別れの時
ギラファの出した雷により気を失い、落下する彼女の肩を抱えたのは、たいすけだった。屋上に降りると彼はオレンジ色の翼をたたんだ。
「なっぴ、良くやった。ここからは俺が変わろう」
彼はそう言うと、両腕に抱えていたなっぴをそっとおろした。
「た、たいすけ……」
なっぴはそう言うとまた、気を失った。彼は『ギラファ』に向かって叫んだ。
「『ドルク』召還、メタモルフォーゼ」
メタモルフォーゼをした、その彼の姿を見て、『テンテン』も『ギラファ』も同時に叫ぶ。
「『ドルク』貴様生きていたのか……」
「『バイス』何故人間界に……」
二つの名を叫んだ二人は顔を見合わせた。『テンテン』は『バイス』のもうひとつの名前を今知ったのだ。
「人間界に来れるということは、貴様も虹のかけらを」
「勝手に想像しろ、俺と戦うか、それとも尻尾を巻くかっ!」
さらに太い大アゴを開き、『ドルク』は『ギラファ』を威嚇した。
「どうやら、王子が生きているのは本当らしい。だがな、そろそろ『イト』の封印は解ける。もうわしたちが人間界に来る必要はないのだ。お前とは、必ず決着を付けてやる。それうすればが俺が『アギト』の『寄り代』になれる」
「お前が『アギト』を扱えるものか、『アギト』は……」
「フフン、この小娘も命拾いしたな。もう会うこともないが、さらばだ」
『ギラファ』は瞬時に消えた。気が付いたなっぴは、気をきかせてプログラムをシャットダウンした。
教室の電球が落下したときに、窓に貼付いていたのは、虹の村の「水草」だった。それにコマンドがコピーされていたのだ。それをくっつけたまま、なっぴはたいすけの病院に持ち込んだのだ。度重なるB・ソルジャーとの戦いに、たいすけが巻き込まれていたのは、実は彼が覚醒するための試練だったのだ。
「彼の元へ、赤いカブトムシが送還されたのは、王子が無事に羽化された時だ。だから今までは、私を召還出来なかった。長いこと苦労をかけたな『テンテン』」
「バチーン」
『テンテン』の平手が彼に飛んだ。その手を握り、引き寄せ『ドルク』は彼女を抱き寄せた。
「今迄、怖かったんだからね、人間界に来て、なっぴと一緒にあいつらと……」
「ああ、知ってる。ずっと『ビートラ』が伝えてくれていた。何もできなかったことをどんなに悔やんでいたことか……」
「あのう、ラブラブの途中ですが、ちょっといいですか?」
まっ赤になった『テンテン』が可愛らしかった。
「由美子は、フローラルはどうしていますか?」
「ああ、見違えるように強くそして美しくなられた。やがて王子にお会いなさるだろう」
なっぴはそれを聞くと安心した。
「しかし、『イト』の封印を解かれては、もう我々だけでは勝てない。七龍刀が全て揃わねばならない。『テンテン』もう言わなくても分かるな」
「ええ、なっぴ。お別れの時が来たわ」
「戻るの、王国へ」
「『ギラファ』が言っていたでしょ。『アギト』と『イオ』の力を手に入れたあと『ラクレス』たちは、この人間界を確実に襲ってくる。なんとか食い止めないと、もう王国だけの問題じゃなくなるのよ」
「さあ、いくぞ。『テンテン』」
「はい」
『赤いカブトムシ』がたいすけから抜け出て来た。彼はその場で気を失った。
「なっぴ、今まで危険な目に遭わせてごめんね。私のコマンドもやがて消える、さあ行きましょう『バイス』私たちの国へ」
彼女は何も言わず見送るしかない。なっぴからはなれた『テンテン』は『赤いカブトムシ』を右手にかかえると七色の星をつけた。さやバネを開き、薄い羽根を開くとふわりと宙に浮き、やがて空に吸い込まれていった。なっぴは、意識を失い、その場に座り込んだ。
「私があなたに着床するのは、最初から決まっていたの。それは決して偶然じゃないの。何故あなたが選ばれたかは、私もよくは知らないけれど……」
扉に吸い込まれる前に振り返った彼女の眼に、普通の小学三年生に戻っていたなっぴが映った。




