目的
三日後、見違えるほどの飴色の『スタッグ』が城に戻った。
「『スタッグ』、良く帰ってきてくれた。なんと素晴らしい身体ではないか」
あまりの変化に内心『しまった』と『ヴアッカス』は後悔した。これでは即位の後ですり替わることは、もう無理だった。
体色の変化は実は機転を利かせたギンヤンマが行ったのだ。先王『フック』が『イト』の力で、体色をも変えたのを見ていたのだ。彼はその例に習い飴色の結晶を『イト』の前にそっと置いていたのだ。当然『イト』のほらには『スタッグ』が来るだろうと思っていた。
この国を支えるのは彼しかいないと、『フック』も話していた。理由は彼の強さと優しさだ。兄には、優しさが少し足りないと嘆いていた。しかし、次期王は『ヴアッカス』だという。しかし案の定、ここまで危険を冒してやって来たのは『ヴアッカス』ではない。だが彼は嬉しくはなかった、得体の知れない何かが、エビネの城に巣くっているように思えた。
「『イト』よ『スタッグ』様をお守りください」
ほらを出て城に向かおうとする、『スタッグ』の後ろ姿が、『イト』の光で飴色に光った。
「『スタッグ』の身体が、あんなになってしまっては、すり替わるのは無理だな。さて、どうするか」
急遽計画は修正しなければならない、そこへ女王『サキ』が連れてこられた。
「放しなさい、放せと言うのに……」
「どうされた、母上。明日は即位の式と言うのに、そんな大声を上げて」
『サキ』を強引に部屋に入れると、扉が閉められた。部屋には副大臣も座っていた。彼は立ち上がると、彼女にゆっくり放した。
「女王、用件は分かっていると思うが。もう一度言う」
小声でゆっくりと話しを続けた。
「『イト』の封印を解いてもらえまいか」
「何度いわせるのです『イト』の封印を解くなどもってのほか、あなた方は何をしようとしているのか知っているのですか。二度と取り返しのつかないことになります」
「『イト』とはひとつのモノではない。正しくは『イオ』と『アギト』、この二つの「闘神」のことだ。『アギト』と『イオ』その二つが融合したモノ、それを『イト』とこの王国では呼ぶ。『イト』の封印を解くことはすなわち『イオ』と『アギト』をふたたび王国に解放すること、大いなる災いをこの国に起こすこととなる」
副大臣は、王国の伝説をゆっくり読み上げた。
(彼らはどこまで知っているのだ……)
そろそろ王子も休眠を迎えるだろう。ならばここで私が死んでしまえば、永遠に『イト』は封印されたまま、そう思った『サキ』は覚悟を決めた。
「『アギト』をあやつれるとでも本気で思っているの? 異国のカブト一匹に!」
「『アギト』猛るところ『イオ』降臨す。譲らず百夜百朝、決着の日、虹の勇者空に立つ」
女王は、気を失いそうだった。『ラクレス』の目的は、自らが「虹の勇者」として二つの「闘神」を従えることではないか。伝説の勇者は『イオ』と『アギト』をこの国に封印した。そしてその「虹の力」を各国に分散したのだ。
「分かりました、『アギト』の寄り代として選んだのが、『ヴアッカス』なのでしょう」
「ご明答、ついでに教えといてやろう。『イオ』の寄り代は異国にいる。そして『ラクレス』様は「虹の勇者」の寄り代になるのさ」
『サキ』にそう言って近づいたのは、『ヴアッカス』だった。
「お前だったの、『ヴアッカス』。『ドルク』を殺したのは……」
「計画を邪魔しようとしたからだ。俺に油断した瞬間にな、そうでもなければとても殺せなかった。親父は俺を捉えて最後まで考え直せと言っていた。それを後ろから……」
「『フック』が簡単に取り込めなかったのは、『イト』のもつ、あのいまいましい力のせいさ」
副大臣が「ギラファ」の姿になった。その左手に小瓶を持ってにやりと笑った。




