第三の刺客
「次の使命は、人間界へ行けか。二人ともやられたなんて信じられんが、よっぽど油断したのだろうな」キングを倒した彼は、今度は『人間界』に行けと命じられた。
「違うわ、あいつら結構強いのよ。私も手伝おうかな?」
リンリンがいつの間にか、彼の側にきていた。
「ふん、お前は『スタッグ』にやらせることがあるだろう。この俺がやられるとでも思っているのか」
『ギリーバ』はムチのように触覚を振り回して、『ブラック』の手助けを断った。
「あーあ、『あいつ』の最後がみたかったのになぁ。まあ、がんばってね」
『リンリン』は『ギリーバ』を人間界へ送り出した。
「何故、虹色テントウを『ラクレス』様は恐れているのだろうか?『ブラック』を使って何をなさるつもりなのか、いや考えまい。余計なことを考えれば頭が締め付けられるように痛くなるからな」
『ブラック』は、一度彼を送還した後、元に戻すため、再び人間界に行かなければならなかった。
「もー、面倒くさい。『虹のしずく』を取り返さないと不便だわ」
翌日の午後から由美子は学校を早退した。肩の傷の治療を優先し「ゴールデン・ウィーク」を使って、フローラ国に帰ることになった。本当は王国の危機を聞いた由美子はじっとしてはいられなかったのだ。
「由美子、気をつけてね」
「なっぴ、一人で大丈夫?」
「平気よ、それよりも王国には『ラクレス』がいるんでしょ。大丈夫かなあ」
「力を合わせて戦っているみんなを、私が勇気づけてくるわね」
「うん、そうだ。『テンテン』が頑張ってるって『ただの知り合い』の『バイス』に忘れずに伝えてね。きっとよ、由美子」
「はあん?何それ!」
『テンテン』が本気で怒った。
午後の授業は音楽だった。ピアノを上手に弾く、美奈子先生だ。
「由美子、もう着いてるころだろうな、あれぇ……」
なっぴはピアノの音が、急に小さくそして遠くなったような気がした。
「バーン」
美奈子先生が、ピアノの鍵盤にうつぶせに倒れた。
「先生!」
立ち上がったのは、なっぴだけだ。たいすけもマイもそしてクラスのみんなも、次々と机にうつぶせになって倒れていく、ピアノの音に神経を狂わされたのだった。
「なっぴ、『ヒグラシの耳』のおかげね、危ないところだったわ」
蝉は、決まった周波数の音に反応して遠距離でも仲間を捜す。『ヒグラシの耳』はいち早く、ピアノの音に仕込まれていた不協和音の組み合わせが、人の神経を狂わし、『ラクレス』の思い通りに操るものだと聞き分けた。『ヒグラシの耳』のフィルターが即時に働き、その呪術から、なっぴを守ったのだ。頃合いに初夏の風に乗り、開いた教室の窓から一匹のカミキリムシが教室に入って来た。
「ほほう、なかなかいい耳をしている。『ヒグラシの耳』か」
黒い煙に包まれて、巨大化したシロスジカミキリが、足下まで伸びる二本の触覚を交互に回しながら、なっぴの前に現れた。『ギリーバ』に違いない、今までの『ヤツ』とは違い、ゆっくり近づいてくる。
「さあ、メタモルフォーゼしろ。楽しもうぜ、ふふふふっ」
「いくわよ、『テンテン』着装。メタモルフォーゼ・レインボー」
「一騎打ちだと、俺も舐められたものだな。あの世で後悔しな!」
『ギリーバ』は触覚を一度ムチのようにしならせた。二本の触覚が、同時になっぴを襲った。一瞬でなっぴの前の机が砕け散った。
「こいつ、強いわ。今までの敵に比べ、倍のパワーを持っているわ」
そう『テンテン』がコマンダーからなっぴに伝えた。肩の虹色のカプセルから、彼女はグリーンのオモチャをひとつ取り出した。
「由美子、頑張ってね。こっちも負けないから、えーい」
なっぴは握りしめた、その『ヨーヨー』を『ギリーバ』に投げつけた。
「キン」
扇風機のように高速に回す『ギリーバ』の触覚が、それを簡単にはじく。
「こいつ、ようし」
なっぴはカプセルから他にも使えそうなものを探した。
「あと残っているものは……こいつとこいつか、こりゃ何だろう?」
どんぐり型の黄色いコマがでて来た。
「ブンブンごまみたいね、それって……」
『テンテン』がため息混じりで、そう言った。
『ギリーバ』に近づけず、ひとり苦戦をしていなっぴ。しかし、由美子も王国で、次の戦いに加わっていた。




