由美子危うし
「ねえ、由美子。みんな給食まだ食べてるのかな?」
「変ねえ、誰も来ないわね。約束忘れちゃったのかなぁ」
給食を食べ終えた二人は、グランドでボールを持ったまま、友達を待っていた。
「待ち合わせかい、お嬢ちゃんたち。フフフフッ」
警戒色のスズメバチの昆虫人が、二人に声をかけた。
「その姿は、何者!」
由美子が一歩後ずさりした。
「B・ソルジャー『ピッカー』、お前たちの命を、もらいに来た」
第二の刺客『ピッカー』は、右手のリストバンドから鋭い槍を伸ばし、二人に近づいていった。
「いくわよ、なっぴ!メタモルフォーゼ・アゲハ」
由美子に続いてなっぴもテンテンを召還した。
「『テンテン』着装、メタモルフォーゼ・レインボー」
「俺は、カマキリとは違うぜ、さあかかって来な」
『ピッカー』は低く構えると、その一突きに込める気迫を二人に見せた。
「二人とも気をつけて、こいつは相当な槍の達人よ」
『テンテン』は構えを見ただけでそう感じた。
「知っている、フローラ国を襲った仇討ちよ。いくわよ、インディゴ・ソード」
由美子は、ソードを細く変形し「フェンシング」の『アンガルド』を決めた。
「Etes-vous Prêts?(エト・ヴ・プレ)用意はいいの?」
「Oui来な」
競技なら、攻撃権が移動するのだが、これは真剣勝負。有効、無効打の区別などない。刀を避けられなければ即、ラッサンブレ・サリューエ、試合終了だ。
「マルシェ」
由美子はかけ声とともに、突いた。お互いの技は相手に届かない、なっぴの目にも二人は互角に映った。しかし、それでは『ピッカー』は不満だった。
「こんな小娘に俺の技が通じないなどあり得ない」
しかし何度アタックしても、由美子は華麗にその『ラペ』をかわすのだった。
フローラで唯一残っている格闘技。貴婦人のたしなみとして『フェンシング』を由美子は女王に教えられていた。『ピッカー』の足元が少し滑り、グランドに尻餅をついた。由美子はソードを納めて『ピッカー』に背を向けた。彼はその隙を見逃しはしなかった。
(どんな手を使おうともこいつらを倒さねばならないのだ)
「うっ、卑怯者」
背を向けた瞬間、由美子の右肩を『ピッカー』の剣が貫く。由美子は肩を押さえて膝をついた。
「フッフッフ、すまんなフローラの王女様。俺は卑怯者のB・ソルジャーなんでなぁ」
彼の『ラペ』が両刃の『ラペ』に変形し、右肩を押さえた由美子に近づいた。
「なあに、すぐに楽にしてやる」
由美子に向かう『ラペ』はしかし、何かにはじかれた。
「カン」
「何だ、あれは?」
『ラペ』をはじいた竹とんぼが高く舞い上がった。彼が振り返ると、なっぴが次の竹とんぼを手のひらで、くるりくるりとすりあわせていた。
「本当に、オモチャばっかりなのね」
「でも、レッド・ジャイロっていい名前つけたわね、なっぴ」
「続けていくわよ、レッド・ジャイロ」
テンテンの玉手箱の中から、なっぴが選んだのは赤い竹とんぼだった。
「フン、こんなオモチャ」
思った通りだ、彼は『ラペ』を左右に振り、それを次々とまっぷたつにした。レッド・ジャイロはその度に少しずつ、彼の『虹のしずく』の力を吸収する。そしてそれは『バイオレット・キュー』に転送されていった。




