ラッサンブレ・サリューエ
勝ち誇った彼に風切り音が聞こえた。
「何の音だ?」
彼の背後から青い飛び道具『ブルー・メラン』が戻ってきた。
「ぐあっ!」
彼は羽の一枚がちぎれとび、バランスを崩した。それでも、なんとか地面に降り立った。
「えーい」
頭をめがけて大上段からなっぴのキューが振り下ろされた。彼は反射的に腕を交差してそれを止めようとした。しかしそのキューは斜めに降ろされ彼の肩の辺りから急に真横へと動きを変えた。
「ぐわーん」
横なぐりに殴られた衝撃がしばらく続いた。立ち上がった彼は、絶望的な声を聞いた。
「レインボー・ショット」
なっぴはキューをもう一度突いた。
「バキッ」
『ピッカー』を突いた一撃は、彼の針を見事に砕きその胸を打突した。テンテンの声がひびく。
「なっぴ、デリートしなさい。『ピッカー』のパワー、三十六パーセント」
地面に降りたなっぴはキューを納めると、右の腰に手を近づけた。
「セット・アップ・デリート・ガン」
なっぴはするりと『デリート・ガン』を抜き、コマンドを言った。
「アイ・トランスファー・イット・トウ・ザ・キングダム。王国にお帰り」
七色の光が『デリート・ガン』から照射された。霧に包まれた彼に由美子が声をかけた。
「ラッサンブレ・サリューエ(試合終了)。もう戦わなくていいのよ」
「そうか……、いつかもう一度、俺と手合わせして欲しいな、フローラル・由美子……」
『ピッカー』が消え去ったのと同時に、クラスの仲間が、グランドに集合した。でも残念ながら昼休みは、ドッジボールができるほどには、もう残っていなかった。仕方なくそれからサッカーに変更された。マイがすまなそうに、なっぴに言った。
「ごめん、私、給食食べたらなんだか眠くなっちゃって……」
「いいのよ、マイ。またやりましょうね、こてんぱんにしてあげるわ、えへへへっ」
笑顔のなっぴと違って、由美子は少し顔を曇らせていた。彼女の中にある『ヨミの棺』がマイに心を許してはいけないと伝え続けていたからだ。しかしその訳は由美子には解らなかった。
しかし、なっぴもそして「テンテン」さえ「マイ」の正体についてはもちろん、王国の危機については、まだ気付いていない様だった。
「ふふふっ、まずは成功だわ。『ピッカー』のひと刺しは、じわじわ効くわよ、フローラ国の王女様。次に呼ぶのは、王さえ殺した『あいつ』だから、せいぜい苦しんで死んでちょうだいね」
マイは王国の「ラクレス」に報告した後、そう言った。




