戦う理由
「ひとつ、聞いてもいい」
「何だ?」
「『ラクレス』は王国に戻った『テンテン』をどうするつもりなの?」
「さあ、それはわしにも分からない、さあ、『虹色テントウ』を渡せ」
なっぴは『ギラファ』の差し出した手を、ぴしゃりとはたくと、立ち上がった。
『ギラファ』は大アゴを大きく開き、なっぴの意志をもう一度確認した。
「戦う理由などないのだぞ……」
「助けを求めている人がいる、だから戦う。理由はそれだけで十分でしょ」
「バカな、そんな身体で」
なっぴは再び立ち上がった。『ギラファ』は今までで、最も恐ろしい相手に違いない。
「『テンテン』召還、メタモルフォーゼ・レインボー」
だがもう、なっぴの身体は少しもふらついてはいなかった。
「なっぴ、その身体で戦うの?」
メタモルフォーゼした身体は、急成長をする。しかし基本は小学生だ、由美子とは体力が違う。『ギラファ』の大アゴの攻撃をかわすので精一杯だ。しかも武器となった『バイス』のくれたオモチャはすでに底をついているのだ。
(『バイオレット・キュー』で戦うしかない。そうだ、セットアップしてみよう)
「セッアップ、イエロー・ブンブン、グリーン・ヨーヨー、オレンジ・クラッカー!」
それぞれに転がっていたオモチャが、キューに吸い寄せられていった。
「なんて綺麗なのかしら……」
バイオレット・キューは黄、緑、橙のかけらを中に納めて紫色に輝きを増した。
「残ったのはやはり、インディゴね。もうオモチャはないし、一体どこに?」
ひとつづつ色を失い、空っぽになった虹色のカプセルは、くすんだ空箱になっていた。残ったひとつの色、その空箱はまさしくインディゴカラーだった。
「なっぴ、七つ目のインディゴはこれよ、おもちゃ箱もセットアップしてみて」
「分かった、セットアップ、インディゴのおもちゃ箱!」
『テンテン』の言う通りだった。箱は藍色のかけらとなり、バイオレット・キューの最後のスペースに収まった。光はさらに増し、やがて放出を止め今度は『紫色の光』がキューに吸い込まれていく。
「これは、伝説の七龍刀のひとつ」
『テンテン』はそうつぶやいた。
「うぬ、紫龍刀がこんなところに、やはりあの男が隠していたのか」
その言葉を聞いて、『テンテン』は「きっ」と「ギラファ」をにらんだ。
「あなたたちが、『バイス』を襲ったのね」
「『バイス』?名前は知らぬが、カブト国からこれを持ち出した、ヒラタの息子を殺したのは俺たちさ。あいつがこんなところに隠していたとはな。見つからないはずだ、滝壺に突き落としたから生きてはいないはずだが」
「彼は生きている、そして王子を守っている。王国はあなたたちには絶対に渡さない」
それはなっぴの声だった。キューを握り直し、『ギラファ』に突きつけた。
「めざめよ!、紫龍刀。『バイオレット・ランス』」
なっぴはシナプスのコマンドの中にあった、紫龍刀に関するコマンドを叫んだ。
手応えがあった。キューは打突部に紫の原石が『やじり』となり装着された。
「紫龍刀を持つ以上、お前は殺す。それは王国のものだ」
『ギラファ』はそれを言い終えないうちに、なっぴに跳びかかった。
彼女は飛び上がってよけた。勢い余って彼の大アゴはコンクリートの床を、まるでヨウカンのように切り取った。
「ふん、俺の大アゴをいつまでかわせるかな、それっ、それっ」
その度にうまくかわすなっぴ、しかしこのままではどうしようもない。なっぴは打って出た。
「バッタ召還、セット・アップ・グラス・ホッパー」
なっぴはバッタの足で高く飛び上がった、空中で大車輪をして、『ギラファ』の頭を狙った。しかしそこにすでに相手はいなかった。
「残念だが、二度は引っ掛からないぞ」
なっぴは降下しながら、襲ってくる『ギラファ』の大アゴを何度も避けていた。
「ヤンマ召還、バイオレット・ウイング」
トビヤンマの羽根を得て、なっぴは空中で静止した。しかし『ギラファ』は余裕だった。彼は身体の中に、虹のしずくをひとつ隠し持っていたのだ。
「見せてやろう、虹の村で手にした、これが虹のしずくの力だ」
たちどころに暗雲がたちのぼった、遠くから雷が近づく。その稲妻がなっぴを狙った。凄まじい衝撃がなっぴのすぐ横を抜ける。なっぴは気を失った。
「なっぴ、落ちる、目を覚まして、なっぴ」
「ふふん、所詮は寄り代。粉々に砕けてしまえ!」
さらに強力な稲妻が、落下していくなっぴを狙って放たれた。コマンダーの中の『テンテン』にはもう、なす術がない。『テンテン』は母の『メイメイ』に詫びた。
「お母様、もはやこれまでです。なっぴごめんなさい…」
その時なっぴの身体がふわりと浮いた。その横を間一髪、稲妻がすり抜けていった。




