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なっぴの昆虫王国  作者: 黒瀬新吉
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虹の村から

 「傷がなかなか治らないわね。あいつ毒でも塗っていたんじゃない?」

人間界での由美子は肩の傷がなかなか癒えない、なっぴは心配だった。


 「このオモチャたち、ひょっとして? ううんそんな馬鹿なことないわよね」

テンテンはおもちゃ箱をひっくり返した。なっぴが使ったオモチャは輝きを取り戻し、光り輝いている。『テンテン』は『ヴアィオレット・キュー』を『レッド・ジャイロ』に近づけてみた。すると『レッド・ジャイロ』は突然、キューの柄にある最下部の穴に吸い込まれた。

「やっぱり、そうなんだ」

今度は『ブルー・メラン』を近づけて、それを確かめるとなっぴに話した。

「なっぴ、これはこうしてオモチャに変えてあるけど、王国を救った伝説の勇者が持っていたランス。『レインボー・ランス』よ、一度使ったオモチャはこうしてキューに集まっていくのね。あと四つの穴に集まった時、このキューが『レインボー・ランス』になるんだわ」

「それって、カッコいい武器かしらね」

「残念だけど、基本は『ヴアィオレット・キュー』と同じだと思うわ」

「私は由美子のソードの方がいいな」

「じゃあ、取り替えっこしましょうか?」

「こら、二人とも調子に乗って、何言ってるの。取り替えたってお互いに、使えはしないわ。それに……」


 そう言いかけた『テンテン』に、女王『ロゼ』から連絡が入った。通信はほんの少しだけで途切れてしまった。さっそく彼女はそれを二人に話さなければならなかった。

「女王様は、城に幽閉されています。ほんの少しでも通信ができたのは奇跡です」

『テンテン』は辛い話しをこう二人に切り出した。

「カブト国の王『キング』は、B・ソルジャー『ギリーラ』に殺されました。女王は城に幽閉。国民を人質にされたため、『メタモルフォーゼ・プログラム』のコマンドを、やむなくコピーされました。人間界にB・ソルジャーが現れることができるようになったのはそのためです。王国を狙う『ラクレス』たちの目的は、エビネ池の底に眠る『イト』を引き上げ、その封印を解くことです」


 『テンテン』は、女王があえて触れなかった部分、『メタモルフォーゼ・プログラム』のコマンドをコピーした相手が誰なのかすぐ分かった。

(リンリン、良かった。生きていたのね……)

王国最大の危機より、妹の無事を喜んでいる自分がそこにいた。

「『テンテン』、『イト』について知っていることを教えて」

そう言ったのは、由美子だった。フローラ国に『イト』のことは何も伝えられていない。ただ断片的に伝わるのは、勇者は暴君『イオ』を倒すときに現れた、と言うことだ。そのあと姿を見たものはない。そんな伝説だけが残っている。彼女ががそれを話そうとした時、もうひとつ別の『念波』が届いた。虹の村の『メイメイ』の『念波』に間違いない。『テンテン』は両目をつぶり額に念を集めた。念波をすべて受け取ると、彼女はその場に倒れた。いま『テンテン』に『メイメイ』が憑依した、念波が次第に『メイメイ』の形を作った。それはゆっくりと正気に戻ったテンテンとなっぴ、そして由美子に話しだした。


 「こんにちは、なっぴ、思った通りのお嬢さんね。そしてあなたがフローラル・由美子、フローラ女王にそっくりね。そうそう相づちはいらないわ、これは念波だから」

『メイメイ』が伝えたのは良い知らせからだった。王子が無事なこと、エビネ国の『サキ』女王が虹の村にいること、二人を守っているのはあの『バイス』だと言うことだった。

「『バイス』が虹の村に来ているの!」

『テンテン』は思わず声を上げて、あわてて口を押さえた。悪い知らせは、キングが殺されてしまったこと、次に人間界に行くのはその憎き『ギリーバ』に違いないこと、やがて虹の村に『ラクレス』が現れるだろうということだった。『イト』の封印を解くつもりだ、どうやら『アギト』と『イオ』についてもかなり調べているらしいということだった。


 「『バイス』が言っていたわ、『テンテン』なら、このオモチャの秘密を解けるって。王子は大丈夫だから、心配しないでくれって。それから……」

そこで念波は途絶えた。それが『ラクレス』の妨害かそれとも「メイメイ」の疲れからなのかそれは不明だった。


 「ねえ、『テンテン』、『バイス』『って誰?」

「『イト』とは……」

「ねえ、彼氏?」

「『イオ』と『アギト』がひとつになったものを言うの……」

「ねえってば」

「ただの知り合い。なっぴ、聞かないなら話さないわよ!」

「その封印を解くってことは。王国中大変なことになるじゃない」

なっぴは、ちゃんと聞いていたと言わんばかりに、そう言った

「虹の村にカブト国の王子がいるってことが知れたら『ラクレス』たちが、村を攻撃するってことでしょ。『テンテン』、虹の村は大丈夫かしら」

由美子は心配そうにそう言った。

「きっと大丈夫、きっと……」

『テンテン』はまるで、自分に言い聞かせるようにそう由美子に答えた。


 その夜『テンテン』は、なっぴの部屋から外の月を一晩中見ていた。『王国』に人間のなっぴを、まさか連れて行く訳にはいかない。

「あの夜、虹の村で見た月よりも、ちょっぴり小さいな……」

彼女はそっとつぶやいた。今できるのは、みんなの無事を祈るだけだった。なっぴは、背中にそれを感じながらやがて静かに眠った。


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