勇者「ドルク」
「お前に続いて、私たちも城をすぐ脱出しました。案の定、『ラクレス』配下の『チスイ』と言うタイコウチがこの国を治める様に派遣されてきました」
「サキ」の話しを今度は「ゲンゴ」が続けた。
「『チスイ』は早速あなたを『兄殺しの凶悪犯』として、王国中に手配書しました。女王は、共謀者として国内だけのお尋ね者としてですが」
「『イト』のことを他国に知れてはならなかったのでしょう。『ゲンゴ』のおかげで、城の水牢に入り、以前から服役している老婆に成り済ましていたのです」
彼女はそういい『ゲンゴ』を褒めた。
「いえ、私は全速力でこの城の水牢に女王を運んだだけですから、水中では私のスピードにかなうものはいませんから」
「そして『サギリ』には、私の『イト』の力を少し吸い取ってもらって、『イト』が外へ漏れないよう用心して今日までここに入っていたのです」
「『チスイ』は私が倒したのだが『ギラファ』が次にこの国に来た時、この城の堀の水を止めてしまった。そのため女王に苦労をさせてしまった」
「何をいうのです、『ドルク』。あなたの計画通りに動いたから、『スタッグ』に会えたのです」
「あのう、わたしのことも……」
「もちろん。『ケンザ』は毎日この城を訪れて、『ドルク』の連絡を私に伝えてくれました。その中には、哀しいこともありましたが」
「哀しい知らせ?」
『スタッグ』は女王に尋ねた。
「カブト国であなたが捕まり、『ギラファ』の指図で死刑を宣告されたことや、その後脱獄し、『ラクレス』の配下になったことも知っていました」
「だが、『イト』の力は異国の呪術など、恐るるに足らぬ、やがて解き放つはずだ、と女王は笑っていらっしゃったのだよ。それよりも女王……」
『ドルク』は沈んだ面持ちでこう伝えた。
「カブト国の王キングがヤツらに殺されました。それもだまし討ちで、キングを殺したのは『B・ソルジャー』の仕業です」
「ギリーバ……か」
『スタッグ』が『ドルク』より先にその名をつぶやいた。
「ギリーバのことをお前は知っているの?」
「ええ、一度キングに捕まった凶暴なヤツです。死刑の前に脱獄したのですが、『ギラファ』に黒葡萄酒を飲まされ、『ラクレス』の配下に加わったのです」
「というと、他にもいるのですね」
「オオスズメバチの『ピッカー』、オオカマキリの『ガマギュラス』、シロスジカミキリの『ギリーバ』私と一緒に黒葡萄酒を飲まされたのはこれだけです。『ラクレス』は、もう一人つれてこいと『ギラファ』に命じていました。そいつがどうしても必要だと、それが誰でどこにいるのかまでは分かりません」
「この国に現れたのは、タイコウチの『チスイ』、フローラ国では『ピッカー』の弟『キール』が黒の森の『ダゴス』によって倒された。しかしまだまだ増えるかも知れない……」
そのあと『ドルク』は『ギリーバ』が『チスイ』の代わりにこの国に着任することを告げた。そして『イト』を地上に引き上げる計画についても聞き出していた。ただ黙って聞いている『スタッグ』は少し妙な気がした。強いだけの印象だった『ドルク』が、頭の切れる、策士のようにも思える。なおも彼は話しを続けた。
「良い知らせがあります、カブト国の女王は幽閉されていますが、ご無事です。フローラ国の女王は『ハガネ』に守られて、黒の森に入られました」
(違う、この男は『ドルク』では決してない。じゃあいったい何者なんだ?)




