苦戦するなっぴ
「いくわよ、『バイオレット・キュー』セット・アップ」
なっぴは左肩に手のひらをかざして『バイオレット・キュー』を取り出した。
「お前には、俺の技はもったいないわ」
『ピッカー』は襟元の剛毛を毒針に変形させて、なっぴに放った。
「気をつけてなっぴ、それは猛毒の針よ」
「任せて、『レッド・ジャイロ・スパイラル』!」
彼女は、キューを回転させ、前方の毒針をはじき飛ばしながら、上空の竹とんぼを再び呼び戻した。それは回転を続けながら、猛スピードでキューに取り込まれていった。その回転の渦で『ピッカー』の毒針は、全てたたき落とされていった。
「巧い!なっぴ」
由美子が声を上げた。肩の傷はかなり深いが、コマンドスーツは徐々にその傷を塞いでいく。
「ほう、ならばこれはどうだっ!」
『ピッカー』は今度は空に飛び上がる。なっぴは滞空はできないと彼は判断したのだ。そして右腕を巨大な針にかえると一気に突き進んで来た。
「なっぴ、ヤンマを召還、着装しなさい。コマンドは『ヴァイオレット』よ」
「分かった、でもその前にもうひとつ。えいっ」
なっぴは急降下してくる『ピッカー』に青い道具を投げつける。彼は首を傾げてそれをかわす。
「どこを狙っている、フフフッお前、震えているのか」
大きくそれたその飛び道具を『ピッカー』があざ笑った。
「ヤンマ召還、『ヴァイオレット・ウィング』
なっぴは、高速トビヤンマの羽をセット・アップして舞い上がった。
「ほほう、ヤンマを召還したのか。これで互角ってことか」
途中で目標に舞い上がられて、『ピッカー』は腕を組んだまま滞空した。
「いくぞ」
彼はなっぴの寸前で一度上に飛び上がり、右腕を振り下ろした。なっぴはそれをキューで受け止めた。跳ね上がった『ピッカー』の右手が斜めに振り下ろされる。それをかわしたとたん、反転した彼の右腕の針が跳ね上がり、なっぴの長い髪が少しちぎれる。恐ろしい速さの『ピッカー』の連続技だ。
「こっちも行くわよ」
なっぴは担いでいたキューを、勢いよく振りおろした。彼は堅い右の手の甲でそれを止めた。キューが跳ね上がった勢いを利用して、今度は握っていた柄の方を突き出し『ピッカー』ののどを突いた。
「うげっ、こ、こいつ棒術の達人か?」
おかえしにとばかりに連続技を決められ、『ピッカー』は思った。
「今のは、かなりのダメージを与えたでしょ、『テンテン』」
なっぴは、得意そうにコマンダーの中の『テンテン』に話した。
「まだまだ、あいつはかなり強いわ」
「それなら、こいつはどうだ」
『ピッカー』は無数の毒針を発射し、そのすぐ後ろから突撃して来た。まず最初の毒針の幕を払い落とさせて、油断した瞬間にひと突きにする作戦だ。
「この二段作戦で倒せなかったヤツはいない」
彼が思った通り、なっぴは毒針を払うのに精一杯だ。毒針の幕がやっと破れた時、その向こうに突然現れた『ピッカー』の顔が、なっぴを見てにやりと笑った。
「くくくっ、勝った……」




