黒の森
「由美子、もうすっかり良くなったわね」
フローラ国の女王は、由美子の肩に当てていた手を離した。その母に由美子は礼を言った。
「ありがとう、すっかり肩が軽くなったわ。これでまた戦える」
女王は、由美子の手を取って立ち上がり、城の最上階からフローラ国を見せた。
「ご覧なさい、もうあんなに花が咲いている。みんなのおかげです、もう心配はいりません」
女王は、由美子にそう言った。フローラは黒の森の『ダゴス』『ハガネ』それに『国民たち』により、『ラクレス』たちを一切寄せ付けないだろう、と女王は最後につけくわえた。
「由美子、空からでは危険だわ、カラスヤンマがすぐにやってくる。制空権は残念だけど戻っていないの、黒の森からエビネ国へ入り、エビネ池から虹の村に入ればいいでしょう」
「ありがとう、母、いえ女王、行ってきます」
「気をつけなさい。『ラクレス』たちもきっと虹の村に集まる。無理はしないのよ」
「うん、わかったわ。でもね、なっぴも頑張ってるのよ、まだ会ったこともない、王国の皆のために命がけでね」
「そうだったわね、今度王国に招待したら?」
「うん、そうするつもり。王国がちゃんと元通りにになったらね」
『天羽の羽根』を使って、ふわりと由美子が宙に浮かんだ。
彼女が訪れた黒の森は以前よりも少し明るくなっていた。所々丸く木が切られていて、櫓が組んであり、見張りがいた。長い木が曲げてあり、クモの糸で編んだ網や、石がくくりつけられているものもある。至る所に対ラクレスの工夫がされている。
「まるで、要塞だろう。由美子、いやフローラル・由美子」
由美子は懐かしい、『ダゴス』の声に振り返った。
「おお、見違えるように美しくなったな、人間界での活躍も聞いているぞ」
「本当に要塞みたいにしてあるのね、これなら『ラクレス』たちも簡単には攻めて来れないわ。素晴らしいわ、さすが『ダゴス』」
「これを考えたのは『大臣』と『ハガネ』だがな」
「そう言えば、二人が見えないわね?」
「スズメバチたちを倒した後、『大臣』はこの国から消えた。おそらくロゼ女王が心配なのだろう、キングが『ギリーバ』に殺されたと聞いているからな」
「『ハガネ』は?」
「ああ、あいつはエビネに向かったよ。『大臣』に何か大切なことを頼まれて」
「そうなの、じゃあそこで会えるわね」
「そうだ、この中に新しいコマンドスーツがある、あいつのことづてだ」
彼女は、新しい空色のカプセルを受け取った。それは人間界のものとは違い、王国に合ったものだ。
「さあ、この道を行け」
由美子は地下道に案内された。エビネ国へ通じるこの道は、秘密の道で、ことさら重要な道だ。スズメバチの『キール』を仕留めたクモ族一の勇者『ドモン』が案内した。
「あなたの怪我の痕もすっかり無くなったわね、よかった」
「ああ、まだ少し短いが、そのうちに左右の前足の長さも揃う。それより、由美子、本当に無事で良かった。早く『ハガネ』に会いたいだろうな?」
そう聞かれると彼女は少し間をあけたあと、ぽつりと言った。
「私が会いたかったのは……」
「そうだ、もうひとり由美子に会いたいヤツが、この先に待っている」
ちょうどエビネ国との境界に来た。そこは昼のように明るい、幾つもの天井の穴が地上まで続き、陽射しを十分に取り込んでいて、花さえ咲いている。地下の花畑だ。守備隊はカナブンやハナムグリ、ハチなどで編成されているので、花畑は必要だ。その中央の広場には一人の男が立っている。その男は、由美子を見るとこう言って振り向いた。
「かかってこい、フローラル・由美子」
それは紛れもない、由美子の肩を射抜いた『ピッカー』だった。
「まさかこんなことが…」
周りの守備隊は棒のように立っていた。すでにここは占拠されているのか? 驚く由美子に彼は隙のない『アンガルド』を決めた。




