の身を守り、この国を捨てて人間界に逃げた、お前の姉『テンテン』から『虹のしずく』を抜き取ってやる。そうしなければ闇の暴君を止めることはできない。わしはこの国を守れと南の異国から遣わされたものなのだ」
まるでメモリーから読み出すように、機械的に『リンリン』はそう言った。
「『リンリン』、あなた『ラクレス』に洗脳されてるのね」
「それは、お前の方でしょう。わたしはおまえの『虹のしずく』を抜き取るために、女王様からも力を分けていただいたのよ。それにこの国の王『キング』もその王子も、大臣が殺して逃げてしまった。大臣こそ、この国を破壊しようとしている張本人なのよ」
「女王様は、そんなことに協力しないわ、あなたまさか……」
『リンリン』は得意げに言った。
「私はおまえと双子だからねぇ、適当なことを言って、もう一度書かせたのよ。メタモルフォーゼ・プログラムのコマンドを書き終えたおまえが人間界にいくのを待ってね」
(やはり『リンリン』が『ラクレス』のためにずっと協力していたのね)
「でも、さすがに人間界ではあの小娘が予想以上に手強かった、そこで人間界から王国へおまえを一人、戻らせたのさ。あの念波を送ったのは、実は私なのよ」
「……あなたが『ラクレス』たちの仲間になったことは分かっていた。人間界に「昆虫人」を送還出来るのは、私たち虹色テントウの一族だけ、でも信じたくなかった。お母様はあなたを救うため『虹のしずく』を封印したのよ。そしてもう一人、あなたにコマンドを書き込むことのできる、女王様の命も救うために」
あのままでは『リンリン』は『ラクレス』にとって、なんの利用価値もない存在だったのだ。
(私は、関係のない私たちのために、なっぴに危険な目に遭わせている、何のためになっぴは戦わなければならないのか、そう私はずっとそう思っていた……)
彼女は両手を胸の前で交差させた。王国に戻った今、もう寄り代は必要ない。『虹のしずく』が彼女の身体のシナプスにコマンドを直接シンクロさせた。
「メタモルフォーゼ・レインボー!」
虹色テントウの『テンテン』が、戦士として今、立ち上がった。
「やる気ね。だけど『漆黒テントウ』の私に勝てるかしら?」
『リンリン』が頭上に右手を挙げて指を開いて叫んだ。
「メタモルフォーゼ・ブラック!」
霧の中から現れたのは、『テンテン』の双子の妹『リンリン』。深紅の胸と肩を除き、漆黒のコマンドスーツに身を包んだ『ブラック』だった。
「セットアップ、『ブラック・ソード』」
刃まで黒い細いソードを抜き、『ブラック』は『テンテン』にゆっくりと振りかざした。




